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作者: 吾井 植緒

あらすじって難しい。

ゴウゴウと風が唸り声を上げている。

魔力を帯びた風により、レヴィの周囲は土が削られ立っているのもやっとの状態だ。


世界が悲鳴を上げているのはたった一人の妹である、大魔導師ユーリのせいだった。


彼女はもう正気は保っていない。

遥か向こう、目を細めてやっと捕らえられる位置に居るユーリは狂気しか纏っていないのだ。


止められるのは、兄であるレヴィだけだった。


しかしそれは、己が身と引き換えだったのだけれど。


 ※ ※ ※


肉体の死と共に消滅する魂を維持し、来世へと導く。

輪廻転生。

それは究極の術である。


失われたその術を研究していた術師はもういない。


なぜなら、世界の崩壊をその身と引き換えに止めたから。


 ※ ※ ※


「ウォン!」


他国の通貨ではない。これは俺の口から出た鳴き声である。

あの日、亡国の策略により恋人を亡くしてブチ切れた妹と相対する羽目になった俺は、保険としてそれまで研究していた禁術を発動させていた。そうして世界を救ったはいいが、サクっと妹と相討ちになった俺は転生の術によって見事転生と相成った。

まさか上手くいくとは思ってはいなかったが、それでも発動した研究途中の未熟な術は思わぬ弊害を齎した。

それは、俺が、この天才術師である俺が!


「かぁいい、ワンコ!」


ガキに撫で繰り回されるような、つぶらな瞳で垂れ耳のちっこい犬に転生してしまったと言う事である!


「レビ、いい子ね。」


何の因果か俺は今生でもレヴィである。オバカな飼い主である真理恵はレビとしか発言できないが、正真正銘レヴィである。俺の小屋にそう書かれているので間違いない。俺は天才なので日本語も読めるのだ。

そしてそんな天才犬のオバカな飼い主、真理恵は下から見上げても断崖絶壁のかわいそうな女である。スラッとした脚はまあ褒めてもいいが。


「クゥーン。」


犬に転生してしまった俺がいくらバカめ!と言っても口から出るのは犬語だ。切ない。


そして、転生の術の弊害は一つではない。それはココが前世の世界とは全く異なった世界であるという事である。魔術なんて無い世界。科学の発達した地球。だから今の俺は魔力があっても無駄に知識があるだけのワンコなのだ。切ない。

だが、魔術の無い世界でも魔力を帯びた人間は居る。


「こんにちは、真理恵ちゃん。こんな所で会うなんて、偶然だね。」


「あ、理人くん。こんにちは。そうだね、今日はどうしたの?」


そう、コイツ。真理恵の同級生である理人である。コイツはまるで前世の魔導師達のような気配をしている。もしかしたら魔術でも使えんじゃないかと思う位に、不気味な気配だ。

そして真理恵は鈍感オバカなので気づいてはいないが、コイツは真理恵を狙ってるんじゃないかと俺は思う。偶然を装っていつもいつも遭遇するからである。きっとストーカーという奴に違いない。

故に賢い番犬でもある俺は警戒するのだ。ワンワン!


「なんか嫌われちゃってるみたいだね、僕。」


みたいじゃなく、嫌いなんだ。ボケ。


「うーん、どうしたのかしら。レビ、大人しくしてて。」


真理恵はオバカの癖に俺の手綱を締める手腕は中々のモノである。首が苦しいのでこの位にしといてやろう。む、なんとも不審な匂いだ。クンクン、クンクン。


「真理恵ちゃんに近付く男が気に喰わないんだね、きっと。」


「アハハ。そうなのかしら。」


「それはそうと、今日も寒いから散歩は早めに切り上げた方がいいよ。学校でも病気が流行ってるでしょう。」


「そうね。でもあたし頑丈だから大丈夫。散歩のお陰で体力も付くし。」


「でも心配だよ。隣のクラスは学級閉鎖になったじゃない?暗くなるのも早いし、なんだったら家まで送ろうか?」


「ありがとう。でももう帰るだけだし、悪いよ。」


「そう?じゃあ、気をつけて帰ってね。」


どうやら俺が魔力の残滓のような不審な匂いに気を取られている隙に、理人が何やら迫ったようだが鈍感オバカの天然に阻止されたようだ。近くにあった他犬のマーキング臭などに気を取られていた訳ではない。断じて!


