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プロローグ

 乾いた赤茶色のグラウンドに、ギラギラとした七月下旬の太陽が容赦なく照りつける。たち昇る陽炎を掻き分けるようにして耳に飛び込んで来るのは、鼓膜をつんざくほどのセミの鳴き声だ。

 だが、そんな夏の暴力に負けてはない、いや負けるはずのない女子中学生たち。

 野球場のホームベース前に五人づつ二列に並んで集結した総勢十名の彼女たちは、土埃にまみれたユニホームに身を包んでお互いを見合っていた。


「残念ながら、我が『さざなみ中学女子ソフトボール部』は、本日の中体連地区予選一回戦であえなく……そう、誠にあっさりと大差をもって敗退した。つまり私たち三年生は、まだ夏休み序盤だというのにさっさと引退してしまわねばならぬということだ!」


 小麦色に焼けた女子中学生たちが、一斉に下を向く。

 悔し涙か、単なる汗か――いくつもの水滴が、彼女らの頬をつたってグラウンドへとぽたりぽたりと落ちていった。


 普通なら、ここで部活顧問の感動的なお話があるところだろう。だが、それが始まる様子は微塵もなかった。

 顧問らしき男性教師が、近くにいることはいる。

 いるのだが、黒のジャージをだらしなく身に着けたその男は、遠くの方にあるベンチに足を組んで座ったまま動かず、このセレモニーに参加する意図がまるでないのだ。放任主義なのか無責任なのか……判断は難しい。

 自ずと、今日をもって部長キャプテンを降りることになるらしいその少女が、演説を続けることになる。


「まあ、終わったことはもういいわ。では私から、次のキャプテンを指名しようと思う。如月きさらぎさん、前へ」

「……はい」


 部長キャプテンに名前を呼ばれ、一列に並ぶ二年生と一年生の列から一歩前に出たのは、部活少女にしてはややほっそりめの中学二年生、如月きさらぎ みなみだった。165cmの身長は、五人並ぶ三年生と比べても決して見劣りしない。

 深めに被った白いベースボールキャップのひさしから、くりくりとした大きな瞳を覗かせている。


「如月さん、今日からあなたがキャプテンよ。私たち三年がいなくなると部員が五人しかいなくなってしまうけれど、かつては強豪校だったこのソフトボール部、是非盛り上げていって欲しい」

「……はい。わかりました」


 三年生の面々の瞳から、涙が溢れた。それと同時に、下級生たちが泣きじゃくる先輩に駈け寄った。グラウンドは、青春の汗と涙で一杯になった。


 ――そんな感動的風景を遠くから見つめる、一人の人物がいた。

 その人物は、校舎の陰に身を半分隠しながら、彼女たちの創り出す感動シーンを唇を噛み締めて見ている。


「強いは美しい。美しいは強い。強くも美しくなければ、その存在意義はない」


 吐き捨てるようにそう言った人物が、校舎の裏側へと消えていく。

 その背中からは、秘めた“思い”を含む怪しい妖気オーラが放たれていた。

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