太陽
一行は、山を降りるつもりが、ダイモンに導かれ、さらなる山奥に向かうこととなった。
「うわあ。この木々たちはいったい何百年、何千年生き続けてきたのだろう・・・。」
見渡す限り、はるかかなたまで巨大な木々が続いている。
白い門をくぐると、空気ががらりと変わった。
まるで、何かに守られているような、そんな気がした。
充満している空気の一粒一粒のうちに、宇宙のすべてが詰まっていて、太陽の光を反射しキラキラと輝いている。
空気の気の極微小な一粒一粒が生きていた。
そこに数多くの数えきれないほどの善きダイモンたちが天空を舞い、ちらと現れては消え、現れては消えを繰り返した。
「オレは・・・こんなところに立ち入ってよかったのか?
拭い去れない〈トゲ〉の汚れのあるオレがこのような清浄で美しい場所に居ていいのか?」
「ここには・・・私の〈ツカミ〉では立ち入っちゃならない、立ち入ることのできない不思議な生命が充満している・・・。
ああ、語ることすらできない。
言葉すら出てこない・・・。
これが、かつてマスターが教えてくれた・・・〈ムスビ〉の世界・・・!?
目に見える現実の奥にある、けっして〈ツカミ〉の利くことのない、あらゆる現実が湧き出てくるところの、ただ一方的な・・・。
〈私〉と世界と時間の存在を生み出し続けている泉。」
レイはそれ以上語ることはできなかった。
ウミは、目を輝かせながらその清浄な空気とそこにただようダイモンたちをただ見上げていた。
三人は、その巨大な木々の中をどれくらい長く歩き続けただろうか。
清い川が流れている。
そこには小さな橋がかかっており、その橋を渡るとその先はまるで違う神秘の空間だということが分かる。
三人は、その川で自分の身を清めた。
すると、清いダイモンたちが〈こころ〉の汚れを吹き飛ばし、洗い流してくれるのであった。
三人はついに、光の射しこむ祠の前にまでやってきた。
祠を通り過ぎると、その奥には、天を突くような巨大な聖堂がそびえていた。
その両脇には、抱えるように回廊が八重二十重に巡らされている。
そこでは、ダイモンたちとその地を管理する清き人々たちが共同で暮らしていた。
呼吸をするたびに、空気のうちにあるあふれる生命が自分の中に取り込まれて、再生していくようだ。
次第に、三人は、自分自身が、この自然を見ていたり、自然の中に居るのではなく、
むしろ自然の一部が不自然に突出して、自分たちになっているのだと感じるようになってきた。
ああ、いっそのこと自己という境目がなく、完全に大自然の精気のなかに溶け込むことが出来たらどんなにいいことかと思った。
聖堂の中には、高き天井からあふれんばかりの光とダイモンたちが迎え入れてくれた。
彼らは讃えるようにして〈うた〉をうたっていた。
聖堂の中にいる清き人々が〈うた〉をうたうと、ダイモンたちが呼応して、〈うた〉を天上から降らせるのである。
三人は、ただ上を見上げて歩いてゆくしかなかった。
中央の祭壇まで進み出ると、
突如として太陽から、光の雨が降り注ぎ、この世界にある一切のものをことごとくうるおしはじめた。
いや、その雨は永遠の過去から降り続けていたのだ。
「世界とは、これほどまでに美しいものだったのね・・・」
レイは、圧倒された。
しかし、そのなかには、絶望も悲しみも憎しみも恐れも呪いも狂気も暴力もあった。
ありとあらゆる悪もその中に存在した。
それは濁りきった腐臭のする血の泥となって、巨大な池だった。
その池は世界に対して大きく口を開けているが、這い上がり脱出することは恐ろしく至難の業であった。
しかし、その池の中からは、一切のあらゆるドロドロとした穢れに少しも汚されることなく、
清らかな美しい華が次々と開花し続けた。
ハルは叫んだ。
「おお・・・人間の存在はすべからく悪だろう。
しかし、その本性にはどんな悪すらも穢し腐らせることは決して出来ない光があるではないか!
永遠の肯定・・・!
すべては、すべては存在している限り無条件に肯定されている。
愛、愛、愛・・・一切の生きとし生けるものは本来愛で成立しており、愛し合うべき存在なのだ。」