「あ、ちょっとレビ、早いって!」


俺は名残惜しそうに振りかえるストーカーの視線を振り切るように家路に急いだ。


 ※


「レヴィ、よーしよし。」


散歩から帰った俺を撫で繰り回すのはこの家の長男である。見た目はいいのだが、脳みそが筋肉になっている残念な男である。


「今日も良い毛並みだなぁ。俺のブラッシングのお陰だな!」


まあ、カラッとした性格で前世の俺の友人である騎士を思い出すので悪い奴ではないと思う。俺を妹と

相打ちしろと嗾けたヒドイ友人ではあるのだが、あの時は妹と戦えるのは、実力的に俺位しか居なかったので仕方が無い。しかし『俺がこの場を引き受けるお前は先に行け』なんてカッコ付け過ぎだろうとちょっと思う。俺は死んだがアイツは生きてるのだろうか。しんみり。


「しかし大きくならないなぁ、お前。脚も細いし、小型犬なのか。」


残念そうに俺の前脚をにぎにぎするかいは、大型犬と駆けずり回りたかったのにとぼやいた。悪かったな、小型の雑種で。本来なら言葉の通じない犬相手とはいえ、デリカシーの無い所は騎士カイルそっくりである。


 ※


『すげーなぁ、レヴィ。お前の妹また禁術ぶっ放して、山一個消したってよ!さすが大魔導師だよなー。すげー、すげー。』


魔法使いの道は二つに分かれる。

攻撃に特化した魔導師と、その他補助術に特化した魔術師と。その頃、魔力はあるが魔導師には向いていないと解った俺は魔術師に転向したばかりである国に仕えていた。

ユーリの記事が乗った新聞片手にはしゃいでいるカイルはその国の騎士である。


『いくつかの国に指名手配されてて、すげーも何もないわ。』


『それがいいんじゃねーかよ!魔導師は術ぶっ放してナンボだって!それにユーリは今まで罪の無い人は巻き込んでないっつーじゃねーか。しかも人型使い魔従えてんだろ、かっこいいよなぁ。』


『・・・フン!』


魔導師の条件はただ一つ。使い魔たる魔を従えないといけない。ユーリは高位の魔である人型の使い魔を従えていた。

だが、同じような実力の持ち主の俺にはなぜか魔は雑魚ですら一匹も寄り付かなかった。それが俺が魔術師に転向した理由だった。くそっ悔しくなんてないからな。


『な、お前も天才術師として鼻が高いよな。また指名手配増えたらしいけど。』


『指名手配犯に鼻が高くなんてなるか、ボケ!』


 ※


「兄さん、外から帰ってきたらちゃんとうがい、手洗いしてよ。学校で病気が流行ってるって言うし。」


「わぁーってるよ。ごあごぁ。」


「ちょっと、汚い!なんで手ぇ洗いながら、その上にうがいしたの吐き出すの!」


「こまけぇこたぁいいんだよ。」


「良くない!」


キャーキャーいいながらじゃれあう、あの兄妹は仲が良いなと俺は思う。前世の俺達とは大違いだ。


 ※ ※ ※


暇だ。

昼間、開と真理恵が学校に行ってしまうと犬である俺は留守番の為に暇になってしまう。兄弟の両親は共稼ぎなので俺を構う人間は誰もいなくなってしまうのだ。


だが、その日は違った。


「ただいまー。」


真理恵が帰ってきたのだ。まだ時間的に授業中の筈、こいつサボったのか?


「もうやんなっちゃう。とうとうウチのクラスも学級閉鎖だってさ。どんだけ皆病弱なの?それともあたしが頑丈すぎるの?」


どうやら流行り病のせいで学校から帰されたようだ。俺は天才なので知ってるぞ。学級閉鎖とは、これ以上流行しないよう学校が授業を休みにする事だ。


「あ、こら!レビ。遊んであげるから待ってて!」


暇から逃れる事が出来ると、ついはしゃいでしまった俺を真理恵が窘める。その声は鋭い。犬の本能としてつい従ってしまう程だ。哀しい事に頭脳では勝る筈の俺の家でのヒエラルキーは低いのだ。


「大人しく待ってたね。イイコイイコ。公園にでも行って遊ぼうか。」


なんと、公園とな!

つい尻尾が言う事をきかずブンブン振られてしまったが、公園行きは暇よりよっぽど有意義な事だ!


 ※


しかし、公園には先客が居た。ストーカーはとうとう先回りを覚えたのかと俺は驚愕した!


「学級閉鎖になったって言うのに、犬の散歩かい?」


そう言った理人は制服姿だった。なんで公園に居るんだコイツ、と俺は警戒を緩めない。オバカでも飼い主は守らねばならない、それが賢い番犬でもある俺の指名だ。ワンワン!


「レビ、大人しくして!理人くんはこれから帰り?」


叱られた俺は公園の入り口で真理恵の後ろに回された。鈍感オバカはこれだから困ると俺は溜息を吐いた。


「そうだよ。僕の家はソコだから。」


そう言って、理人は近くに並ぶ団地を差した。家に誘うってんじゃないだろうな、と俺は再び警戒する。


「そうなんだ。理人くんはこの団地に住んでるんだ。」


「そうだよ。今、休んでる連中もこの団地の奴が多いんだ。」


「そっかぁ。公立高校だからこの辺から通ってくる人多いんだよね。とうとう学級閉鎖なんて、風邪ってそんなにすごいのかなぁ。」


「いや、風邪に似てるらしいけど、風邪じゃないよ。こんなに休むなんておかしいだろう?」


オバカの言葉に珍しく理人の目がキラリと光った。なんだか分からないが、俺はとてつもなく怪しい気配を理人から感じた。決して先入観ではない!


