虎の威を借る
ウミは、言った。
「そう・・・肉体に同化した〈こころ〉は、我を生み出して、足掻くの。
ひとつめが、自分の殻に閉じこもること、ふたつめが、他の人たちを否定すること。
そして、次が、何か偉大なものとつながることなの。」
「偉大なものとつながる・・・それっていいことなんじゃないのかい?」
ソラが訊く。
「それは・・・権威のある人の近くにいるだけで、あたかも自分が凄い人間であるかのように錯覚してしまうことか。」
とハル。
「でも、いわば、それは『虎の威を借る狐』。
凄い人のそばに行き、その人に覚えてもらえたらそれだけで、自分がひとかどの人物だと思い込んでしまう・・・。
そして、そのことを周りにアピールして、すごいと言われたがるの。」
三人とも、思い当たる節があり嫌な汗が出てくるのを感じた。
「でも、どれだけ偉大な何かとつながろうとあがいたって、別にその人自身が偉大なわけじゃない。
ウミだって、ティラミスの姫だという肩書だけで、どれだけ偉く見られたことか・・・。
どこにでもいる普通の女の子だと思うの・・・。」
「いやいや、そんなおっちょこちょいな女の子はそうそうにはいないぜ!」
とハルがはやし立てる。
「もうっ!ハルったら!
でも、ウミよりも素敵な子なんてたくさんいるし、ただウミはたまたまこういう身分で生まれてきてしまっただけなの。
ウミ自身・・・昔は、自分が偉いのだと勘違いしていたことがあったわ。」
「まあ・・・ぼくも、実は、ただマスターの連れだっていうことがそれだけで誇りだったんだ。
特に自分で何かをしたわけじゃないのにね。
マスターに目をかけられただけで、何か自分が特別な存在のように思えて、鼻高々だった。
マスターが有名になって、ちやほやされればされるほどね。
・・・だけど、マスターなしで、自分の力で何かを成し遂げようとして・・・うまくいかないことばかり続いて、結局自分は何でもない人間にしか過ぎないって思うと、本当に落ち込んだなあ。」
「・・・みんなみんな、本当は人から認めて欲しいんだよね。」
「だったら、自分で自分を認めることだよ。」
とソラ。
「だけど、自分だけで自分の〈こころ〉を満たすことは限界がある。
人から現実として、認められることで初めてわたしたちは自分の〈こころ〉をちゃんと満足させられるようになるの。」
「でも、それがなかなかうまくいかないから人は苦しむんじゃないか。」
とハル。