人を捨てる
一章が終わります
移住するその日は、広場に人がごったがえした。みな一様に新しい土地への不安と期待を抱えている。その混乱を守備隊が抑えるはずなのだが、今日はそういう風にはいかなかった。どういうわけだか今日に限って妖怪の数が多い。多いどころではない、いつもの100倍はいる。まるで今日のために集めてきたかのようだ。どこで情報が漏れたのか。そういうことだったので、今隊総出で妖怪を殺している。
「隊長、だめです数が多すぎます!」
「ちっ!」
少し隊員がやられ始めている。遊星も能力の使い過ぎで消耗してしまっている。
「もう少し耐えろ!そうすれば、スキが生まれる」
叫んでいる所に姫路が走ってきた。
「私も、手伝おう」
「ありがとう、でもあまり長居はできないぞ」
「わかっている、せいやぁっ!」
奴もまた剣は強い。姫路の加勢により少しずつ巻き返していった。
っと思ったが、その考えは甘かった。今度は随分とでかいやつらが襲ってきた。それでもおれたちは頑張って切り続けた。そして、かなり時間が過ぎたころ、
「こっちはひと段落したよ」
と姫路がふっーと息を吐きながら話しかけてきた。
「お父さん、遊助こっちよこっち。早く来て!」
豊姫と依姫に呼ばれた。永琳もいる。
「おお、豊、依いまいくz」
ビュッ
風の音がしたかと思うと、俺の視界から姫路が消えていた。いや正確には上半身がなくなったというべきだろう。奴の足が、ドサッと音を立てて崩れ落ちた。
「なっなっ・・・」
そんなものしか発することができなかった。豊姫と依姫も呆然としている。だがようやく冷静に見えるようになったとき、俺は奴の死を理解した。
「ひ、姫路ーーーーー!」
「いや、お父さん、いやーーっ!!」
俺たちに悲しみが訪れた。しかしそんなものも次に聞こえてきた言葉によってかき消された。
「ああ、強そうだったけど、そんなにうまくないな~」
それは、翼のある天狗とかいう妖怪だった。奴の手の中には、すでに目から光を失った姫路の頭があった。
「いや~、今日なんかお引越しするらしいじゃん。だから今までのお礼と餞別を上げようと思ったんだけど。理解してくれたら、殺されてよ、ははっ」
なんだこのふざけたやつは。俺は急にあの黒いものが込みあがってくるのを感じた。しかし抗う気にはならなかった。その方がやつを、殺せると判断したからなのだろうか。
「君も僕に殺されてk「そこ動くな、消してやるから」・・・?」
そんな声が出た。ほんとに自分のかと思うくらい低くドスの利いた声だった。天狗は笑った。
「バカなのか君は?君には僕を殺せないんだよ。ただの人間にはね!」
「俺から出てる妖力にも気づかない奴に負けるわけないだろ」
天狗は目を凝らし俺を観察していたが、俺の妖力に気付くと、
「バカな、その妖力お前は妖怪なのか!?」
と驚いていた
「いや人間さ。お前ら殺しまくってたからな」
と話していたところで、そろそろ生かしておくのも嫌になってきた。
「まあ、じゃあ今から殺すから。後ろの連れも待ってるし」
俺は奴と同じように羽根で飛び強風が起きた。次の瞬間には羽根は俺の手の中で羽根という形をとどめていなかった。羽根がないやつは重力に逆らえず落ちていった。
「なっ、あっぐ・・痛いいいいっっっ!」
痛みで泣き叫ぶ天狗を哀れとも思わず、むしろ醜悪で、消すべき存在だと思った。
「ごちゃごちゃわめくなよ、見苦しい」
「はあっ、いやだ・・助けてよ」
爪を振ると奴の体は消えた。妖力ってすごいな。
「おい、永琳、豊、依、大丈夫か」
唖然とする豊姫と依姫、永琳に声をかける。
「皆、ごめんな。今の通りだから俺は付きには行けないんだ。嘘ついて悪かったな」
「どうして何も言ってくれなかったの?」
そう聞く永琳に俺は答えた。
「言っても仕方ないだろ。それにお前に心配かけたくなかったんだよ」
「そう・・なの?」
「ああ、そうだ」
そういうと、永琳は静かになった。そしてロケットの方へ歩き出した。
「気にすんな、また会えるさ」
そう声をかけたが、永琳は立ち止まることも振り返ることもしなかった。たただその代り一言、
「じゃあ、待ってるわ」
と言ってくれた。それと二人は結婚式挙げてやれなくてすまないという気持ちになった。
「ごめんな、でもまた会いに行くよ」
二人もまた去って行った。
「さて、3人がいなくなったことだし、暴れるか」
完全に妖怪となったおれは呟いた。まだ見渡す限りいる妖怪どもを、俺は殺さねばならないと思った。
”我慢すんなよ”
心の中でそんな声が聞こえた気がした。誰なんだろう。まあ、いいや。後ろではロケットが飛び立っていった。さよなら永琳、またいつか・・。ああ、もうしゃべる理性も残せないな。
「あああああああああっっっっっ!!!」
雄たけびをあげながら、俺は妖怪の群れに突っ込んでいった。
そこからはもはや虐殺だった。なぜかものが創造できなくなったが、その代わりに手に入れた爪や尻尾で妖怪を殺していった。
「うおぁ!?」
「いやだ、まだしにたk」
近づく妖怪はみな消された。
いったいどのくらい戦い続けたのだろう。周りには頭や手、足、翼など妖怪のパーツが至る所に散乱していた。姿も元に戻った。
「あれっ、能力が使えない?」
月に連絡しようと通信機を出そうとしたが、出ない。そのとき空が赤く光った。そして次の瞬間、とてつもなく大きな爆風に呑まれ、俺は意識を失った。この日は、恐竜を絶滅させたといわれる隕石の落下した日であることがのちにわかる。
2章は誰を出そうかなー