暴走する根源
村へ突入した俺を待っていたのは、戦火であった。
侵入した是正の軍勢はさほど多くはなかったが、それでも並の人間よりは強い。
俺が村中に設置した魔法結界や魔法砲台などを駆使してなんとか対抗しているようだが、助けに行ったほうがよさそうだな。
「あっ、アベル!!戻ったか!!一体どこへ行っていたんだ?」
「リリアに言われてな。戦況はどうだ?子供や女は避難しているのだろうな?」
そういうと、一人の村人が頷いた。
「リリア様のところに行ってるぜ」
「ちょうどいい。リリアに火急の用があってな。少し行ってくる。兵器は強化しておくぞ」
俺は魔力で、破壊された放題や結界を修復してゆく。
しかしなぜかいつもより制御が不安定だ。
少し時間がかかったが、それでもなんとか修復することができた。
「ていうかアベル、大丈夫か?なんか調子悪いのか?魔力が暴走しそうだぞ」
ふむ、並の魔瞳の者にも気づかれるとは相当だ。
「すぐに行こう」
俺はその場を任せ、リリアの家へ急ぐ。
リリアの家に入ると、そこにはたくさんの人が避難していたが、リリアの魔力は感じられない。
「あ、アベル。帰ってきたんだね。
リリア様ならーーっっっ!!??」
その瞬間、今話しかけた女性が倒れる。
「どうした?!」
「あの化け物ども?!」
「いや、違うーーぐ、が、ああああ!」
また一人、二人と倒れてゆく。
その原因はーーーー
まさか。
「あ、アベル!!?なんのつもりだ?!」
「い、いや、待て、ちっっっ!!」
原因は、俺から溢れた魔力だった。
傷ついているわけではないのに、イングドゥでもまるで相手にならぬ魔力が溢れ出している。
「っっっ!!やはり神の手先だったのか?!アベルが神を連れてきたに違いねえ!!!!」
「出て行け、アベル!!お前がいれば、みんな死ぬ!」
「待ーー」
俺はたたらを踏みつつ、外に出た。
まるで、魔力を抑えられぬ。
根源から溢れる光り輝く魔力が、周囲のものを手当たり次第に破滅させてゆく。
なぜ、なぜ、何故だ?
何故急に封印も何も効かなくなった?
リリアに、会わなくては。
彼女を守らなくては、ならないのにーー
「アベル?アベルですか?!」
俺は振り向いた。
今俺にまともに近づける人間といえば一人しかおらぬ。
「リリア……」
「アベル!!今まで一体どこに?」
リリアが詰め寄ってくる。
「何?リリアが言ったのではないのか?迷宮ギガデアスに行け、と」
「…私はそんなことを言った覚えはありませんが?とにかく、何故あなたはそんなに魔力を撒き散らしているのです?」
なるほどな。
リリアに身に覚えがないのも、俺の力が暴走したのも。
全ての訳がわかったかもしれぬ。
「俺は、リリアがとある理由で狙われているかもしれぬことを伝えにきた」
「とある理由?」
「お前は〈五つの根源〉を知っているか?」
暫しの沈黙。
「…どこでそれを?」
「何、目的地に行ったところ、待ち構えていた神の一人が、言っていたのだ。…その様子だと、知っているな?」
「…とてもよく知っています」
俺はここまでしゃべって、あることに気がついた。
「そうだ。カイラはどうした?リリアの家にはいなかったようだが?」
「そうです。そのことについて、あなたを呼びにきたのです。ーー〈五つの根源〉についてもそこでお話ししましょう。
俺はリリアについて、自宅に戻ってきた。
家のベッドには、ボロボロになったカイラが居た。
「カイラ!」
俺はリリアを見ていった。
「どういうことだ?」
「夕刻、帰らぬあなたを追って、村を出たのです。是正の軍勢と鉢合わせ、ボロボロになっていたところを救われました」
何故、村を出た?
それは愚問だろう。
彼女は俺を心配していた。
俺はそれを踏みにじった。
行かぬべきだった。もしくは連れてゆくべきだったのだ。
俺は、神の奸計にかかった愚かな男だ。
「彼女を助ける方法はあります」
俺は反応した。
「それはなんだ?」
「彼女に、〈時見の根源〉を継承するのです」
カイラを救う策とは?