妖怪と仲良くなる②
数学がやばい
あのあと、宴会は朝まで続いた。最初は酒をゆっくり飲むという流れだったはずが、いつの間にやら宴会になってしまった。いろんな妖怪が集まって飲んだのだが、今この場には俺、勇儀、文、椛しかいない。しかも俺以外は全員寝てしまっている。あの酒は強くてすぐに酔うかと思ったが、半分妖怪だからなのか、今は少しくらくらするが、寝るというほどではない。もとから酒に強いのもあったのだろう。というか、今日は妖力のコントロールの仕方を勇儀から教えてもらうはずだったんだがな。取り敢えず起こすか。
「勇儀、起きろ、今日は俺に妖力の使い方を教えてくれるはずじゃなかったのか?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ、午後からでも間に合うよ」
この流れで行くと、明日明後日と先延ばしにされそうだったので頑張って起こすことにした。とはいっても、だいぶ酒が回っているのか、起きてこない。文と椛を起こすか。
「おきろ、椛、文、今日警備とかはないのか?」
すると、二人は、がばっ、と起きだして
「あややや、仕事に遅れちゃいます」
「警備さぼったら叱られる~」
と言い出した。二人とも真面目だな、いい奴らだ。
「今日休日とか言ってなかったっけ?」
「はっ、そうでした。遊助さん意地悪しないで下さいよ」
そういうつもりではないんだがな。
「いや、今日勇儀に妖力の使い方教えてもらう予定だったんだが、寝ちゃっててな。代わりに教えてくれよ」
「え~、めんどくさいですよ~。今日は寝かせてください」
しかしそういうわけにもいかない。妖怪とずっと一緒なのはあまり気持ちのいいものではないので、早く出ていきたい。
「頼むよ、文。何でもするから」
すると文は、何か考え始めた。
「ふ~ん、いいでしょう、付き合ってあげます」
「よっしゃ!」
「ただし!私と一日一緒にいてください。明日警備をやってください」
拍子抜けだった。なんだ、そんなのでいいのか。
「別にかまわんが、いいのか?そんな安い約束で」
すると文は急に頬を赤らめ、
「いいんですよ!むしろこんな軽い約束にしたんですから感謝してください」
「そうだな」
すると椛も口を開いた。
「私もお手伝いさせていただきます」
「じゃあ、頼むよ」
そういうわけで妖力の使い方を習うわけなのだが、これが難しい。
「なんか、妖力が抑えられてないわね~」
「集中しているように見えるんですけど、漏れ出してますね~」
文と椛に言われているが、理由はなんとなくわかっている。妖怪への憎悪だろう。意識していなくても心のどこかにその感情がある。しかもあの時のように話しかけてくるやもしれない。これは無理だろうと思った。
「あなた、どこがダメなのかしらね」
「さあ、集中してるつもりなんだがな」
と文と話している所に、勇儀が来た。
「おお勇儀、目が覚めたか」
「ああ、ばっちりだ。で妖力の方は・・なんだもうやってるのか」
「ああ、だがなんか抑えられないんだよな」
すると勇儀は急に俺をなめるように見始めた。気持ち悪かったが、やがて勇儀が口を開いた。
「あんた、妖怪を憎んでるんだろう、それもかなり深く」
「ああ、そうだな。憎んでないといえばうそになる」
事実だ。しかし簡単に見抜かれてしまうとは。鬼、恐るべしだな。
「ならかかって来いよ、私はあんたと一度やりあってみたかったんだ」
「いいのか、手加減できないかもだぞ」
「2人にできたんならあたしにもできるさ。それに殺すのは無理だろ」
確かにそうかもしれない。でも、全力ならあるいは、どうだろう。
「いいぜ、殺す気でやってやるよ」
こうして俺と勇儀の戦いが始まった。最初は、殴り合うだけで、お互い進展がなかったのだが、勇儀が本気を出してきた。
「しっ!」
鋭いこぶしが俺の腹に突き刺さる。俺は10メートルほど飛ばされ、岩にたたきつけられた。
「ぐはっ!」
「なんだい、こんなもんかい」
「いや、まだだ」
あの時の奴に力を借りるしかない。俺は心の中でそいつを呼んだ。
”久しぶりだな、兄弟”
答えた声はとても低かった。
「お前は誰なんだ」
”俺はお前と、お前の殺した妖怪の魂の一部だ。お前でもあり、ほかの妖怪でもある”
「そうか、で、俺は今鬼と戦っているわけなんだが、力を貸してくれないか?」
すると声の主はしばし沈黙した後、
”いいぜ、やってやるよ”
といった。
「どうしたんだい、伸びちゃったのかい」
「いや・・・まだだ」
俺はあの力が高まってくるのを感じた。そしてそれが進むと同時に、俺の体が、妖怪化し始めた。そして変態を終えたころには、おおよそ人とは呼べない、妖怪でもないものと化していた。
「な・・・その姿になるのに何百の妖怪を食らったんだ!?」
「さあな、知らん。とにかく今は殺し合いだろ。しっかりやろうぜ」
と同時に勇儀が距離を詰めてきた。そういえば奴の能力は、怪力乱神を持つ程度の能力だったかな。くらったら今の状態でも危ないかもしれない。そう思った俺は後ろに飛んでよけた。するとすかさず追尾してきた。しかしそれは俺の仕掛けた罠だ、実のところ、後ろに妖力の塊をを設置してある。それがやつに当たるという寸法だ。それによけてもおれの一撃が入れば、鬼といえど軽いけがでは済まないだろう。
「うああっ、はっ!」
気づいて避けたのだが、その先には俺が待ち構えている。気づいた時にはもう遅かった。俺の打撃が入り、勇儀は血を吐きながら、吹き飛ばされていった。
「おい、勇儀、もっと頑張らないと、俺が殺しちまうぞ?」
「ぐっ、ぐはっ、あんた、もう妖怪も超えてるよ」
「そうかい、それは結構。じゃあ、死ねや」
爪を振り上げようとしたとき、文が俺を羽交い絞めしてきた。
「だめです、これ以上は。勇儀さんが死んでしまいます!」
「もう、うるさいな。なんなら君を先に殺そうか?」
「と言って文の顔を見たとき、俺ははっとした。その眼は俺が忘れかけていた、嫁、永琳と似ていた。その眼は、俺に訴える、捨て犬のような目だった。昔の永琳とそっくりだ。その時おれの体が元に戻った。
「あ、あれっ?」
「すごいですね遊助さん!妖力をコントロールできましたね!」
文、それは違うぞ、ほぼ無意識なんだよ。
「だいぶ痛いけど、お前さんの役に立てたんなら何よりだ」
勇儀も起き上ってきた。
「ありがとう」
取り敢えずそういいたくなった。
取り敢えず嫁を増やしていきたい




