線~ライン~
僕の頬を冷たくなってきた11月の風が撫でる。
空に放り出した足をぶらぶらさせながら、鼻唄をうたう。
今のお気に入りは、「渚のアデリーヌ」だ。夕暮れの寂しい感じがして好きだ。今はまだ、太陽も昇る時間だけど。
授業中だから、静かなものだし、屋上は立ち入り禁止なので、誰も来ない。
屋上は、フェンスが設置されてないので、基本的に南京錠がかかっている。偶々読んだ漫画にヘアピン二本で南京錠を開ける描写があり、やってみたら簡単に開けることができた。
この時、鍵が開かなかったら、僕の人生は違っていたかもしれない。
屋上には、給水タンクしかなく、端は申し訳程度しかない高さのコンクリートが固めてあるだけだ。
僕は、そのコンクリートに登ってすわり、外側に足をだしているのだ。
何処かのクラスが校庭で、体育の授業中だ。サッカーかな。音楽の授業中のクラスもある。何かの歌が聞こえる。
うちのクラスは、たしか現国だったはすだ。
そんなことを思いながら、学校の隣にある神社を眺める。大きな木がたくさん生えていて、カラスもたくさん集まるので、いつみても暗い。僕と一緒だ。
すると。後ろのほうでバタバタと慌てた足音がする。
ーーばたん。
屋上の扉が開き複数の足音が屋上に出てくる。
「そこでなにをしている!」
この声は、教頭か。中年太りの胡麻塩頭だ。
「教頭、そんな大声をだしたら、驚いて落ちてしまいます。」
これは、担任だな。おっとり系の少しずれた担任だ。面倒なのがきたな。
「鉞くん。落ち着いて。」
委員長まできたのか。こいつは、担任と同じタイプで最近、担任に傾倒しているようだ。
面倒くさいなあ。
ゆっくりとコンクリートの上に立ち上がり、教頭たちの方を向く。
「何かようですか?」
「何かようだと?屋上は立ち入り禁止だ。」
「そんなことより鉞くんがあぶないです。鉞くん、そこから降りましょう。あぶないですよ。」
まるで幼稚園児に語りかけるような優しい口調で担任がはなす。高校生に向かってその口調は、ばかにしているとしか思えない。
「そうよ。あぶないわ。」
同調する委員長も、優しく語りかけてくる。本人は、担任と同じでばかにしている気など毛頭ないだろう。
「あぶないねぇ。そんなあぶないことをなんでしてるんでしょーか。」
少しふざけた言い方で聞くと、
「貴様、ばかにしてるのか!」
と教頭。
「なぜ、やっているのかしら。教えてくれるかしら。」
と担任。
「もしかして、あれが原因で?」
と委員長。
「ほー。委員長は心当たりがあるんだ。」
と僕。
「あら、高崎さん。知っているの?」
「…あの。はい。それは…」
「早く言いなさい。何を口ごもっているのだ。」
「その、クラスの男の子達が鉞くんに嫌がらせをしてて。」
嫌がらせねぇ。ものは言いようだな。
「ふん。いじめなんてものは弱いからされるんだ。体と心を鍛えればいじめなんてあうわけがない。」
「あら。なんてこと!鉞くん、つらかったわね。先生、気付いてあげられなくて、ごめんなさい。話を聞くわ。だからこちらに降りてきて。」
「私も知っていて男の子たちに注意はしていたけど、そこまで思い詰めてるなんて。…ごめんなさい。」
…勝手に話をすすめんなよ。
三人が自分の意見だけをならべる。
話を聞いてあげるなんて、はなから思ってないのだろう。教頭は教育者としてどうかと言う発言をしているし、担任は、いじめられっこのカテゴリーの僕に教科書通りの言葉をかける。そして委員長は、自分のせいで、いじめが激化したのに気付いていない。
はぁ。出てしまった大きなため息と共に、考えを述べる。
「学校は社会の縮図らしいからさ。僕、こんな人たちのたくさんいるようなところでやっていける自信がない。さっさと諦めることにするよ。」
そう言いって外側を向く。
何か後ろでごちゃごちゃ言ってるけど、これ以上はなしても、いらいらするだけだし、面倒くさい。
そして僕は、一歩を踏み出した。
この作品は、いじめを肯定・助長する意図はありません。