短編集 春夏秋冬、始まりと終わりと何気ない物語。
久し振りの晴天だった。
昨日までの雨が嘘のように晴れ上がって、雲ひとつない青空だ。
「もう夏だね。」
君は言った。
君の黒い髪がなびいて、美しかった。
長らく見ていなかったその姿は、今でも前と変わらず僕の憧れそのままだ。
君のはきっと何も変わっていないだろうけど、僕はあまりにも変わりすぎて、君の笑顔が素直に見れない。
海岸沿いの道路を「二人」並んで歩く。
本当に、君と外へ出かけたのはいつ振りだろう。
昔、と言ってもほんの数年前まで僕と君はいつも海岸で何をするでもなく、一緒に時間を過ごしていた。
波打ち際まで行って、じゃれあった。
砂に足跡を残して遊んだ。
暮れ行く日を見た。
「今はどう、うまくいってる?」
君の質問に僕は首を少しひねった。
今は、僕はきっと幸せだ。現実だって見てるし、あきらめの心はまだ現れない。この先も見ているつもりだ。
これを言ったら、君は喜んでくれるだろう。
まるで自分のことであるように手を叩いて心から喜んでくれるだろう。
だけどそれは、同時に僕と君の別れを指している。そのことに君は気づいているのだろうか。
「うぅん。」
「あはは、前と変わらないんだね。いっつもはっきりしなくて。」
いつのまにか、いつもの海岸まで下りていた。
君ときまずいと思ったことなんてただの一度もなかったのに、今はどうしても言葉が見つからない。
「変わったね。もう、この海岸は面白くない?」
そうじゃない。
だけど、僕は、もう――――
「大人になってしまったんだね。」
僕は驚いて君を見た。目が合って、君が変わっていることに気づいた。
「知ってるよ。」
君があどけない表情で笑った。
「待って、待てよ。」
掴めないはずの君の腕を掴もうとした。
まだ、何も言えてない。言えてないよ。
だから、お願い―――
「もう、待てないよ。」
あ。と、思ったときには、君の姿はもう僕には見えなかった。
その時、僕は自分が泣いていることに気づいた。
気づいた瞬間、涙が止められなくなった。
悲しくて、寂しくて、…だけど。
後悔はしていなかった。
君は――彼女は、最後まで笑顔だったから。