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不幸なる知識

一定以上の叡智に触れたあたりから、彼らには、「世界の真実」にも似たものが少しずつ見えてきたような気がした。

そして、人の世において、人々が噂をしていたり、信じていたことも嘘であることも見抜けるようになってきたのである。


「知識は力よ。

知識を持っている者と、そうでない者とは生きている世界が違ってくるの。

その違いは、海の中に住む生物と、大空を飛び回る鳥たちとの違いくらいかもしれない。

だから、もし、人間が変わりたいと思えば、ひたすら〈叡智の窓〉を開き続けることね。


それに、身分や財産は移り変わるもの、だけど、叡智は決して廃れずむしろ、富を生み出し続ける源泉にもなりうる。

私は、叡智の習得にこそ最大の労力を費やすべきであるとさえ考えている。」


「うむ。オレもそうだと思う。

オレがあの国の嘘を見抜けたのも、世界から叡智を学ぶようになってからだからな。」



その時、天からメロディーが降ってきた。


五つ目の音それは、「叡智の学び」であった。




しかし、叡智の学びは〈トゲ〉を抜くにあたわなかった。


気高く、高揚した感覚は、一時的なものだった。

それは、例えば、物語を読んだり、誰かの冒険譚を聞いて、自分がまるでその物語の主人公になったかのように錯覚してしまうようなものでしかなかった。


〈トゲ〉という永遠の苦痛を癒すことはできなかった。

叡智は、彼らに新しい世界を開き、新しい喜びをもたらしはした。

しかし、また彼らに際限のないこの世界の矛盾と暴力と争いの連鎖・・・苦しみや絶望をさえ示した。


「ああ・・・なんていうこと!」

レイは青ざめた。

「叡智を、知識を、学べば学ぶほど、〈トゲ〉がますます疼くようになるなんて!


そう・・・本当に幸福な賢者なんて、今まで一人も存在しなかったわ。

世界から飽き足らぬほどの名誉を受けて、膨大な知恵と教養をもった人でも、人生で本当に幸福な時期、何も憂いのない時なんてせいぜい一か月もないでしょうに。


ハルは呻いた。

「おお・・・この道によっても、〈トゲ〉は抜けないなんて。

もし、この世界に生まれていなかったならば、結局それが最も大いなる幸運だったかもしれない。

あらゆる幸福はすぐに離れ去ってしまう。


それに、自ら命を絶つ人間の割合は、身分の低い者たちよりも、学者の方が何倍も多い。

この世界を疎む多くは、知識を多く持っている人びとにほかならない!


幸せな人とは・・・結局何も知らない人なのだ。

幸せとは・・・皆が幸せと呼んでいるものの正体は結局、世界の不条理に目隠しをして、気が付かぬふりをして、鈍感になっていることにほかならない。

知らぬが仏、とはよく言ったものだ・・・!


学ぶことは、〈トゲ〉の隠れ場所などではなかった!

かえってこれに光を当てて人類の〈トゲ〉を一層明らかにするだけのものでしかなかった!」




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