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わかちあうこと

ティラミスの王宮に仲間たちを連れて戻ってきたウミは、大歓迎を受けた。


「一回り成長したようだね。ウミ。」

父王と妃はウミを抱きしめた。


「ちょっとだけ背が伸びたんじゃない?」

「どんなものに出会えた?」


ソラとレイとハルは、城の窓から見える美しい街並みをずっと絵にして取っておくことが出来たらどんなにかいいだろうかと思った。


ティラミス城での宴会の食事は、期待していたよりも随分と質素なもので、王も一般の兵士たちも同じ列に並び、同じテーブルで日々の食事に感謝して、楽しげな雰囲気の中で営まれていた。


王はよく城内に貧しい人びとや、身寄りのない外国人を招いて食事会をするものであるので、

厨房や食事処は一種の戦場のような様相さえ呈していたが、奉仕する側もされる側も幸せそうであった。


「これがこの国の普段の姿か・・・」

ハルはすっかり驚いてしまった。

「・・・なぜ、なぜ、そんなことが出来るんだ?」


と、横目で見ているうちに、ウミは慣れた手つきで貧しい人の手伝いをはじめ、いつのまにか、残りの三人もエプロンをつけて給仕を手伝うこととなっていた。


「・・・こんな国の王女だったら、そりゃまあ、あんな優しい性格になるわけだ・・・。」


「ティラミスの国には、社会奉仕を中心とする表の原理と、見えない世界の探究という裏の原理が平行線のように共存しながら生きているわけね。」

レイはそう捉える。


「そう言えば、マスターがいた時も、いつもこうしてみんなを囲んでご飯を食べてたよなあ。」



王は、四人に言った。

「旅を続けなさい。

船は自由に使ってよい。

お金も山ほどあるから使っていい。」


「やった!いいんですか?」

とソラは叫んだ。


「ただし、だ。」

王は釘をさした。


「船は自由に使っていいと言ったが、お金は〈正しく〉使うと約束するのであれば、使ってもよい。」


「〈正しく〉使う?

どういうこと?」

ウミが訊く。


王は四人の目をじっくり見ながら、それぞれ財布を渡したのだった。


「一人一人に〈必要な分〉が与えられている。

君たちの為すべきことは、これを大きく育てることだ。」


「は・・・はあ。」

ハルは、財布の中身を見た。


握りこぶし一杯分ほどの金貨が入っている。


「へえ、結構あるんだ。」


ふと、横を見てみると、

ウミにはその二倍くらいの財布、

ソラには頭ぶんほどもある大きさの財布、

レイにはさらに大きな分が与えられていた。


ハルは内心穏やかでいられず、あっという間に頭の中が疑惑に駆け巡った。

そして、落ち着いていられなくなったが、何とかしてそれをおさえて、平生を装った。


哀しい・・・悲しい・・・怒り・・・

オレには価値がないというのか・・・!?


何と言う不平等!

何と言う不条理!


これが、あの誰にでも慈しみ深い王のすることか!?



「・・・そうだな。

旅に出る前に、どうだ?

ひとつ、与えられたその財布を使って、一儲けしてみないか?」


「おもしろそう!やります!」とソラ。

「はわわ・・・うーん、そういうことはやったことがないんだけれども、パパがやれというのだったら・・・。」とウミ。

「ふむ・・・王は一体何を試そうとしているのか。」とレイ。

「何なんだ・・・そんなことやって、オレが恥をかくだけじゃないか・・・。」とハル。


とにかく、四人はティラミスの街へ出ていき、いろいろと考えた。


ウミは、使い道が思い浮かばないので、必要な人を見極めて、寄付してしまった。


ソラは、メープル村でやっていた仕事を思い出して、掃除用具を一式そろえ、それを元手に商売をはじめ、利益を出した。

手伝ってくれる人ができたので、彼らにもお金を渡し、さらに利益を上げた。


レイは、必要な資材を買い集め、何やらカラクリをつくりはじめ、それでパンなり紙なりをたくさん生み出すことに成功した。

さらにカラクリを生み出すカラクリを作り上げた。


ハルだけは、何も思いつかなかったので、ずっとそれを取っておいた。


王がやってきて、四人のことを評価した。


レイとウミとソラには、

「よくがんばっているね。自分の才能を活かし、出来ることをしっかりやっている。」

と更に多くの財産を与えた。


最後にハルを見た。

「どうしたんだい。君は、何かしたのか?何もできなかったのか?」


「こんなぽっちのお金で何かできるわけないでしょう?

そもそもなぜオレだけ他の人たちに比べてこんなぽっちしか与えられていないんですか?

無理ですよ!」

と不貞腐れてみせた。


「これだけあればできることは探せばなんでもあるよ。

なぜウミのように必要な人に渡すことを考えたり、うまくいっている人に投資することを考えなかったのだ?


・・・君のその小さな財布の中身を必要としている人はたくさんいる。

自分で取っておいてはいけない。

たとえ小さなものでも、差し出せば、それは本当に大きな富となって戻ってくるのだ。


さあ、もう一度考えてみなさい。」


ハルは、思い直してみた。

考えた結果、その小さな財産のすべてを、街の人びとと分かち合うことにした。


そうしたら、ハルは何も困ることがなくなった。

レイの利益も、ソラの利益も、ウミが差し出したものもすべてが、必要な分だけハルのところに与えられたからだ。


「いいかい。

これが、この国がここまで平和に繁栄発展している秘密だ。


人は誰にでも、〈はじめのこころ〉から与えられた生かすべき宝がある。

それは、他人と比較していてはいけない。

なぜなら、それがその人にとって最適なものだからだ。

たとえ、どのような形であっても。

生かすのだ。

それも、自分のためだけではなくて、誰かを助けるために。

そうすれば、その宝は自分が所有しておくよりも、何百倍、何千倍にもなって戻ってくるのだよ。」







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