二本角の鬼
そんなこんなで妖力は妖怪への憎しみでコントロールができなかったようだ。あの文の目を見て取り敢えずおさめることはできたのだが、程度の能力はいまだ使えるようには戻っていないので、今日も練習をしていた。
昼時に休憩をしていると、勇儀が、
「会せたいやつがいるんだが、これから少し向こうの家までいかんか?」
「ああ、いいぞ」
今日はこのくらいでいいだろう。俺は勇儀と一緒に、その家に行くことになった。
「それで、その会わせたい奴ってのは、どんな奴なんだ?」
「私と同じ鬼さ。ただし角の数は違うけどね」
これはやはり、あの鬼ではないだろうか。
家の前まで来てそれは確信に変わった。表札が伊吹だったのだ。
「萃香ー、いるかー?」
する遠くの方から、
「勇儀かい?いるよー」
と返ってきた。
「じゃあお邪魔させてもらうよ」
と勇儀が上がり、俺もそれに続いた。土間まで行くと、二本の角のある幼児体型の鬼が寝転がっていた。
「おっ、勇儀、とこちらさんは誰なんだい?」
「ああ、こいつか。こいつは廿楽遊助、この前ここに来た元人間だ」
「へえ~、あの新しい住人かい。お前か、あたしは伊吹萃香だ。よろしくな遊助」
「こちらこそよろしく、萃香」
とあいさつはした。しかし何の用なんだろうか。俺まで連れてきて、こいつは何を知ってるんだろうか。
「それで、勇儀こいつをなんだってここに連れてきたんだい?お前を大怪我させたってのは知ってるが」
「そのことでだ、こいつは並の妖怪とは比較にならない妖力を持っている。今は大丈夫でもこのことがいずれ皆に伝われば、こいつはここにいられなくなる」
「ふ~ん、つまり勇儀、お前はこの男に惚れたってわけだ」
すると急に勇儀は顔を赤くして、
「ば、ばかか萃香!私にそんなことがあるわけないだろう!」
惚れられちゃったんですね俺は。そもそも何でここに住むことが前提になってるんだ?
「おい、勇儀勘違いするな。俺は妖力の使い方を教わったらすぐにここを出ていくぞ。住む気はない」
すると勇儀が急にしょぼんとした。
「なあ、でも飯と寝床はあるんだぞ?どうして?」
「やっぱり妖怪が嫌いだからだ」
即答した。だってそれしか理由がないから。すると今度は泣き出した。
「ひぐっ、、、うえっぐ、、そんな~いてよ~。いないと酒飲む相手がいないんだよ~」こうなると俺が悪いように見えてしまう。ニヤニヤしている萃香に恨みを持ちつつ
「わかったよ勇儀、住んでやるから。泣くな泣くな」
となだめる羽目になってしまった。