在り方の軸
「大切なことは・・・」
ウミは続けた。
「絶えず人と人の間に、お互いに認め合おうという努力をしていくこと。」
「お互いに・・・認め合う。」
「独善的になるのをやめて、自分の世界観や価値観は、他の人からも認められて初めて、本当に価値のありうるものだと自覚すること。」
「じゃあ、人に認められる努力をしなきゃいけないってこと?」
「だけど、それは決して、自分の在り方を捨てて、人におもねたり、周りに流されることじゃないの。
自分を抑え込むということとは違う。
〈まこと〉を求めること。
そして、その〈まこと〉を自分と相手の深いところで認め合うこと。
自分の価値を主張しながら、それでもなお、それが相手からも認められてはじめてちゃんとした価値と言えるのだと自覚すること。
そのようにして、お互いに認め合えるような関係を築いていくことを自覚する〈善きこころ〉を持つこと。」
「〈善きこころ〉?」
「うん。
誰もが認めるであろう、価値のあること、つまり〈まこと〉のことを実現しようとするとき、そこにこそ自分の軸や〈あり方〉が定まってくるの。
この自分という軸が出来た時、初めて人は自由になれるの。
なぜかというと、自分の軸が出来ると、〈まこと〉を目指すことで誇りが生まれる。
そして、もしすぐに認められないにせよ、いつか必ず誰かが認めてくれると言うことを期待しながら、自分を信じて道を進むことが出来るの。」
「〈まこと〉か・・・。
〈まこと〉を目指して生きる中に、自分の在り方の軸が定まってくる・・・。」
「そう。
こうして、育ちも世界観も価値観も違う私たちが互いの〈こころ〉を突き合わせながら、互いの想いを受け止めあうことで見えてくるものもある。」
「ああ、そうだね。
きちんと分かろうとしてくれて嬉しいよ。」
「私は、みんなの考え方を聞いて、いつも自分はどうなのだろうと思うわ。
他の人を理解することで、また自分自身の理解も深まってくるのを感じているわ。」
とレイも嬉しそう。
「育った場所や環境が違っても、人間としての共通な思い、願い、感情は同じなんだなって気が付くよ。」
とソラ。
「ああ。
オレはオレだけの特別な環境の中で育ってきたと思っていた。
だけど、それは多かれ少なかれだれでも同じで・・・
だけど、みんな同じ共通の思いや気持ちがあるんだなって気が付いてきた。
そうすると、オレのこころは単なる一人ではなくて、「みんなのなかのひとり」と思える。
こころが、自分という意識から開かれた感じがするよ。
そして、オレはオレから自由になっていける。
人生の意味の物語がもういちど新しく書き直されていくことだってできそうだ。」