終わりのない旅
マスターは言った。
「無限に広がっていると思われている目に見える大宇宙もそれを覆う〈見えない世界〉も、やはり限りがある。
天も地も滅びる。
太陽は、はるか時間が経てば膨張し、この大地のすべては跡形もなくなるやろうな。
そして、気の遠くなるような長い時間をかけて、宇宙のすべてもまた、それが始まった時のように分解して無に帰するやろうな。
さらに上の次元にまで無数の層に広がっている〈見えない宇宙〉も、無数のダイモンたちの住む世界もいずれは消えてなくなる。
測り知れないほどの大きさがあるとはいえ、やはりそこには限界があるねん。」
「・・・そんな・・・。
じゃあ・・・。」
見える世界だけでなく、見えない世界もそのように滅び去ることを聞いて、ウミは絶望し、悲嘆にくれた。
「死んで無になることは恐ろしい。
だけど、死んで、その先に存在が残りダイモンたちと共に生きることが出来たとしても、その存在さえもいずれ無になってしまうのであれば、結局、同じこと・・・。」
「これらに比べて、自分の極近くにありながら見極めることのでけへんものがある。」
「・・・そんなものが、あるの?」
「それは、自分の〈こころ〉や。
〈こころ〉は限りなく細かく、小さい。
そして、すべての宇宙にどこまでも行きわたっている。
それが、わが〈はじめのこころ〉。
わが〈はじめのこころ〉こそは、考えることも議論することもできないほどとらえにくいもので、
あなたの〈こころ〉もまた広く、大きなものやねんで。
どんなに頭のいい人でも、爆発してしまいそうになるくらい、ヤバい。」
「やばいくらいヤバいのは、今、ウミの眼前にひろがっている、〈星の海〉を見るだけでお腹いっぱいわかります・・・。」
「自らの中にある、この〈はじめのこころ〉をつかめないから、人間は悩んだり迷ったりして苦しみ続けるんや。
このこころの根っこに気付きさえすれば、自分のこころの大きな大きな水は澄み渡るやろう。
そして、その澄み渡った水面に、すべてがうつるように、あなたのひとつの〈はじめのこころ〉はすべてのものごとをつかみ取ることが出来るもんやで。」
「だけど、ごらんのとおり、世界にはあれだけの苦しみが満ち溢れています。
誰しも逃れることなく、〈トゲ〉をその根っこに持っています。
永遠の君から見れば、本当にいいことの出来る人なんて一人もいない。
どうやったら・・・どうやったら、〈はじめのこころ〉に還ることができるの?」
「人間をたいせつにしておられる、本当の親である〈永遠の君〉は、だからこそ、あなたたちが帰る道を示されたんやで。
それこそが、いま私たちがいるこの場所や。」
「ここが・・・ここが、わたしたちの終点なの?」
「いいや、まだここは道の途中でしかあらへん。」
「うぎゃーーーー。」
「いま、ウミ、うぎゃー言うたな・・・。
まあええわ。
終わりのない旅をこころはどこまでも続けてゆく。
これまで、たくさんの道を見てきたと思うけれど、すべてはひとつの駅のようなものやと思っといてくれ。
何かのきっかけや出会いによって、それらの場所、道は移り変わってゆくんや。
そこに、ずっと同じで定まっているものなんてないで。
すべては、同じじゃないんや。
だから、誰でも人は上へ、上へと向かって成長していくんや。
もう、ここで終わりと言うことはあらへん。」
「マスターは昔言ってたね。
〈はじめのこころ〉が、自分を隠されているのは人に自分を探させるため。
また、〈はじめのこころ〉が無限であるのは、いったんその〈こころ〉を見出した人に永遠に自分を探し求め続けさせるため、だと。」