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12 死因を探る


 彼女は数学に嫌悪感を抱いているだけで、出来ないというわけではなかった。どうやら教師と相性が悪いらしい。たぶん教え方が下手くそなやつに当たったのだろう。二時間程度の勉強で、苦手が得意に代わるわけもないが、俺がしたいくつかのアドバイスで多少は苦手意識が薄れたらしかった。

「教え方、うまいね」

「そうか。普通だろ」

「ううん。上手いよ。そっか、そういう感じで言えば伝わるんだね」

「……甘夏?」

「あっ、ごめん、今は私生徒だもんね。あ、ここもわからないの。教えて」

「ああ、そっちはこっちの公式を……」

 甘夏との勉強は楽しかった。

 久しぶりに生きているような感じがした。

 なんでかわからないが、幸せな気持ちになった。


「ふぅー」

 しばらく勉強をした後、甘夏は伸びをした。

「ありがと、おかげで赤点は回避できそう!」

「いや、百点めざせよ」

 高得点は期待できそうにないが。

「御の字だよ。うんうん。脳を使ったから、疲れちゃった」

 そのまま倒れこむようにベッドに横になる。

「もう寝るの?」

「明日朝早く起きて復習するの」

 枕元の目覚まし時計をセットしながら、足をバタバタと動かす。

「じゃあ、俺も寝ようかな」

「どこで?」

「……床」

 いままでベッドで寝てきたことを責めているのだろうか。甘夏は枕に顔面を埋めさせた。

「腰痛くない?」

「別に……」

「……あのさ、睡眠欲求ってあるの?」

「ん、ないよ。ただ気づいたら意識が無くなってるだけ」

「それならさ、寝ないでおくこともできるの?」

「んー、どうだろ、やってみないとわかんないけど、たぶん大丈夫だな」

「なら、寝ないで」

 枕に埋めていた顔をがばりと起き上がらせて俺を正面から見つめる。

「は?」

 謎のお願いに一瞬呆けてしまった。

「な、なんで?」

「たぶん気づいてないから教えてあげる。私、あなたに会うの二週間ぶり」

「……は?」

 訳がわからなかった。

 二週間って、14日?

「な、んだよ、そら」

「一番最初の雨の日にあなたと会ってその日の夜に消えて、次の日の朝に現れて、二週間経ってからまた会ったの」

「どういうことだ」

「たぶん、寝ると、この世から意識が無くなるんだと思う、あなたの」

 理解が追い付かなかった。

「もし、このまま寝て、目が覚めなかったら……」

 久方ぶりの感覚だ。

 全身が粟立つ。

 もし、目が覚めなかったら、それこそが本当の死になるのではないだろうか。

「今は、インターバルってことか……」

 崩れるようにして、床にしゃがみこんだ俺を、甘夏は優しい瞳で見ていた。

「もし、まだ迷いがあるなら、もう少し自分を探してみるべきだと思うの」

「迷いねぇ……」

 そんなものは無かった。記憶が無いのだから当たり前だ。

「そうだな。甘夏の巫女姿見れたら、逝くかな」

「……ばか」

 呆れたように罵倒された。




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