目の前の小さなことを
「いいですか。
自分たちのすることがどのようなことであるかということはさほど考えなくてもいいのですよ。
考えなければならないことは、自分たちがどのようなものかと言うことなのです。
大切なことをお話します。
偉大であるということは、何をするかとか何をしたかではないのですよ。
それは、人が〈何であるか〉ということにあるのですよ。
大いなるこころをもって、目の前の小さなことをしてください。
そうすれば、あなたがそのことをするのではなく、〈永遠の君〉(わたし)があなたのすべてをつかって、最も善き事を為します。
あなたたちは、いついかなる時も、このわたしから離れずわたしのうちに生き、存在しているのです。
それは、いかなる小さいことの中にも・・・。
つるはしを振るう先に、
ぞうきんを絞る手に、
書類を処理する指先に、
靴をつくる糸一本一本、
食器を洗うスポンジのなかに。
ありとあらゆる目立たない、神聖に見えない小さな働きのすみずみにいたるまで、〈永遠の君の場〉は働き、生み出されているのですよ。
それは、どこまでも無限で大いなるものではありますが、
決して具体的で小さな現実の生活を離れては存在しません。
あなた方の為したごくごく小さな単純作業でさえも、
それは、全宇宙と深い次元で結びついて、波のように世界中に伝わってゆくものなのです。
大切なことは、わたしのうちに大いなる愛をもって、今、目の前の作業に打ち込むと言うことなのです。
宇宙の秘密は、大いなる理性や洞察、計算式や観察によってつかむことができるだけでなく、単純で素朴な日常の内にも行きわたっているのですよ。」
三人は我を失っていた。
そして、この世界がすべて塵でできていることを知った。
かくして、ただ存在するのは、〈永遠の君〉のみであった。
そして、失われたメロディーが虚空いっぱいに鳴り響いた。
七番目のメロディー。
それは、「すべてはひとつ」ということだった。
「すべてはひとつ・・・
オレたちの〈トゲ〉とは、つまりもともと一つであったものがバラバラになってしまったということに端を発しているのかもしれない。
本当に、オレがオレと言うことを忘却して、世界と一つになることが出来たら・・・もはやそこに〈トゲ〉など存在しようもないし、苦しみも存在しようがない。
ああ、しかし、一は一を自らとして知ることが出来ない。
一が自らを知るためには、オレたちが鏡で自分の姿を見るように、何ものかを鏡にして見なければならない。
自らを探し求めてくれる存在が必要だ。
〈一なるこころ〉は自らを知り、自らを完成させるために、自由な存在として多くの〈こころ〉となって展開していった。
それが、オレたち人間であり、〈こころ〉というものだ。
ああ、そうだ、まことに、宇宙は謎だ。
しかし、宇宙を解く鍵は、人間とその〈こころ〉にあるのではないだろうか?
この〈一〉を知るためにこそ、オレたちはこの無限に異なる、分別と差別の世界にやってきたのかもしれない。
ああ、わかった。
ついにわかったぞ。
オレはやっと〈トゲ〉の根源が。
そして、ああ、ついにオレは〈トゲ〉を克服できるかもしれない。
すべてはひとつ・・・これが、散らばったメロディーを完成させ、トゲを抜くことのできる最後の楽章に違いない。
ありがとう、ありがとう、ありがとう。」
ハルは自らの人生の意味を悟ったような気がして、感動に打ち震えた。
この上なく穏やかな気持ちになり、これまでの一切の出来事を穏やかな心で慈しんだ。
「ハル・・・よかったわね。
私の〈ツカミ〉の旅も、もうここで完成を迎えたかもしれない。
〈秘密の食べ物〉が導く究極の地点はここだったのよ。
ねえ、あーちゃん、永遠の君よ、
あなたがどこにでもいることは知っているけれども、
もしお望みならばどうかわたしをここにとどまらせてください。」
永遠の君は、レイに声をかけた。
「レイ、あんた、ここにちょっと残らへんか?」
「!?」
どこかで聞き覚えのある声に、レイは驚いた。
「・・・そ、その変な関西弁は・・・マスター!?」
そこには、まぎれもなく身体を持ったあの一緒に旅をしてきた自由人風の兄ちゃんがいた。
「ななな・・・どういうことどういうことどういうこと?」
「マスター、こんなところで笑かさないでくださいよ。」
「永遠の君の中にマスターが居て・・・
マスターの中に永遠の君がいる・・・。
永遠の君の正体はマスター、あなただったのですか?
それとも、マスターの正体が永遠の君だったのですか?」
「んーーー、ちゃうちゃう。
まあ、言うてもあんたらにはゼ ッ タ イ に分からへんから、説明は後にしとくわ。
とりま、みんなお疲れ。
みんなの活躍はずっと見とったで。
ほんまに素晴らしかったわ。
せや、エクレアにおるソラにも会ってきたわ。
よろこんどったでー。」
急なマスターの出現に一同は、驚くなり感動するなりで、話は尽きることがなかった。