プロローグ―1
僕の「能力」を一番初めに発見したのは幼なじみだった。
高校からの帰り道をいつものようにその幼なじみ――村主澪と歩く。周囲からはこのこともあり付き合っているのではないかと噂されることもあるのだが、まるでない。多分、彼女は僕のことを異性だとは思っていないだろう。僕も彼女に格別の好意があるわけでもない。一緒に帰っているのだって、彼女の父親が過保護で悪い虫が寄り付いてこないように僕を傍に置いているだけだ。
いつもと変わらない帰り道のはずだったのだが、その日はいつもと大いにかけ離れていた。僕はふと目についた異形のそれを指さす。
「……ねえ、あの横断歩道に立っている女の人がずっと僕達のことを睨みつけてくるんだけど」
「……一樹、あんた熱でもあんの?」
澪はしばらく僕の指さす先を凝視した後、顔をしかめて僕を見おろす。
「いや、あれだよあれ……」
僕がもう一度そちらに目を向けると、途端に強烈な違和感に襲われる。その女性の背後で信号が赤く点灯しているのが目に入る。信号無視というどころではない。彼女はそこから一歩も動かず、ずっと僕達の方を睨み続けている。このままでは、
「あぶな……」
その後に続く言葉は声として形成される前についえる。横断歩道に立ちつくしていた女性を狙っているかのように一台のワゴンが通り過ぎた。
一気に汗が全身に滲む。事故だ。しかもひき逃げだ。ブレーキも一切かけずに、衝突音も一切せずに……衝突音がない?
そして眼前の光景に僕はさらに混乱する。横断歩道上には事故の形跡など何もなく、そして何事もなかったかのように女性が依然として僕達を睨み続けているからである。
「いや、なんで……」
「ちょっとどうしたの一樹、あんた今日おかしいわよ」
僕の尋常ならざる様子を見てさすがに冗談ではないと思ったのか、澪が心配そうな表情で僕の顔を覗き込んだ。
「逃げよう!」
僕はとっさに彼女の腕を掴んで帰り道と逆の方に走り出す。覗き込んできた澪の顔の向こうで、女性がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。澪はまだ状況が呑み込めていないようであったが、僕の真剣な表情につられて珍しく素直に僕に従った。
どれくらいの時間走ったのだろう。案外さほど走っていないのかもしれない。
おそるおそる背後を振り返ると、あの女性の姿はなかった。