あけわたす
「これが・・・〈ムスビ〉というものの力なのか・・・!?」
レイは〈永遠の君〉の脈動に巻き込まれながら、何とかして目を上げようとした。
「ああ・・・!ムスビ・・・ムスビとはなに!?
そう・・・人間のこころの奥底には、〈ムスビ〉に対する深い望みがある。
それは、自らの〈こころ〉、自らの生命に対する望み!
私たちの存在は、はかない。
何十億年もの宇宙の歴史の中で、ひとたび一点のごく小さな地点に生まれ、ひとつの限定された運命や、時には不条理を背負い、生きていくことを要求される。
しかし、線香花火が潰えてしまうように瞬きもせぬ間に消えていく有限なるもの。
そのことを知っている〈こころ〉が、それを自覚しながらも、絶対無限なるものとひとつになって、永遠の本当の生命に至ろうとする望み!
本当の〈ムスビ〉とは、この〈わたし〉が新しく生まれることを望むの!
生命が、こころが、まったく新たにされることを求めるの!
そこに、なお少しでも、自分の欲徳を目的としたものがあっては、本当の〈ムスビ〉とは言えないわ。」
〈永遠の君〉は語り掛けた。
「君たちはこれまで様々のものを望んできたでしょう。
これが欲しいとか、このようになりたいとか。
あるいは、これこれがすでに為ったとイメージし、〈こころ〉の力をつかって、それを事実現実のものとしてきたかもしれません。
しかし、もっと優れた道を示しましょう。
――――それは、〈わたし〉をすっかり〈あけわたす〉、ということに他なりません。」
「あけわたす・・・。
然り、然り・・・そうです!」
ウミ、ソラ、ハルは答えた。
「自分の望みを叶えるために、〈見えない世界〉の力を頼ったり、〈こころ〉の力をつかうこと、それは悪いものではありませんが、それはいまだに利己心のうちにあります。
〈ムスビ〉は何のためにあるとおもいますか?」
「それは、私たち人間が、〈あーちゃん〉、あなたや、その善きダイモンたちにより頼んで安心を得るためではないですか?」
「いい答えです、ウミ。
けれども、安心を得るために、一生懸命〈ムスビ〉の道を歩むことも、それはやはり『自分の力をより頼む』ということなのです。
一生懸命、見えない世界の助けを頼み、悪いカルマや罰を恐れるというのも本当の〈ムスビ〉ではないのです。
わたしは、決して人を裁いたり差別することはありません。
それをするのは人間です。利己心です。
自分のこころが安心する「ために」〈ムスビ〉の道に入るのではないですよ。」
「じゃあ、〈ムスビ〉によって安心することは間違っていることですか?」
「いいえ。
安心することは、結果です。
〈ムスビ〉は、人間にとって最も大切なものです。
〈ムスビ〉にたいする望みは、どうしても抑えることが出来ない、こころからの望みであり憧れなのです。
〈ムスビ〉こそは、人間の目的そのものです。
決してほかの手段とすべきものではないのですよ。」
レイが答える。
「ああ、〈ムスビ〉とは、あなたにたいする私たちの道です。
〈ムスビ〉がなければ、私たちは、真に生きるべき道をまったきものにすることが出来ません!
私たちの本当の望みは、突き詰めれば、あなたです!」
「いいですか。
「あけわたす」ということについておはなししましたが、
あなたたちが、あなたた自身をあけわたせばあけわたすほど、永遠の君は、あなたたちの内に入って行くことができるのです。
そして、そこにおいてのみ、あなたたちはますます自由な存在となり、またより一層あなたたちらしく生きることが出来るようになるのです。
わたしは、たとえいかなるあなたでも・・・
たとえどれだけ〈トゲ〉にまみれたあなたでも無条件に肯定しています。
なおも、あなたの〈こころ〉の中にはわたしと全く同じ性質である太陽の光のような光明が輝いているのです。」
「おお・・・!
あーちゃん、永遠の君よ。
私はそれまで、自分の望む人生を生きたいと望んできました。
しかし、今、〈望む人生〉から〈望まれる人生〉へと私自身をゆだね、明け渡します。
お望みでしたら、どうぞ、私をこの場所においてください。
そして、どうぞ私をあなたのしもべとしてお使いください。」
ウミとレイもそれを望んだ。
それまでのあらゆる苦闘、苦しみの奥には何か偉大な目的が潜んでいる気がした。
そして、こころがわくわくし、よろこび、さらに素晴らしい冒険が始まる予感を抱きながらも、
それを実現するために何かをせねばならないとか、追い求める必要性を感じなかった。
「恐れることはありません。
ただ、自分自身でいさえすればいいのです。
そうしていれば〈たいせつ〉の道具になれるのです。
そしてそれこそが、宇宙とあなた自身のためにできる最もよいことなのです。」
レイは言った。
「そう・・・そうなのね。
このことを理解して、あらゆる問題がさほど大きいものには思えなくなってきたわ。」
彼らは身体の五感の感覚を超えて、限界のない近くを使っていた。
そして、それが普通のように感じられた。
もはや、肉体の中にいることのほうが制限された特別な状態であるように感じられた。
その世界では時間も流れるものではなく、
すべての時間は同時に感じられるものであった。
さらに、いくつかの人生が同時に繰り広げられているのを感じた。
身体を超えた純粋なる〈こころ〉の領域では、実際のところ、過去も現在も未来も全て同時に起こっている。
しかしそのことをもし肉体をもって説明しようとすると混乱が生じるだろう。
生命は、壮大なタペストリーであり、ひとりひとりはその網目の一つであり、それぞれが中心であった。
ハルは思った。
「時間は直線的ではない・・・。
ということは、それまで思っていた、前の人生と次の人生という概念も、この立場から見ればただ一つの解釈にしか過ぎない。
人間の知性がすべては同時に存在していることを理解するための一つの方法なのだ・・・。
過去の人生がちらりとみえるということは、実のところ、平行か同時に存在したものが見えたと言うことにすぎない。
そして、すべては一つにつながっている。
それゆえ、他人の現実が自分たちの現実に少しづつ入り込み、まるで自分の記憶であるかのように広がっていくことも可能なのだ。」