カボチャパンツと巨大な女の子
俺は状況が飲み込めないものの、なんとなく木の怪物から出てきた巨大な女の子が、月夜の仲間だというのは分かったので、月夜にまずは小屋に戻ることを提案した。
月夜に聞きたいことはたくさんあったが、巨大な女の子が気を失っているので、安全な場所に戻った方がいいと判断したからだ。
月夜はすぐさま同意し、俺たちは小屋に帰ることとなった。
「で、帰るのはいいんだが、どうやって連れ帰ろうか」
俺はグランディと呼ばれた巨大な女の子を見た。
とてもじゃないが、俺がおぶれるような大きさじゃない。
グランディが立てば、子供と大人、いや、それ以上の差がありそうだった。
「うーん。そうだねぇ……。大きめの荷車を作ってそれに乗せようか」
「荷車を作る?」
「うん。探索で集めた資材を持って帰るのに、作ろうと思っていたんだよね。その荷車のサイズを大きくするだけだから簡単簡単」
「そうなのか」
「うん。それじゃあ作っている間、グランディをよろしくねご主人」
そう言うと月夜は転がっていた石を拾い、殴った。
「へ?」
俺は月夜のいきなりの行動に目が点となる。
月夜はもう二度三度と石を殴り、割って先を尖らせた。
「うん、こんなもんかな」
「それ、まさか……」
「石ナイフ。これで荷車を作るの。よし、オッケー。荷車を作ってくるね」
月夜は少し離れた位置にある木を、切り倒し始めた。木を勢いよく石ナイフで切りつけ、手早く倒していく。
この調子なら、あっという間に荷車が出来そうだ。
「建築も月夜がやるって言っていたが……」
これだけの技術があるのだから、人間を頼る必要がないのも納得だ。
「さて……」
手持ちぶさたの俺はグランディを見た。
グランディの白に近いクリーム色の頭には、無数の茶色い小さなトゲが生え、額にも同じ色の大きなトゲが二つ生えていた。
俺はもっとよく見る為にグランディに近付いてみる。グランディの身体の横にしゃがんだ。
「これトゲじゃなくて髪の毛だな」
額のトゲ以外は全部髪の毛の一部だった。トゲに見えていたが、どうやらくせ毛のようだ。
「どんなくせ毛だよ」
髪の毛をじっくりと見ながら、顔に移動する。
グランディは健やかな顔で寝ていた。
頭の形に沿った短く丸い髪が、顔にかかっている。
「ケガとかはなさそうだ」
髪と同色の厚手のドレスに包まれた身体に、目立った外傷はなかった。
俺はホッとする。
「しかし、凄いマントだな」
俺はグランディの身体ごしに手を伸ばして、マントをつまみ上げた。
マントの裏はトゲでいっぱいだった。
「これ着づら――、うわっぷ!」
く、苦しい!
俺の目の前は肌色でいっぱいになった。
暖かく柔らかいものに顔が包み込まれる。
「ちょ、離!」
顔を剥がそうと手で押し返すが、どうやら両手で頭を抱え込まれているようで、びくともしない。
それどころか、グランディの腕の強さは増すばかりだった。
ふにゃりとしつつも、それなりに弾力もある柔肌の胸。
いっそ思い切り顔を埋めて堪能したくもあったが、それを選ぶと胸に溺れ死ぬというマヌケな結末が待っている。
いや、いっそそれもいいかもしれない。
頭がだんだんと白くなる中、俺は抵抗をやめた。
全力でこの柔らかくふくよかな胸を楽しもう……。
もう何も考える必要はない……。
「ご主人、何やってるの?」
頭をグッと引っ張られ、グランディの胸から剥がされた。
俺は鼻から大量に息を吸う。
何度も何度も吸い、肺に酸素を送り込む。
目の前が白からカラフルへと戻り、チカチカと瞬くのと同時にぐらりと目眩を感じた。
し、死ぬところだった……。
「助かった……」
「ご主人グランディに顔を近付けたでしょ」
月夜が俺をうろんな目で見る。
「へ?」
「グランディに何してたの?」
確かに俺はマントを見る為に、グランディの肌すれすれまで近寄った。
「あ、いや、その」
珍しく胸より奇抜な服装に目がいったのだが、悲しいかないつものくせで、後ろめたくないはずなのについ口ごもってしまう。
「ご主人〜?」
そのせいで月夜の視線がますます痛くなった。
「あ、いや違う違う! 勘違いするなよ? ケガがないか確認してただけだ!」
「本当?」
「本当だとも! ほら、それより荷車は出来たのか?」
さっさと話を変えてしまいたい。
「早くグランディを連れ帰ろうぜ!」
「……そうね」
月夜は少し離れた場所に置いてある荷車へと戻った。
ふう、なんとか話をそらせたようだ。
「グランディを乗せましょう」
月夜が作ってきた荷車は、そこら辺にあるもので作ったとは思えない出来だった。
大きな一枚の板に、持ち手と木製のタイヤが付いているだけの簡素なものだったが、木の表面はカンナをかけたかのような滑らかさで、タイヤもどうやって作ったのかきちんと丸かった。
「凄いな! こんな短時間にこれだけのものを作ったのか!」
俺は荷車をまじまじと見る。もはや商品レベルの仕上がりだ。
「そ、そんなことないよ。キノコの娘ならこれぐらい普通に作れるから」
月夜は顔を少し赤らめながら言った。
どうやら照れているようだ。
顔を赤くした月夜は可愛いかった。
「は、早くグランディを乗せよ。ここ押さえていて」
月夜は荷車をグランディに近付けて、俺に荷車の板の端を指し示す。
グランディを乗せる時に、板が持ち上がらないようにということだろう。
「俺がグランディを荷車の上に乗せるよ」
俺はとりあえず荷車の端を押さえたが、月夜が交代するのを待った。
グランディの身体はかなり大きい。そして、それだけ重いということだ。
「ううん。大丈夫」
月夜は遠慮というより、何でもないという感じで答えた。そして、グランディの脇の下に手を突っ込み、軽々とグランディの上半身を持ち上げた。
「おおう」
俺が驚いている前で、月夜はあっさりグランディを荷車に乗せた。
「さあ、帰ろ」
月夜は俺に向けて笑った。
可愛い笑顔だが、怪力姿を見たあとでは、その笑顔も恐ろしかった。
そういえば、月夜は素手で石を割っている。
……月夜を怒らせないようにしよう。
俺はこっそりと心の中で誓った。