際限なく増える嫁
LINEがうるさくて集中できないので、アンインストールしたくなる、血迷った自分がいる。
秋の終わりあたりから、由々子におこる異変が表に出てくるようになった。虚ろな目でよくわからないことを言ったり、西行妖の方にゆらゆらと歩いて行ってしまう。俺が止めようとしても、その手を払いのけてしまう。冬に入ったこの日もそんなことがあった。
「おい、由々子。冬だし寒いから家に戻ろうぜ」
「ええ、でもなんだかこの桜が咲くような気がして、それで」
だいぶ間が虚ろで、言葉にも感情をこめていないような気がする。
「何言ってんだよ、とにかく戻ろう」
すると由々子が突然切り出した。
「私ね、春が来たら死んじゃうの」
「えっ・・・」
死期を悟っていたのか。彼女は。
「この桜がね、お父さんの声で話しかけてくるの。生きていてもつまらない、この桜のもとで死ねればそれでいいんじゃないか、って」
「そんなわけあるか!それにお前がつまらないって思っているなら、俺が面白く、幸せにしてやるよ!」
俺は由々子を抱き寄せ、彼女の唇を自分の唇に重ね合わせた。
「・・・っぷはぁ、これって告白なのかしら?」
「そうだな、俺はお前を楽しくさせてやりたい、お前の楽しさや幸せはこれなのかと思った」
本当は彼女のことが好きになったのだがなんか恥ずかしくて言えない。
「本当は好きなの、わかってるわよ。紫のこともね、嫉妬しちゃうから言ってきてあげてね」
由々子のどこまでお見通しなのかわからないのがちょっと不気味だな。
その後紫にも好きだって言ってやった。なんかあてつけみたいだが、本心だ。紫は顔を赤らめつつも、
「そ、そんなことは前から知ってたわよ、あなたが私のこと好きだってのはお見通しよ!」
と今度は、紫が俺の方に抱き付いてキスしてきた。
チャラチャチャッチャッチャー
俺の頭の上で急に音が聞こえた。まるでRPGのレベルアップみたいだ。
「能力ゲットしたよー、能力ゲットしたよー」
「お前誰だ」
どこから聞こえているのかもわからない声はやがて消えていった。
「なんだったのかしら」
「さあ」
こんなことは初めてだ。そもそもこの能力はひなたがくれたものだから、今度彼女に聞いてみよう。
「とにかく、これからよろしくな。由々子も死ぬとか言わないでちゃんと生きろよ」
「はいはい、わかってるわよ」
その夜、夢の中に男が出てきた。坊主頭の男は俺に向けて語りかけてきた。
「娘をたぶらかすのはやめていただきたい。この世は死、で完成するのだ」
「何わけわかんないこと言ってんだお前。そんなことさせるわけないだろうが」
「残念だな、この考えが理解できないとは、憐れみすら感じる」
「いいよそれで、どうせお前にはもう何もできないからな」
そういうと男はすうっと消えていった。いったい何だったのだろうか
平安といえばあの人かな