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 チャイムが鳴り、放課後を迎えた。

 日直が締めの挨拶をし、1日のカリキュラムが終わりを告げる。一時の解放感に包まれる教室から足早に去ろうとする担任を長谷部が呼び止めた。

「先生相談があります」

「なんだ?」

 登呂先生の担当科目は古典で、勤続二十年のベテランだ。長谷部は例の噂についてインタビューすることにしたらしい。

「ここじゃ相談しにくいんで廊下でいいですか」

「それは構わんが……進路相談室でもいいぞ」

「あ、そういう話じゃないんです」

「そうか。それなら廊下でいいか? あまり時間はとれんが」

「それでお願いします。あ、ほら、いこうぜ」

 促され、無視するわけにもいかず、立ち上がった。

 登呂先生は長谷部と俺とを交互に見て、微かに首を捻った。


 廊下の奥にある談話スペースで先ほど同様クラブ誌を広げ、長谷部は単刀直入に登呂先生に尋ねた。

「この学校、人が死んでますよね?」

 あまりにもストレートな聞き方に、たまらずにやけてしまった。

「なにをバカなことを……」

「五年前の文学部のクラブ誌を見つけました。ここの……」

 長谷部は熱弁を奮ったが、登呂先生は腕を組んで、常に不機嫌そうな顔をしているだけだった。

 数分たって説明が一段落したところで登呂先生は口を開いた。コーヒーとタバコの臭いが混じった口臭だった。

「よく調べてあるのは感心するが、時間の無駄だぞ。その件についてはお前たちの思い過ごしだ」

「でも、無関係じゃありませんよね。それに幽霊が間違いだとしても、クラブ誌に書かれていることは」

「事実無根だ。その文集に寄稿した生徒は小説家志望でな。少し変わった子だったんだよ。わかったらこの話はおしまいだ」

 帰宅時間を迎えた校舎は騒がしい。長谷部は声を喧騒に滲ませるように続けた。

「それならせめてこの年の……五年前の卒業アルバムを見せてくれませんか?」

「無理に決まっているだろ。プライバシーの問題もあるし、やたらめったら保管場所に立ち入りはできない。諦めろ」

 ピシャリと言われて長谷部は押し黙った。

「そろそろいいか? 会議があってな」

 登呂先生は重たい体を揺らし、ゆっくりと立ち上がった。

「あの、別件なんですけど、学園誌を探してもらえませんか?」

 食い下がるように早口で言った。

「学園誌?」

「先輩に聞いた話によると二年前に創立百年を記念した『十和森高校百年の歩み』という本があるとか」

「ああ、あったな。そんなもん読んでどうするんだ?」

「他の記事で使うんです。図書室に言ったら、置いてないそうで、それなら職員室のほうだろうと」

「探しておくよ」

 左手に留められた腕時計をちらりと見やり、登呂教諭は言った。

「あんまり下らないこと時間かけるなよ。勉強しておいたほうが得だぞ」

 半ば強引に話を打ち切り、ビール腹を揺らしながら、小走りで職員室に向かっていった。

 大きな背中が小さくなり、廊下を曲がって見えなくなったところで長谷部は浅く息をはいた。

「これだけ頑なに隠すのはやはり怪しいな。これはひょっとしたらひょっとするかもしれないぞ」

「なにが」

「鈍いな。いじめの隠蔽だよ。そうとしか考えられないだろ」

 学校側が『いじめはなかった』と断言したのち、自殺者の両親がマスコミを通じて糾弾し、後々謝罪の記者会見を開く、という光景を何となくイメージした。

「いじめで飛び降り自殺をはかったと?」

 ふふん、と鼻をならして彼は得意気に自らの推理を語りだした。

「仮に生徒Aとしておこうか。生徒Aはいじめられっ子だった。それを苦に学校から飛び降りたんだ」

「そんな大事になればいくら年月が経とうともっと大きな噂になってるだろ」

「まあ、落ち着け。飛び降りただけで死ななかったらどうだろう?」

「どうもこうも、そしたらクラブ誌と矛盾するだろ、……あ」

「気づいたか」

 にたりと笑って長谷部はクラブ誌を開いた。茶色い再生紙に記載された文面を再び指差し言葉を続ける。

「ここ、卒業式をともにできなかった、つまり死んだとは書いてないんだ。例えば飛び降りたが入院が長引いて留年した、あるいはいじめに耐えきれず転校した。学校はそれを隠したがっている。文集は下級生におくるメッセージ」

「考えすぎな気がするが……それだったら事故の可能性だって考えられるだろ。誤って落ちたとか」

「事故か……その可能性は低い」

「なんで?」

「行けばわかるさ」

 長谷部は鞄の肩紐をかけて立ち上がった。



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