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 穏やかな西日が廊下を茜色に染める。

 少し開かれた廊下の窓から金木犀が薫った。

 吹奏楽部の演奏が風に流れて良くできたBGMのように感じられた。

 放課後とはいえ校舎にはまだ人が多く残っている。そんななか、空き教室の壁をよじ登り、廊下側の窓から侵入する長谷部の行動を、目立つのが嫌いな俺には理解できなかった。

「よし、来てくれ」

 内側から教室のドアの窓を開けた長谷部は、肩を上下させながら俺を空き教室に招いた。紺のプレザーには白いホコリがついている。

 預かっていた鞄を差し出す。軽いお礼を言って受け取ってくれた。

「こんなとこになんの用があるんだ? わざわざ侵入までして」

「簡単なことだ。この教室が現場だと睨んでる」

 現場とは、すなわち五年前の文集にあった、生徒が飛び降りた場所を指すのだろう。

「根拠は?」

 室内はホコリ臭く、軽く咳き込んでしまう。

「一組、二組、三組、四組、五組あって、少子化の影響で空き教室を作るとしたら、普通五組を潰すだろ?」

「まあ、そうだな」

「この階だけ、真ん中の教室が空きになってるんだ」

 校舎は三階建で、進学科、普通科、スポーツ科、調理科と四つの選択コースによって号棟が変わる。

 長谷部や俺は進学コースであり、普通科の校舎に来ること自体初めてだった。

「窓を調べてみてくれ」

 言われた通りにカーテンを開けると、ホコリが舞ってキラキラ光った。

 ガラスに変わったところはないが、指紋の跡などがベタベタ残っていた。

 換気する意味も込めてクレセント錠を上げて、窓を開ける。

 スライド式の窓だ。全開にしようと思ったが、半分もいかないうちにストッパーに引っ掛かって、完全に開くことは無かった。

「やっぱりついてたか。二階以上の窓には全部ストッパーがついていて半開も行かないうちに止まるようにできているっぽいんだ」

 棧に白いストッパーがつけられているのが確認できた。

 風がふわりと前髪を撫でた

「事故が起こりうるかどうかを確かめてみろ」

 言われるまでもなかった。意識しなければ、肩を出すことさえ難しく、かろうじて頭が通るくらいの隙間しかない。

「なるほど」

 外界の空気を感じ、雲一つない夕焼けに目を細めながら相づちをうつ。

「たしかにこれは無理そうだ。相当なバカか、自殺志願者じゃない限り落ちることはないな」

「問題があるとすればそのストッパーがいつからつけられていたか、という点だ」

「だから学園誌を頼んだのか」

「ああ。生徒の安全保障がどの段階でしたのか知る手がかりになるだろ」

 歯列矯正器具を見せて長谷部が笑うと同時に校内のスピーカーがプツリと音をたてた。

「一年三組の長谷部恭一さん。職員室で登呂先生がお待ちです」

 ピンポンパンポン、と放送が切られる。図ったようなタイミングの良さだ。

「噂をすればなんとやらだ」

 肩をすくめ、雑多に並べられた席の隙間を縫うように長谷部は職員室に向かっていった。

「俺は登呂から学園誌をもらってくるから、この教室を調べておいてくれ」

 ドアを閉める前に言われた。

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