上の次元へ
「そうだ。
きっと、小さな次元でものごとをとらえているからいけないのよ。」
レイが切り出した。
「小さな次元?」
ソラが聞き返す。
「たとえば、平面を二次元というけれども、この次元に生きている人は、この大地の全体を見ることが出来ない。
だけど、空を飛んでいる鳥は三次元を動き回っているから、大地の広いところを同時に見渡すことが出来る。」
「なるほど。」
「〈幸せのルール〉というものも、所詮は人間と人間の点と点が集まってできた二次元の世界の話のことでしかない。
ぶつかり合うに決まってるわ。
だとしたら、より上の次元に行くしかないんじゃない?」
「たしかに。
じゃあ、より上の次元とはどういうことだい?」
「それを今、考えているのだけれども・・・。」
ウミが言った。
「ねえねえみんな、ティラミス国に来ればいいんじゃない?
そこには〈目には見えない世界〉を教えてくれる先生がいるって。」
「それだ!
〈幸せのルール〉を超えるもの。
それが、ティラミスにはある。」
一行は、ウミの王国、ティラミスへと向かった。
川は少しづつ太く大きくたゆたうようになっていった。
ソラが周りを見回しながら、道案内をする。
「ああ、そういえば、はじめはマスターと一緒に二人でこの道を歩いていたけれども懐かしいなあ。
今は、君たちと四人で歩けるなんて感慨深いよ。」
相変わらずウミは、のんびり花々に話しかけ、小動物たちとたわむれ、
レイは、植物や大地や気候や町や人びとの様子をじっくり観察して、時折メモを取っている。
いよいよ、一行はティラミスの国に到着した。
「懐かしい!
私たち三人はここで出会ったのよね。」
まるでおとぎの国か絵本の中にきたような茶色い屋根の街並みが、真っ青の空と川の中に広がっている。
船に乗り、橋の下を潜り抜けながら、お城の方まで進んでいく。
「すごい・・・きれい。
ウミ、あなたこんなところに住んでたの・・・。」
レイが目を真ん丸にしてあたりを見回している。
「正直言うと、ザッハ・トルテの城のほうが巨大で光沢がある。
けれども、雰囲気は百万倍もこっちの方がいいな。」
ハルが珍しく笑顔でそういうのを聞いて、ウミは喜んだ。
「わあい!ありがとうハル!
そんなこと言ってくれるハル大好きだよ。」
ハルは顔を赤くして水面の方に顔をそむけて固まった。
ハルは、この美しい街並みを見ているだけで、訳も分からずになぜか涙がこぼれ落ちるのだった。
「美しい・・・美しい・・・美しい・・・。
きれいだ・・・きれいだ・・・きれいだ・・・。
きれいなものは、なぜこんなにオレの〈こころ〉に打ち震えるように響いてくるのだろう?
何も語らないこれらの風景はなぜ、そこにたたずんでいるだけでこんなに愛おしいのだろう?
まるで、この風景もひとつの隠された宇宙のメロディーを奏でているようだ。
オレたちは、耳だけでなく、目でも、肌でも、〈音〉を聞かなくちゃならない。」
船は、普段入らないようなお城の用水路に入って行った。
船頭は言った。
「ウミ姫とそのご一行、あなたがたは〈目に見えない世界〉を求めて居るようじゃが、この城の地下の秘密の空間には、それとつながる能力を持つ人たちが住んでいるのだよ。
その人々は、天から与えられる〈よろこびの行〉という道を与えることが出来る。
その〈よろこび〉さえいただくことが出来れば、今あなた方が抱えている矛盾はたちどころに解消し、新しい人になれるのだ。」