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なんでこんなことになったのだろう。
青春を浪費しているような気がしてならない。家に帰ってもやることはないが、少なくとも現状よりは不毛な活動は無いだろう。
大多数の人にとっていつもと同じ三百六十五分の一日だけど、高校二年生の今日という日は二度と訪れないはずなのに。
深くため息をつき、窓から身を乗りだして、赤く染まる外壁を睨み付けた。
夕焼け、夕暮れ、黄昏、おうまが時。
秋の空は赤くなり、世界を闇へと染め上げていく。
そんな叙述的なことを思ったって現状が好転することはない。
俺はただ与えられた仕事をこなすだけだ。
噂がどうあれ、文学部のクラブ誌が真実だとすると、誰かが飛び降りたのは間違いないだろう。
五年前なので痕跡が残っている可能性は低いが、地面にヒビが入っていないとと言い切れない。
目を凝らす。霞む視界。
「む」
ピントがあった。壁にシミがある。
どうにも自然にできたようなものではない。
よくよく見ると赤黒く、何本も線になっている。足跡のようだった。
ここからじゃ見えにくい。
「なんだ、あれ」
独り言を呟いて、さらに身を乗り出す。気になると夜も眠れなくなるたちなのだ。
それが不味かった。
叩き付けるような突風が起こった。
先ほどの自らの発言が脳裏を掠めた。
『よほどのバカじゃないと落ちることはない』
咄嗟のことに反射神経が一瞬遅れた。窓枠をつかもうとした手が空を切り、よろけた体は垂直に、まっ逆さまに、地面めがけて落下した。
どうやら、俺はバカだったらしい。
好奇心は猫をも殺すとよく言うが、俺を殺すなら、一陣の風で十分だ。
声もでない。突然のこと過ぎて、理解が追い付かない。一瞬の浮遊感と強風。
どんという衝撃を感じ、俺の意識は霧散した。
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