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だからこそ

「だからこそ・・・。」


ウミがつぶやいた。


「〈だからこそ〉・・・。

これはきっと魔法の言葉。


たしかに、〈トゲ〉も苦しみも存在する。

それを見てみないふりをして、ただ明るいことばかり考えているわけにはいかない。


まず、大切なことは・・・

しっかりとそれを受け止める・・・受容することだろうと思うの。


そのプロセスなしに、〈トゲ〉を否定し拒絶していたら、人は余計に追い込まれていく。

明るく前向きなようでいても、もし〈トゲ〉の苦しみを否定し続けていたら、

こころの奥の知らないところで、その闇はますます広がって、いつの日か反逆を試みる。」


「そうだよ。本当にそうだ。ウミ。」


ハルは〈トゲ〉の直接的な解決に至らないまでも、〈トゲ〉の苦しみを分かち合い、分かってくれる人が存在することで、その苦しみの半分かは解決したように思えた。


「人は、自分の悩みを聞いて分かち合える人が見つかるだけで、その苦しみの半分はすでに解決しているのではないか。」

そう思った。


「人は、受け止められること、受け入れることを通して、初めて変わっていくのだ。

自ら変わっていこうと思えるのだ。

自然に太陽の方に向かって行こうと思えるのだ。」


「そうね。

苦しみも喜びも存在のすべてを受け止めて、そしてそれらのすべてにイエスと言って、

そこから、〈だからこそ〉いいことが生まれていく、生み出していく。

そう思えるかどうかなのだと思うの。


どれだけ暗い夜でも、太陽の光が昇れば、すべてが光に変わっていく。

オセロでも、すべてが黒でも、ひとつ白を置けばすべてが白に変わっていくでしょう。


なぜ、この世界に〈トゲ〉や悪や苦しみが存在するのかって、考えてた。

なぜ、〈永遠の君〉は完全に善い存在なのに、なぜ現実にはこんなことがあるのだろうかって・・・。

だけど、すべては必ず〈いつかのいい日〉のためにある。


〈はじめのこころ〉は、悪を生み出さないようにすることはできた。

だけど、それよりも、悪を通して、〈ほんとうにいいこと〉を作り出そうとしている・・・そんな気がするの。

〈トゲ〉があるからこそ、旅があり、出会いがあり、学びがあったでしょう。」


「そんなものなのかな・・・。

だけど、オレはウミの言葉を信じるよ。


オレは信じる。

希望を信じる。


その未来をまだ見たことはないけれども、オレはそれに賭けたい・・・賭けたいのだ。」



レイは考えた。


「人生とは、ひとつの物語。

無数の意味の網目が〈こころ〉のうちでつなぎ合わされ、新しく書き換えられていく。

〈こころ〉は、人生のうちに自らの本質を展開していく。

その物語をさまざまな材料や出会いを通して紡いでいく。書き換えていく。


はじめは、〈こころ〉は暗闇の中に閉じ込められていた。

しかし、土の中にいた種が知らないうちに太陽の方に向かって芽を出していくように、

〈こころ〉も自由と幸福の方向に向かって自らを増大させてゆく。


そして、物語とは、意味。

それは、ただ頭の中で考えられただけの現実には存在しない空虚なもののように思われるけれども、

それでもやはり私たちはこの意味の物語のなかで生命を紡いでいくしかない。


そして、〈こころ〉の紡ぎだすこの物語の中にこそ、宇宙における大切な真実が表現されている。

それは決して完璧な説明、完全なる描写ではない不完全なものでしかないけれども、

それでも、私たちはこの形式の中でしか真実に向かっていくことはできない。


暗闇のうちにいた〈こころ〉は、その小さな世界のうちでしか意味の物語を紡ぐことはできない。

しかし、太陽の方に、光の方向に向かっていくにしたがって、その意味の網を拡大させ、書き換えてゆく。


それぞれの種としての〈こころ〉には、自分の本質を実現させていくという課題がある。

そしてその課題のうちには、自分の存在と切り離すことのできない〈トゲ〉があるのではないか。


なぜ、人間が不完全なのか。

人間だけが、完全にならず、いつまでも不適応を繰り返している。


他の生物たちの中には、完全に環境に適応して進化をやめてしまったものもいる。

だけど、そうした生物はそれ以上進化しないか、急激な環境の変化に触れると一気に絶滅してしまった・・・。


人間が、一つのところに落ち着かず永遠に不適応である理由・・・

それは、自分の本質を永遠に展開させ続け、永遠の物語を紡ぐように〈はじめのこころ〉から命じられているからなのではないだろうか・・・。」



エクレアの町にとどまったソラを残して、ウミ、レイ、ハルの三人は山を降りながら次の場所へと向かった。

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