批判すること
「ああ、私も孤独だったわ。」
レイが続ける。
「ただひとり、目が開けてしまった人間の孤独というものが分かって?
例えば・・・誰も知りもしないし今後も知りえないであろう世界最高の山の頂上に上り詰めて、それを誰も認識しない人間の孤独が分かる?
すべてをひっくり返すような誰も見つけたことのない偉大な発見をしたとしても、周りには誰一人いない。
誰も気が付いてくれる人はいないの。
・・・私の先祖たちは、あの島で、偉大な発見と事業を為して、そうやって誰にも気が付かれないまま、誰にも評価されないまま、闇から闇へと葬り去られていった。
名前を憶えている人なんて誰もいない。
私だって、全くご先祖様の名前も発見も知らないの・・・。
ただ、気が付いたら、知恵だけが与えられていた。
私だけが、見えるの。理解することが出来るの。
物事の理を。」
「レイ・・・」
「能力があること・・・天才であることはうらやましいと思う?
常に、天才というものには、孤独と痛みとが付きまとうのよ。」
レイは服を下げて、自分の胸に刺さった〈トゲ〉を見せた。
赤黒いトゲの周りを、痛々しく、血管が取り巻いている。
「これが・・・〈秘密の食べ物〉の代償。
わたしの〈トゲ〉の痛みを分かってくれる人など誰もいなかったわ。
いつもすました顔をしていたけど気が付かなかった?
次第に、私は、周りと話が合わなくなってきたわ。
話し相手が居なくなるの。
普通の人と話すのが苦痛でたまらなくなってくるの。
友達もいなくなった。
私はこう思うことにした。
自分が認められないのは、自分が悪いからではない。
周りがバカばっかりだからよ、とね。
私に論戦を挑んでくる人びとも、何も考えずに日々を漫然と過ごしている人も、
みんなと一緒であることに最高の価値を置く人も全部ダメなのだと見下していた。
彼らは、徒党を組んで、陰でいつも私のことに後ろ指をさす。
私は思うことにした。
彼らは、最終的には、滅びに定められた哀れな人びとで、最終的に勝つのは自分なのだ、とね。
そう言い続けることで、自分の価値を高めようとしていた。
・・・だけど、そうすればするほど、この〈トゲ〉は食い込み、痛み続ける一方なの。
人を批判したり、否定したりするだけでは、結局のところ自分の価値を認めることなんてできない。
・・・それは分かっている、分かっているのに、
この〈トゲ〉が私をそうさせていることに気が付くの。
・・・どう?
こう見えて、私って傲慢でしょ。」
うつむきながらレイは絞り出すように言った。
「レイ~!」
ウミは、そんなレイを抱きしめた。
「レイも苦しかったんだね。」
「ウミ・・・。」
レイは驚きながらも、自分の感情をどう表現していいか分からず、固まっていた。
「よして。私、そんな柄じゃないってば・・・。
多分、私はこれからも、そうだと思う。」
とはいいながらも、そのことがうれしくて、安心した。
そして、ウミを強く抱きしめ返した。