失われた記憶
台風すごいですね。僕の住んでるとこの近くも土砂崩れがありました。
文が帰った数日後、遊助は妻である天照大御神、ひなたと地上に降りてきていた。家の荷物を持っていくためと、最後に家を見ておくためである。むろん彼は文が来ていたことなど知らなかった。
「さて、早く荷物片付けようぜ」
「そうね」
正直なところ神の力を使えばわざわざこんなことしなくてもいいのではと思うのだが、彼女が一緒になんかしたいとか言ってきたので、それに従ってあげた。しかし、家にあるものなんて、だいたい俺か彼女が作り出せるものなので持ってく必要もないのがほとんどだし、俺はコカ・コーラがあればいいと思っているので、さほど時間もかからなかった。ひなたは服やら儀式の道具やらをいろいろ持っていこうとしていたので、時間がかかりそうだった。一緒に何かしようという話だったので、彼女を手伝ってあげた。
「おいなんだこれ、かなり重いぞ。なに入ってるんだ?」
「服とか化粧道具とかいろいろ。あ、剣とかも入ってたわねぇ」
ほぼすべておれが持つ形になっていたが、彼女に持たせるよりはましだろう。
荷物を外に出し終えて、再び家に戻り、休んでいたところ、来客があった。
「天照様、いますか。八坂神奈子です」
「あーうー。私もいるよー」
神奈子と諏訪子が来たようだ。
「いらっしゃい二人とも、珍しいわね、あなたたちから私のところに来るなんて」
「ええ、そうなんですよ。今日はこの前来た妖怪が遊助のことを話しておりまして」
「なんですって?」
穏やかだった日向の目が、急に鋭くなった。
「遊助、悪いけど席をはずしてちょうだい」
「その妖怪俺を探してたんじゃないのか?」
「いいから出てって」
「へいへい」
何でおれの話なのに俺をはずしたのかはよくわからないが、おとなしく離れよう。
「じゃ、俺ちょっと外ぶらぶらしてくるわ」
「ええ、行ってらっしゃい」
「それでその遊助を探してた妖怪っていうのは?」
「はい、数日前天狗がやってきまして遊助を探していました」
ひなたにはその妖怪に心当たりがあった。記憶を消す前の遊助が言っていた嫁の一人であろう。今後彼も自分も地上に降りることはほとんどないはずだが、安心しきることもできない。
「そう、その天狗知ってるわ。彼のお嫁さんね」
「そうなんですか!?ならそれは彼に知らせるべきだと思いますが」
「いや、知らせないでちょうだい。それに彼には彼女の記憶はないわ」
神奈子はこの神が遊助に固執し過ぎていると感じていた。依存という言葉も当てはまるであろう。むろんそんな言葉は口には出さないし、逆らうこともしなかった。諏訪子はまだ付き合いが短いから理解できず頭の上に?の字を浮かべていた。
「わかりました。では妖怪はいかように致しましょうか」
「ん~、今放っておいてもいいけど、次ぎ来たら殺してもいいわよ」
「そうですか。では私たちはこれで」
遊助はまだ戻ってこない。自分以外誰もいない家の中で太陽の神はつぶやいた。
「遊助は私だけのもの。誰にも渡さないんだから。特に妖怪なんかには」
彼女の手には怪しく光る水晶のように透き通った小さな球が握られていた。
学校休みになんなかった。チクショー