カボチャパンツと俺(3)
先に行くことしか許されない俺は、腹をくくった。
「よし。やるしかないな」
「ありがとう!」
月夜が俺の手を取って、ブンブンと縦に振った。
さっきは逃げることしか考えていなかったが、月夜の手は温かくて……。
柔らかいな。
それにスベスベしていて、なんだか心地良い。
俺はこっそり月夜の手を堪能する。
「これで私たちのベルゴットを取り戻すことが出来るわ」
月夜は少し涙ぐんでいた。
これは慰めるフリをして、もっと触るチャンスかもしれない。
「月夜……」
俺は精一杯優しげな声を出す。そして、空いている左手を月夜の頭に伸ばした。が、その左手は空を切った。
「よーし、そうと決まればさっそく作戦を立てよう!」
月夜は手を離して急に立ち上がり、パソコンの方にいってしまい、俺の手は届かなくなってしまった。
くそう。
あともう少しだった。
「こっちに来て、……えーと」
月夜がアゴに手をあてて俺を見ている。
何か考えているようだ。
「どうした月夜?」
「えーと、私はあなたのことを何て呼べばいいかな?」
「呼び方?」
そういえば、月夜はさっきから俺のことをあなたと呼んでいる。思い出してみると、俺は月夜と出会ってから名乗っていない。
「救世主?」
「それはやめてくれ」
そんなごたいそうな呼び方は勘弁してほしい。
「勇者?」
「それもやめてくれ」
勇者なんて呼ばれ方は恥ずかしい。
「メシア?」
「やめろ」
黒歴史が疼く。
「じゃあ……」
今度はどんな呼び名が飛び出すのか……。
というか、普通に名前で呼んでもらえばいい。
とんでもない呼び方をされる前に、俺は名前で呼んでもらおうと口を開く。
「名――」
「ご主人?」
「それでお願いします」
俺は即答した。
「じゃあ、ご主人!」
そう言いながら、月夜はにっこり笑った。
おお、ご主人呼びする月夜の笑顔が眩しい。
「ご主人、こっちに来て」
おう、行く行く。
どこへでも行く。
ご主人と呼んだ月夜の声を頭の中で反芻しながら、俺は月夜の方へふらりと向かった。
「まずはパソコンの使い方を説明するからここに座って」
月夜はパソコンがのった机のイスを引き、座りやすいように俺の方に向けた。
俺はイスをじっと見つめる。
ここに座れば本格的に始まるわけか。
異世界救済への戦いが……。
背筋がゾクリとする。
「月夜……」
「どうしたの?」
「……先に着替えをくれないか」
俺は月夜に水をかけられてから、ずっと濡れたままだった。
「風邪をひいてしまう」
俺は震える身体を抱いて、鳥肌が立った両腕を擦った。