一瞬だけの平和
どうしよう、タイトルが本分とあんまり関係ない気がしてきた。
また時間が少し過ぎた。降りてくることはほとんどないとはいっても、神奈子や諏訪子と暇つぶしに話すために遊助は地上に降りてきていた。今の彼に自分のかつての妻たちの記憶なんてないのだが、天照大御神はリスクがあることをわかっていたので、毎回ついてきていた。
「もういいだろ。別に一人でも行けるんだけど」
「だめよ、いなくなったりしたら怖いじゃない」
「そんなことしないから安心しろ」
「ダメって言ったらだめなのよ~」
「はいはい」
こうしていつも何とかして一緒に動けるようにしていた。もしかしたらあの妖怪どもと会って記憶が戻るかもしれない。そしたら私のもとから離れるかもしれない。そんな恐怖が彼女の心の大半を占めるようになってきた。そしてそれを防ぐためならどんなことでもする、心に歯止めがかからなくなってきていた。
「ういっーーす。神奈子、諏訪子いるか?」
「あーうー、いるよー」
「私もいるぞ」
「お邪魔するわね」
いつも話すときはこの4人で話している。結局はなすことなんて特になく、ひなたと諏訪子が酒に酔うだけなのだが、別にそれでもいいと思う。今の平和を味わえるのがいいのだ。というか俺この前何をしてたんだっけ。思い出せない、うっ、また頭が痛くなってきた。
「ひなた、また頭が痛くなってきた」
「あら、いつもの?待っててすぐ楽にしてあげるから」
そういってひなたが俺の額に手をかざすと、痛みがすうっ、と軽くなっていった。
「ありがとう、楽になったよ。ってあれ、急に眠くなって・・」
俺は次の瞬間床に倒れこんで、意識がなくなった。
「またですか、天照様」
「だって彼には聞かせられないもの。記憶戻っちゃうし」
神奈子は最近自分の上司である彼女に戸惑いを覚えていた。いやまず彼を連れてきたときからおかしいと感じていた。最初の方はまだ大丈夫そうであったが、今では彼がトイレに行ったり外をぶらぶらしていたりするだけで、イライラしたり、顔に焦りが出てくるようになっている。もちろん口には出さないが、このままではいけないと思っていた。
「それで近頃の妖怪の様子はどうなの」
「は、はあ。妖怪ですが、ここから少し離れたところに頻繁に表れるようになりました。こちらをうかがっているようです」
「そう、それは面倒ね。今度現れたら消してやろうかしら」
これはまずい。相手が妖怪とはいえ殺すことをまるで躊躇していない。以前なら冗談でもこんなことは言わなかった。
「ですが、あの妖怪どもは遊助の妻たちなのでは?それでは彼があまりに不憫です」
「大丈夫よ。彼に記憶が戻ることなんてもうないんだから。殺したのを知ったって、何とも思わないわ」
「そうかもしれませんが「やりなさい」・・・はい」
結局神奈子は逆らうことができなかった。諏訪子は今ぐっすり寝ているが、彼女もこの希薄には逆らえないだろう。
(すまん、遊助)
心の中でそう唱えつつ、元の調子に戻った太陽の神と酒を飲んでいた。
次の章は誰だそうかな