ハルの物語
ハルの物語
話は、この大陸随一の大きな山の裾野にある、「閉じた国」の出来事。
いくつもの山々と原生林と荒野を通らなければその国には辿り着くことはできない。
しかし、はるかなる道をこえて、そこに急に出現するのは、
人工的なものがほとんど何もない場所に不釣り合いなほど煌びやかな巨大な黄金の大宮殿とどこまでも広がる都市。
そこは「宇宙の中心」と呼ばれていた。
そう呼ばせているのか、自分で呼んでいるのかは分からないが、おそらくどちらもそうだろう。
なのだが、その中を通りすがりの者が見ることは叶わぬ。
外からは内の様子がうかがいしれない。
高い高い白亜の壁が地面から生えたカーテンのように中を見られないように覆っているわけである。
もちろん、内からも外の様子は知るよしもない。
その街の外れにある「高い塔」からでない限りは。
しかし、一人いた!
風の吹き荒れるその高い塔に登って、その風の吹く先、つまり外の世界を見据えていた少年が。
その顔はどこか幼なげがあったが、眼は哀しみと、恐れ、反発、希望、その全ての色を含んだ深い碧の輝きを放っていた。
少し長く伸ばし放題の髪の毛が頬に触れるが、少年にとってはおかまいなしだ。
そして、彼の首にピッタリと張り付いているのは、銀の「リング」。
かつて宝石の装飾の施された跡があったようだが、今ははがされたようだ。
「そこで何をしているのですか?」
どきりとして少年は振り返る。
警備員だった。
ニキビだらけの顔をした彼の首にはピッタリと金の「リング」が取り付けられている。
少年は無言で警備員のほうをふりかえる。
「またハル君、あなたですか。」
「そこは、立ち入り禁止です。」
彼は、張り付いたようなニコニコした笑顔で、ため息をつく。
警備員の目には光がなくどこか濁っている。
少年を憐れんでいるのか、どう思っているのかはその心は奥からはうかがいしれない。
ハルという少年も、無言で、無表情で、警備員のほうをまなざす。
にらみつけるでもなく、憎しみでもなく、
どこか「馬鹿らしい」と言った冷笑的な表情を悟られまいとするような、空っぽの表情で。
そこにまた新しく警備員がやってきた。
ハルは寄ってたかって優しく諭された。
内容なんかいちいち覚えてはいない。
腕を組み、ため息をつきながら、呆れたような顔で警備員たちは、あれやこれや幾百幾千の支離滅裂な言葉を弄し、
「わかりますか?」
「ハル君、あなたにはわからないでしょうね。」
と聞いてくる。
結論を一言で言えば、
「黙って私たちのいうことに従いなさい。」
ということなのだが、その本音の原型がなんなのか分からなくなるほど八重二十重にオブラートに包み込み、またその全てが関係のない話ばかり。
まともに聞いているほうが頭がおかしくなりそうだから、適当にうなづいて釈放されるまで聞いたふりをする。