迷宮に座す是正の傀儡
村から一歩出れば、そこは魔物の領域だ。
どこもかしこも飢えたバケモノどもがいて、武器を常に構えていなければ、いつ死んでもおかしくないだろう。
俺を除けば、の話だがな。
「ギィエエエエエエエエエッ!」
魔物の悲鳴が響き渡る。
俺が一歩を刻むたび、魔物の死骸が百は転がる。
俺はこれだけの数を駆逐するのに、イングドゥはおろか、鉄の剣一本抜いてはいない。
ただ、歩くのみ。
それだけで俺の根源から溢れる魔力に弾け飛び、魔結界をズタボロにされ、魔物が死ぬ。
あらかた掃除を終えた頃には、迷宮ギガデアスに到着していた。
中に入る。
「始めてきたときから、ほとんど変わっておらぬな。」
ここはこの島ができたときからあると言われており、古びた罠魔法陣がいくつも点在している。
古びれば古びるほど、空気中の魔力磁場から魔力を吸収し、強大になる。しかし、それには悠久の時が必要である。
それらを全て突破していくが、今のところ〈目的のもの〉とやらにたどり着ける気配がせぬ。
と、思ったが。
「ふむ。興味深い魔力磁場が発生している。」
どうやら最奥の間かららしい。
俺はその古びた法陣扉を力ずくで開け、中に入った。
中には、大きな宝箱があった。
すると、後ろから魔力の流れを感じた。
「驚いたな。」
そこにいたのは、ツノを生やし、巨人のような見た目をした生物。
「我は、是正の神シンレーラの傀儡、アレラだ。世界を脅かす〈五つの
根源を、今ここで是正し、滅ぼす!」
「いきなり現れて物騒なことだな。俺と手合わせしたければ相応の申し出をせよ。」
有無を言わせず、奴が手刀を振るってくる。
容易にかわし、奴を根源の魔力に晒すが、なかなかどうして、滅びぬ。
これはーー
「神のチカラか。」
「左様。そして所詮破壊の神の子に過ぎぬそなたに、わたしを倒す術は無い。ここでさびしく、滅びろ。罪の子や。」
「ふむ。なんのことだか全く分からぬな。破壊の神というのも知らぬ。」
「しらを切るかっ!害人めっ!!」
しかしーー
「俺を本気で滅ぼすには、貴様ごときでは足りぬのでは無いか?」
俺は猛然と振るわれた奴の刃を、蒼き手で受け止めていた。
「ッッ!!??なぜ…。神のチカラが押さえ込まれる!?貴様は魔法が使えぬのではなかったのか?素手でどうとなるものでは無い!」
俺は押し返しつつ、奴に教えてやる。
「俺の体や、魔法武具、魔法道具を直接媒介にすれば、簡易なものなら魔法陣を維持できるのでな。」
弱体魔法〈覇気深滅〉
自らの手を蒼き魔力に染め、相手に触れることで、相手の根源に干渉し、その魔力を押さえ込む。
これに触れたが最後、奴はしばらくまともな魔法も撃てぬ。
「俺のチカラがわかったのなら、いますが地べたに伏せよ。許してやらぬこともないぞ。」
しかし、やつは不敵に笑う。
「たった一度神を超えたぐらいで、粋がらないことや。器が知れるぞ。」
俺は溜息をつき、再び両手を魔力に染める。
加えて、根源に魔法陣を描いた。
「ははは。神に同じ攻撃が通じると思わないことよ。そなたの速度では、すぐに見抜ける。思い上がるな。」
「思い上がるというのはーー」
次の瞬間、俺は奴の眼前に光の如く現れ、数十回殴りつけていた。
「こういうことか?」
「な…なんだトォ!!???」
やつは驚愕に目を見開き、鮮血を吐き出しながら吹っ飛び、壁にぶつかって止まった。
今俺が使ったのは、自己強化魔法〈天下無双〉
自らを光と化し、圧倒的な速度を手に入れる。
「神のチカラでも、俺の速さをとらえることはできなかったようだな。」
神の傀儡を倒すのにも、剣なんていりません…