夢境旅行もほどほどに
「なんでお前は学校に来んだよ。いつも俺達が身をもって分からせてやってんだろうがよぉ!」
うるさい。お前らのような屑の顔を忘れないためだ。
俺はこの世界ではこんな扱いだが、本当の俺は凄いんだぞ。当然、お前らには分からないと思うがな。
本当の俺は、魔王を倒したんだ。世界を救ったんだ。時には魔王になったり、世界を征服したりした。動物の王になったこともある。どう足掻いてもお前らにはたどり着けない世界だ。俺はそこにいるんだぞ。そんな俺に対して偉そうにしやがって……いつかこの世界も征服してやる。それまで精々偉そうにしているんだな……
今日は不思議な世界だ。まだ俺が見たこともない世界。
色とりどりの花に囲まれた地面。星一つない夜空にポッカリと浮かぶ黄金の月。最高じゃないか。こんな世界。偉そうにしているあいつらじゃ一生見ることの出来ない光景だろうな。
さぁ、今日はどんな世界が俺を待っているんだろう……
「月の向こうの世界。あなたは興味がありますか?」
おっ、なんだ。月が話しかけてきた。
「そりゃ、興味あるさ。そんなの普通じゃ見ること出来るはずないからな」
「そうですか。でも、辿りつくのは難しい世界ですよ。自分を失うかもしれない。それでも見たいですか?」
「俺を誰だと思ってるんだ。色んな世界を見てきた男だぞ。月の向こうだって見れるさ」
「分かりました。では行きますよ」
体が浮いた。俺の体が重力を嫌いだしたんだ。
どんどん昇ってゆく。月に近くなっていく。
なんだあれは。月にぶら下がっている人間が沢山いる。そうか、あれは月の向こうへ行くのに失敗して死んだ人間達なんだな。月はそれを見せ付けることで俺に恐怖を植えつけようとしているわけだ。
でも、全然不安を感じない。これなら魔王の魔法のほうが全然恐かった。
今の俺は、闇にまたがっても恐怖を感じない。そんな気がする。
なんて綺麗な世界なんだ。月の言葉はなんだったんだろう。
早く月の向こうが見たい。いや、もう少しこの美しい光景を眺めていたい。
もう、この世界から離れたくない。
「着きましたよ。ここが月の向こうの世界です」
ここは……やっとだ。やっと待ち望んだ世界を見た。ここなら復讐が出来る。いよいよ俺は自分の世界にあいつらを引きずり込んだんだ。
そうか。月の向こう。それは、自分の望む世界……最高だ。魔王を殺し、世界を救ったときより、魔王として世界を征服したときより……これほど嬉しいことはない。
「目が輝いていますね。お気に召されましたか?」
「当たり前だ」
今すぐにでも復讐したい……
「そうですか。また……一人堕ちてしまいました……残念です……」
「何か言ったか?」
「いえ。それでは向こうの世界を楽しんでいらっしゃいませ」
まずは親だ。あいつら、俺の事を散々馬鹿にしやがって。
産んだのは誰だ。生まれた俺に暴力ばかり振るいやがって。最低だ。あの世界では何もいえなかったが、この世界では俺が主役だ。思う存分復讐してやる。
ハハッ。流石は主役だ。こんなところに刃物がある。偶然だ。偶然の必然だ。
いつかはこうなる運命だったんだ。当たり前だ。俺は凄いんだ。アハハ……アハハハハ!!
「や……やめて!!」
「やめろ! 近寄るな!」
うるせえよ。てめえらが勝手にヤって勝手に産んだ子どもだろうが。
責任持って扱えよ。一生、てめえらの憂さ晴らしで終わると思ったか? 心の中では暴れまわりながら復讐の機会伺ってるんだ。いつか殺してやるってな……やっとその時が来たぜ。死ね!
赤い血だ。ダラダラ流れてる。止まらない。もう死んでる。俺は一つの復讐を果たした。後悔もない。涙も流れない。赤い血なんてもう見飽きてしまったよ。ただ嬉しい。間違いない。俺は今、幸せだ。
次はあいつらだ。俺に対して偉そうにしてたあいつら。俺はあいつらを許さない。
ここはもう俺の世界だ。あいつらに偉そうな顔はさせない。復讐だ。あいつらも殺そう。
「おい。今日も来たぜ。こりねえなぁ全く。いつか止めてくれるなんて思ってるんじゃないだろうな? それはないぜ? だって楽しいんだからよぉ!」
俺も楽しい。凄く楽しい。さぁ、一緒に楽しもう。
「おい……何持ってんだよ……そんなもんで俺達がビビるとでも思ってんのか? 刺せるもんなら刺してみろよ!?」
刺せるさ。ここはもう俺の世界なんだ。お前らがどれだけ偉そうぶっても俺が主役なんだ。誰も俺を止められない。
「わ……分かったよ。もう、お前には構わないから……だから止めてくれよ……」
なんだ。一人刺し殺しただけで小便ちびって命乞いか。所詮、こんなもんだ。みんな俺の世界ではこんなもん。どれだけ偉そうぶってても主役の俺には敵わない。
俺の復讐がドンドン果たされていく。快感だ。もう、誰も俺を止められない。周りの奴らも俺に対して恐怖した眼で見つめている。
……や……やめろ! 俺は主役なんだぞ! そんな馬鹿な!? 主役の俺が……
「確保致しました! 直ちに連行いたします!」
「なんでこんなことをしたんだ!?」
「ここは俺の世界ですよ。俺が主役なんです。主役の俺は凄いんです。魔王も殺せるんですよ? 月の向こうも見れたんですよ? さぁ、早く俺を解放するんだ!」
「こいつは駄目だな……」
「えぇ……」
こいつらは分からず屋だ。これだけ言っても俺の凄さが分からない。いや、こいつらに分かるはずがないか。
まぁいい。いつか必然的にチャンスが巡ってくるさ。
その後にこいつらに復讐すればいい。
俺が慌てることはない。だってこの世界は俺が主役なんだから。
一人称の練習短編第二弾です。
今回は自分的にはまぁまぁ一人称を使えてるかなとは思うのですがどうでしょうか(汗)
しかしまぁ、話の移り変わりは空白に頼ってるので、次はそこもしっかりと表現していきたいですね。