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思いは叶う!

小臣民たちは、朝、正午、昼、夕方、晩、深夜と一日六回は欠かさずザッハ・トルテ王のおわします宮殿に向かってひれふし、ザッハ・トルテ法典の一節を読誦奉納し、感謝と永遠の帰依を誓う。


これがひたすらザッハ・トルテ理論の暗記と学習に費やされるオレたちにとって、一つの息抜き、休憩のようなものだった。


オレたちはよく教官たちからこう言われた。


「いい?

人生はすべてあなたの心の思う通りになるの。

あなたの人生はすべてあなたが決定してつくり出しているということ。」


「はいっ!なるほど!」


「これは偉大なる宇宙皇帝陛下様の発見した宇宙法則のうちでも偉大で重要なもののひとつ。

ボールから手を離せば地面に落ちるように、

赤と青を混ぜれば紫になるように、

あなたが考えることや思うことはすべて本当のことになる。


このことを強く信じること。

この法則につながればつながるほど、あなたはあなた自身の運命を開いていける。


逆に、今この世界に山ほどいる不幸でうだつの上がらない人々を見てごらんなさい。

彼らはありがたいザッハ・トルテの法則を知らなかったばかりに、その力を間違った方向に使って自ら災いをその身に招いてしまった愚かな人々なのです。」


これも、「ザッハ・トルテ理論」からの引用だ。

教官たちは基本的に、自分の考えというものを一言も話さない。

「理論」に書かれていること以外はなにも語ろうとしない。


どうも教官たちに限らず、帝国に住む人民も、まあ多少の顔つきや体型、性格の違いはあるにせよ、切り取ってみるとまるでみんな金太郎飴のように紋切り型の同じことばかり繰り返す。

勉強熱心で何でも知っており、深くものごとを考えているように見えて、すべてが、ザッハ・トルテ理論からの引用でしかない。



「みなさんは、ダイヤモンドやプラチナになりたいですか?


それとも、光沢のない普通の色のレベルに堕ちていきたいですか?


もしくは、闇に取り憑かれた領域の住人になりたいですか?」


「ダイヤモンドやプラチナです!」


「そうですね。

あなたたちが闇に落ちぶれるのも、平凡に堕すのも、偉大なる宇宙皇帝陛下に近付くのも、

すべて自分自身が、はっきりと自分の意志と望みを持って、努力と精進を重ねていくことができるかにかかっているの。


ハル、あなたはどこを目指しますか?

あなたはどうなりたいですか。

あなたの本当の気持ち、本心を聞かせてください。」


「オレは・・・なんでもいいです。」


なんてことを言うと、どうなるかは薄々予想がついていた。


選択肢は一つだけしか残されていなかった。


「プラチナがいいです!」


もしここで、「ダイヤモンド」や「ザッハ・トルテ王のレベル」と答えてしまえば、

「傲慢不遜にも程がある。身の程を知りなさい。」と鼻で笑われ、

「シルバー」「ゴールド」と答えてしまえば、

「そんなちっぽけなレベルでいいの?男なら、もっと大きく出なさい!

人間の心には無限の可能性があるんだから!」

と呆れかえられるのである。



「プラチナ!

うん。

みんなも聞いた?

ハル君、あなたは確かにそう口にしたわね。

それがあなたの心から熱望している望みなのね!

それは、あなた自身の望んだこと。

あなたなら必ずできるわ!頑張って!」


パチパチパチパチ


教室で拍手が起こる。

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