自己を掘り下げる
マスターは続けた。
「また、それは自分自身だけにしか感じることのできない固有の感覚や。
それは、頭でつじつまをあわせようとしたり、他人からどう評価されるかなどを気にし始めたりすると、偽物になってしまう。
やけど、その固有の感覚は、すべての〈こころ〉の根っこにある感覚でもある。
自分自身が何に喜びを感じるか。
そこに集中することや。
はじめは、長い間、たった一人でもそれをやり続ける。
自分の深い中に〈ほんもの〉を掘り続けるんや。
諦めることなくな。
気が付いたら、次第に大きな川がおこる様に、人々は君に巻き込まれていくやろう。
そして、ろうそくの炎が次々と灯っていくように、それは世界を照らす光となる。」
「やり続ければ、いつかどこかで自分を見てくれる人が現れるっていうことですか?」
ハルが訊く。
「それがいつかは分からへん。
ひょっとしたら、生きている間に、全く誰にも顧みられないまま埋もれてしまうことだって大いにある。
いや、君が死んで、その為したことだって全部跡形もなく灰燼に帰してしまっているかもしれへん。
永遠に君のことも、君の為した事業も作品も顧みられることなんてないかもしれへん。」
「そんな・・・。」
「それでも、君は君にとっての〈ほんもの〉を為し続けるんや。
しかし、君は君だけの中に閉じこもっていてはいけないのだ。
君の〈こころ〉の先にある、すべてとつながっている〈こころ〉に向けて。
開き続けるのだ。
ぶつけ続けるのだ。
孤独の深いところでしか、開けない大きな大きなつながりがある。」
「・・・おお・・・
世間での評価や理解などは、目的ではないとうことなのですね。
ああ、オレは生命だけを求めよう!
一本に熱く燃える、その生命だけを。
ただ、ただ、オレ自身の生命の燃焼だけを・・・!」
「〈永遠の君〉は、世界のすべてを一気に摩訶不思議な力で変化させようとは望まない。
人から人へ・・・その小さな生命のともしびによって伝えられることを望んでいるんや。」