記憶を戻された
その後俺はここで過ごすようになった。いろいろと抵抗したり脱出を試みたのだが、結局出口も見つからずとりあえず隙を見て逃げようとしている状態である。
「だいぶおとなしくなったけど、君に逃げる意思があるのはわかってるのよ」
バレているのがだが、ホイホイ自白するわけもない。
「まさか。俺がここで生まれたんならここで過ごすさ。ほしいものはあるから不便は感じないしな」
「そう。ならいいんだけれど」
そういえばいまだ彼女の名前を聞いていなかったような気がする。ついでに俺の元の名前も聞いておこう。
「なあ、俺のこと君で呼んでるけど、名前はないのか?」
「あるわよ。でも、長いし私たちにはそういうものがなくても十分伝えたいことはわかるし判別もできるから呼ばないの」
名前がなくても事足りてしまうとは時間のこともそうだがなれるのに時間がかかる。できればなれる前に出ていきたいところだが。
「あと俺は何で向こうの世界に行ったんだ?不便は感じないような気がするんだが」
「それは、あなたが肉体があるっていうのがどういうことなのか知りたいって聞かなくて、それでお仕置きで記憶とか全部飛ばしてそっちの世界に送ったのよ。で、そろそろころあいだと思って連れ戻してきたわけ。記憶戻そうかと思ったけどあなた前よりも正確よくなってるから記憶ちょっと戻すだけでいいかなっと思って」
いろいろと言われたが、結局のところ俺は自分の意志で向こうの世界に行って、頃合いになったから戻されたということか。前の俺には悪いが戻りたくはなかった。
「とりあえず記憶だけ戻すからじっとしてて」
と彼女は俺の頭に手を伸ばしてきたかと思うとその手が俺の頭の中にめり込んだ。
「え?なんかめっちゃ痛いんだけど」
「もう終わったわよ。どう?私やほかのみんなのことも思い出した?」
手がめり込んだことへの混乱とその記憶らしいさまざまな情報が一緒になって脳に伝わってきて数分話すこともできなかったが、彼女の声が耳に入りそこで正気に戻った。
「いろいろ思い出したが、俺やっぱ向こう行きたい。帰っていいか?」
「あれ、記憶戻した途端に前と同じ性格に戻っちゃったみたいね。あまり外の世界に干渉してもいいことないからやめなさい」
やめなさいとともに放たれたボディブローに対応できず俺は気絶した。




