慈善と偽善
四人の心のうちに、美しく、清く、あたたかい波が押し寄せてくるのを感じた。
「たしかに言われてみればその通りだ。」
ソラは目を輝かせて言った。
「ぼくは・・・それまでは、自分の夢を叶えることばかり考えていた。
自分の成功することしかかんがえていなかった・・・。
だけど、もっともっと素敵なことがあるってことを知った。
そして、それこそが人生の目的なんじゃないかなあ。」
「私も、自分の頭脳を貧しい人を助けるためにつかってこそなんぼだと思うの。
この技術を、貧しいところに井戸を引いたり、用水を引いたりするのに使えるわ。」
とレイは張り切っている。
その時だった。
天から、散らばったメロディーの破片が降ってきた。
一つ目の音が、〈幸せのルール〉、
二つ目の音が、〈見えない世界〉、
そして三つ目が、〈奉仕〉・・・。
たしかに、それらの音は、四人のこころに刻まれた。
〈奉仕〉・・・誰か・・・特に貧しい人やかわいそうな人々のために誠心誠意心を尽くして仕えること・・・。
そこにこそ〈永遠の君〉がおられる。
「ああ・・・オレの苦しみの原因は、オレの〈我〉という想いにとらわれていたことにほかならなかった。
自分の苦しみ、自分の苦悩のことしか考えておらず、世の中のかわいそうな人々や貧しい人のことを考えていなかったのだ・・・。
オレはなんと愚かで傲慢だったのだろう。」
ハルは、それまでの自分に恥入った。
「もう、オレは〈我〉を完全に捨て去って、無私の思いで見返りを求めず、ただひたすら愛を与えつくしたい・・・。
そうしたら、オレは無私なる人間になり、完全なものとなれるのだ。
完全というものを、自分の中にとどまった静寂や思考の中に求めてはいけない。
具体的に行動することが大切なのだ。
ああ、そうだ。
自分の持ち物と財産のすべてを売って、貧しい人たちに施さねば・・・!
そうだ!
そのことこそが、オレの中の〈トゲ〉を克服する唯一の方法に違いない!」
四人は、街のはずれの貧民街や、少し離れた不毛の土地、また病院に赴き、心を込めて、病人や困っている人の手助けをした。
しかし・・・・!
そうした行いをしたから、といってそれが〈ほんとう〉の善き人間をつくるわけではなかった。
溢れる愛から人助けがなされた時はよかった。
奉仕をすることによって、彼らのうちに眠っていた愛が呼び覚まされることはあった。
しかし、噴水が水源よりも高く上ることがないように、その愛をこえてまで奉仕をすることはできなかったのである。
もし、それ以上の事をすればもはや、偽善でしかなかった。
無償で奉仕をすればするほど、自分たちのうちから不平不満が出てくるのであった。
「私はこんなに頑張って耐え忍んでやっているのに、なぜあの人は・・・ずるい。」
そんな思いが、湧きあがり、時に言葉に発して、人に負い目を抱かせることもあった。
自分を高めるための善行や慈善・・・これは大いなる罠でしかなかった!
清く優しいとみられていた人が一つでも悪行を犯すと、そうでない人が悪行を犯すよりもそのショックはすさまじい。
一度堕ちればもはや、そこから清さや美しさを取り戻すことは不可能に近く、二度と立ち上がることは叶わないのだ。
四人は、そのことに気が付いてしまったのだった。
それに、
「善いことをして、人に認められたい、褒められたい。
偉いと言われたい。ほめられたい。」
そんな思いが、どうしても湧いてきてしまって、一ついいことをすれば、つい人前で自分のしたことをさりげなくアピールしようとする自分に気が付くのだ。
「人に認められようとして、そのためにいいことをしたら・・・それを認められた時点でおしまいさ。
人知れずところで人を助ける。
陰徳を積むこと。
人に認められるのではなく、〈永遠の君〉に認められることが一番大切なことなのに・・・。」
四人はすっかり肩を落とした。