カボチャパンツと探索(3)
「私に任せて」
にっこりと不敵に笑う月夜は、デストに向かって走り出す。体勢を低くしているせいか、スカートが捲れ上がり、カボチャパンツが丸見えになっていた。
月夜はデストの目の前にたどり着くと、いきなり方向を変え、他のデストの前を横切るように走る。
デストはそれにつられ、月夜のあとを追いかけ始めた。
何をやっているんだ?
攻撃するでもなく走り回るだけ。
このままだと月夜は、デストに囲まれて動けなくなる。
月夜はデストを引き連れながら、俺からどんどん離れ、俺との間に木を五つほど挟んだ先で立ち止まった。
そんなところで止まったら……!
俺の不安は的中した。
月夜はデストに包囲され、身動き出来なくなった。全てのデストが月夜ににじり寄る。
「月夜!」
月夜と離れすぎていて、助ける為にここから走っても間に合わない。
どうすることも出来ずに焦る俺の視界の中で、月夜が叫んだ。
「ランプテロフラビン!」
月夜の身体から、蛍光緑の強い光が放射線状に放たれた。
眩しい!
遠く離れたこの位置からでも、月夜の光は俺の目を眩ませた。
俺は顔の前に手をかざして光を避ける。
しばらくして光が消え、防いでいた手を下げて月夜を見ると、デストの中心で勇ましく佇んでいた。
デストは月夜の周りをフラフラとしている。
至近距離であの月夜の強い光をくらったせいで、月夜が見えていないようだ。
月夜は不敵な笑みのまま、デストに向かって手を振り抜く。
「イルジンスマッシュ!」
月夜の手から放たれた稲妻を纏った白球が、デストに襲いかかった。
月夜の攻撃に触れたデストは大きく痙攣し、甲高い悲鳴を上げながら、その身体は黒い霧となって霧散していった。
月夜は次々と白球を打ち出し、デストを消していく。
デストの中心で、回るように白球を繰り出す月夜は、まるで踊っているかのようだった。
攻撃の激しさとは反対に、カボチャパンツが見えるほど月夜のスカートが優雅に翻る。
「おお……」
俺の見ている前で、あれだけいたデストが、月夜によって全て倒されていった。あとには何も残らない。
「本当に俺が戦う必要はないんだな」
俺は月夜の強さに感心した。
月夜が手を振って俺のもとに戻ってくる。
俺も月夜に手を振り返したその時、地響きとともに地面が揺れた。
「地震か?」
メキメキという木の割れる音が聞こえ、俺は音のする方を見る。すると、そこには巨大な木の怪物がいた。枝を手のように動かし、前にある木をなぎ倒しながらゆっくりと進んでくる。
「何だあれは! あれもデストなのか?」
月夜を見ると、遠くながら月夜も驚いているのが分かった。
月夜も驚くような状況。
俺の頭に警鐘が鳴る。
ここは逃げるべきじゃないのか?
木の怪物は月夜の方に進んでいた。
「月夜!」
月夜は戦う覚悟を決めたのか、木の怪物に向かって走り出した。
「無茶はするな!」
俺は月夜を追いかける。
未知の相手なら、ここは一旦引くべきだ。
木の怪物は月夜を潰すかのように、上から木の枝を降り下ろす。
それを、月夜は寸でのところでかわした。
木の怪物がいくら叩き潰そうとしても、月夜はヒョイヒョイとかわしていく。そして、木の怪物が両腕を振り上げた瞬間をチャンスと捉えたか、月夜は攻撃に転じた。
月夜が木の怪物の足元に突っ込んでいく。
しかし、それは失敗だった。
木の怪物は身体ごと倒れてきたのだ。
手の攻撃を諦めた木の怪物は、身体で月夜を潰すつもりのようだった。
それに月夜が気付いた時には遅く、走る方向を変えても、月夜は木の怪物の範囲から出られなかった。
月夜が木の怪物に潰されていく。
月夜は膝を付き、木の怪物を両手で押し上げようとしたが、ほとんど意味をなしていなかった。
「月夜!」
潰されるまであと少しというところで、木の怪物の真横に位置付けた俺は、持っていた水入りのタルを投げつけた。
タルは木の怪物の身体に当たった。割れて中身が木の怪物にかかる。
思わぬ攻撃でバランスを崩したのか、木の怪物は月夜の隣に倒れた。
この隙に俺は月夜に駆け寄る。
「月夜! 大丈夫か!」
「うん。ありがとう。助かったよ」
俺はしゃがむ月夜の手を掴んで引っ張り、すぐに立たせた。
「今は撤退しよう!」
掴んだままの月夜の手を引き、俺は木の怪物から離れようとした。
「ちょっと待って!」
月夜が足を踏ん張ったせいで、月夜を掴んだ俺の腕がピンと伸びる。
「ご主人、見て! 敵が起き上がろうとしないよ!」
月夜に言われて木の怪物を見ると、木の怪物は地面の上でノタノタと手足を動かすだけで、一向に起き上がらなかった。
まるでひっくり返した亀のようだ。
「どういうことだ? 身体が重くて起き上がれないのか?」
「身体が重い……」
「そんなわけないか。さっきまで普通に歩いていたしな」
それに、起き上がれないなら、身体で潰す攻撃なんてしてこないだろう。
「どうした月夜?」
月夜が何か考えている風に黙りこんでいる。
「ううん。ちょっと……」
考えていることは教えてくれないようだ。
「まあ、とにかく、今が攻撃時だな」
この好機を逃す手はない。
得体の知れない敵ならなおさらだ。
「月夜。攻撃だ」
「……うん」
まだ何か考えているようだったが、月夜は頷いた。
俺から少し離れ、月夜は缶のデストの時と同じように、腕を振り抜く。
「イルジンスマッシュ!」
月夜の手から稲妻の白球が飛び出し、木の怪物に当たった。
木の怪物は低い雄叫びを上げながら痙攣し、端から黒い霧へと姿を変えていく。
が、缶のデストとは違うことがあった。
「これは……!」
黒い霧の中から、俺の二倍以上はあろうかという体格の女の子が出てきた。
頭をこちらに向けて倒れているので、全身はよく分からない。
「グランディ!」
月夜が叫んで、巨大な女の子の頭にひしと抱き付いた。
その顔は喜びをたたえ、目に涙を滲ませていた。