授業やってみた
寺子屋の廊下を歩きながら俺と晴明は昔のように会話していた。
「授業はお昼から始まりますのに。こんな朝早くからいいらっしゃらなくてもよかったのですわよ?」
「いや、時間聞いてなかったから早めに来たんだ」
俺としては、本当に昔みたいに会話しているだけのつもりだったのだが、俺の横にいた早苗はそれを見てから、俺の腕を握る力を強くした。
「遊助さん、私も話に混ぜてください」
早苗は何のからくりか人間、少なくとも女の子では到底出せないであろう力を俺の腕に込めている。流石に俺でも骨が折れるかもしれないと思うくらいだ。
「わ、わかったからそんなにくっつくなよ」
「そうですわ、遊助が迷惑がっていますわよ」
俺と晴明が言えば離れることには離れる。だが、
「ちっ、誰だから知らないけど私の邪魔しすんなよ、陰陽師」
と早苗が行ったような気がしたが、気のせいだろう。
「じゃあ、この部屋で2人は待っててくださいまし。そのうち子供たちも来ますから」
「おう、わかった晴明」
俺と早苗は昨日きた職員室で待つことになった。
太陽がだいぶ高くなって、子供の声がちょくちょく聞こえてくるようになった。その辺に置いてあった授業内容についてのメモを読んだり、早苗の相手をしたりしていたので、あまり退屈には感じない数時間であった。
「遊助、そろそろ来てくださいまし」
晴明が声をかけてきたので、俺はいく支度をした。と言ってもチョークとかを持っていくだけなのだが。
「早苗はここで待っててくれ。終わったらすぐ戻ってくるから」
「遊助さん、すぐ戻ってきてくださいね?」
「ああ、すぐに戻ってくるさ」
なんか、フラグを建築したような気がしないでもないが、晴明に急かされそのまま部屋を後にしてしまった。教室らしきところからは子供の声が漏れ聞こえている。
「ここだけの話ですが、慧音さんの授業は超がつくほどつまらないのですわ」
「そうなのか。みんな寝たりしてるんだろ」
「その通りですわ。正直私も後ろで見てて何を言ってるのかさっぱりでしたわ」
慧音の授業がつまらないというのはこっちでも同じか。ハードルが下がってくれたほうがこっちがやりやすくて助かるのだが。なんてことを考えながら、教室に入ると、まずみんなは不思議そうに俺を見つめてきた。まあ、いつもは慧音なのに、今日は知らない男が来たんだから、少しは戸惑うだろう。俺は教団に上って、教卓に手を突きながら
「俺は廿楽遊助。じつはこの前慧音先生に用事があるということで、先生を頼まれたんだ。そういうことだからみんなよろしく」
と話した。みんなきょとんとしていたが、やがて一人が
「ゆーすけ先生よろしくお願いします」
というと、みんな口々に
「ゆーすけせんせー」
「よろしくね!」
などと言ってきた。すぐに馴染んでくれて、こちらとしてありがたい。
「じゃあ、慧音先生の授業の続きから入るぞ」
と言ってから授業を始めた。
慧音が書いていたメモの分を黒板に書いて説明を一通りしたところで時間になった。
「みんな、いつも寝てるっていう話だったけど、みんな起きてたな」
一番前に座っていた女の子が笑顔で
「うん!だって慧音先生よりもわかりやすくて面白かったもん!」
と答えた。みんなもうんうんとうなずいている。慧音には伝えることのできない事実だ。




