至高の歌
この世のものとは思えない声だった。聴けば心は天へ舞い、歌が終わる疲れは取れすっきりとするが、歌の内容を思い出せない。観客は今日も静かに、足早に家に帰って行く。
「いいのかい? 君の歌は誰にも届かないよ」
「いいの」
かつて、綺麗なだけの歌と言われていた私は、綺麗な歌がほしいと乞われてここへ来た。あの日出会ったこの人は、困ったような笑みを浮かべる。
「綺麗な歌に、脳波の調整をさせる。私の歌は誰にも聴かれていない。でも役に立つでしょう」
「僕は心が汚れているから、君の声は歌に聴こえる。脳波とかじゃなくて」
お世辞だろうか。私は微笑んで、自分のためだけに鼻歌を歌った。
綺麗なだけの、旋律を。