月の都から
地方のイベントに参加したくなってきた
永琳は今日も地球を見つめていた。何億年も昔の、あの日、愛した人と別れてから地球を見つめない日はなかった。彼は死んだ、きっとそうなんだ。そう思おうとしても、できない。教え子の姉妹は今や立派な月の指導者だ。彼女たちは今でも彼が生きていると信じている。そんな中で自分がそれを否定することなどできない。
「どこにいるの、遊助。きっとまた会えるわよね?」
呟く彼女にはもう一つ懸念があった。それは彼女の教え子にして親友、蓬莱山輝夜のことだった。頼まれたとはいえ不老不死の薬を作り、彼女に渡してしまった。それで彼女は地球に送られたのだ。来年にはその罪が許されて月に帰れるということだが、元気にしているだろうか。連れて帰る役を引き受けたが、ちゃんとやれているだろうか。永琳が地球を見つめながら考え事をしていると、
「先生、失礼します」
と、聞きなれた声が聞こえた。
「ああ、豊姫。入ってきなさい」
ふすまを開けて入ってきた少女は永琳の教え子、綿月姉妹の姉、綿月豊姫だった。
「どうしたの?今日は依姫がいないわね」
「妹は、玉兎を稽古しています。それで先生、今度地球に輝夜を迎えに行くようですが」
「そうよ。でもまだ一年も先よ」
永琳が言うと、豊姫は少し機嫌が悪そうに、
「輝夜なんて帰ってくる必要ないじゃないですか」
「それは言わないで。私も怒るわよ?」
永琳がそういうと、豊姫は
「申し訳ございませんでした」
と頭を下げた。
「もういいわ。それより今日はその時に別のことをしてほしいんでしょ?」
「流石です、先生。実は向こうに遊助がいたんです!」
永琳は目を丸くした。
「そ、それは本当なの!?」
「おそらく本当です。先月地球に向けて飛ばした探査機の写真にこのようなものが」
と豊姫が出してきた写真には、輝夜と、その隣に全く見た目の変わっていない遊助がいた。
「ああ、遊助。やっぱり生きていたのね・・」
「私もうれしいです。それで先生、頼みというのは、彼を月に連れてきてほしいんです」
「私はそうするつもりよ。でも地上の穢れがたくさんあるから、彼は月には入れないわ」
「わかっています。そこは依姫の能力で何とかして見せます」
永琳はうなずいた。
「それならいけるわね。じゃあ、来年、必ず連れてくるようにするわ」
「ありがとうございます」
そういって、豊姫は部屋を後にした。
誰もいなくなった暗い部屋で、永琳は一人椅子に座っていた。
「ごめんね豊姫。月には連れて帰れないし、私も戻れないわ」
永琳はビーカーの中の液体をのどに流し込んだ。