「そうだね。皆早く良くなるといいけど。」


「うん。だから真理恵ちゃんも早く帰りなよ。どこで移るか分からないんだから。」


「うん。理人君も気をつけてね!」


怪しい理人から手を振られ、俺は真理恵に引き摺られるようにして公園を去った。今更だが、あの公園は魔力の匂いがした。限りなく魔っぽい魔力の匂いだ。そして魔力を持つ不気味な理人。怪しい、アイツは怪しいぞ!


 ※


夜、俺はなんとか首輪から鎖を解く事に成功し、あの怪しい公園に来ていた。

クンクン。ムムム、やはり怪しい匂いがする!


月夜に公園に佇む男。

蠢く白い布。

こいつはやっぱり!


「レビ、こんな所に居た!」


居た、じゃねーよ。なんで来るんだオバカ真理恵!


「レビ、いくら不審な人だからってそんなに吼えちゃ・・・ってあれナニ!?コスプレ?」


たしかにハロウィンに良く見られるコスプレっぽいけど、違う!あれはマミーだ!

マミーってお母さんって意味じゃないぞ。ミイラの上級魔の事を指す。

しかしなんだって、マミーがこんな公園ウロウロしてんだよ!


「ぐ、おぉおおおお。」


上級魔とは言え、相手はミイラ。動きは鈍い。俺は真理恵に向かおうとするマミーの気を引こうと吼えた。


「ワンワン!」


案の定、知能の低いマミーは真理恵から俺に標的を移す。


「レビ!」


ってこっちくんじゃねーよ、バカ真理恵!

マミーは病原体の塊だ。普通の人間なら触れただけで・・・んん?

なんてことだ。コイツのせいで真理恵の学校は流行り病に襲われたのか?!


「真理恵ちゃん、こっち!」


ぬおおお、今度はストーカーか!俺一人でどうしろっつーんだ。こんな時、術が遣えりゃ苦労しないっつーのに!俺は発動しないであろう魔力を練った。必死で。


「でもレビが!」


「あれは大丈夫だから!早くコッチに!」


「ぐおおおおおおおお。」


うおおおおおおおおおおおお。

迫るマミー。俺はいざとなれば病原菌塗れになるのを覚悟でキバを剥いた。

しかし慣れ親しんだ気配がそれを阻止する。


バチィイイイ!


やった!

激しい音を立てて、マミーのその手は弾かれた。

まさか、魔法の無い地球で結界が発動するとは。さすが天才の俺!やれば出来るってか、やってみれば出来たのかよクソー。


そうして張られた結界に真理恵と理人が飛び込んできた


「まさかとは思ったけど、レヴィ。・・・プクク、久しぶりだね。」


そう言った理人は自分がユーリだと名乗った。なんだってー!?


「なに?どういう事なの?」


混乱する真理恵に理人は前世の事を説明した。俺がタダの犬でなく、魔術師犬である事も。


「レヴィの研究はボクのものでもあるからね。マーロンも居ない世界に居てもしょうがないし、ちょっと保険掛けてみたんだ。」


どうやらコイツはこっそり俺の研究を盗み、自分にもしもの事があった時の保険として使っていたらしい。まったくなんて妹だ。厳重に封印・・・まではしてなかった俺も俺だが。


ビリビリビリ!


そんな会話の最中もマミーは俺らを襲おうと結界に体当たりしている。結界は天才魔術師たる俺が張ったものなので十分持つが、それではマミーを倒せない。


おい、あんだけ禁術ぶっ放してたお前なら即倒せるだろうが、何とかしろ!


俺はユーリにそう言うが、口から出るのはワンワンだけだ。むなしい。


「なんとかならないの、理人くん!」


どうやら同じ事を思ったらしい真理恵が理人に縋る。その腕をシッカリ掴みながらも理人は首を振った。


「未熟な転生の術のせいで、僕の魔力は封じられてしまってね。せいぜい初期魔術と回復魔法くらいだよ。」


たぶん、そのお陰で病気にはかからなかったんだろうけどね。

残念そうに理人は言う。つかえねーな、と俺は思った。


「一時は魔導師を目指したんだから、何かないのレヴィ。上級魔だけど、爆炎魔法とかあれば一発で終わるよ。」


んなもんねーよ!使い魔で挫折した俺がそんな最上級魔法使える訳ねーだろうがよ!


「それじゃあ、どうしようもないよ。マミーは昼間活動しないから、このまま待つしかないかな。」


やはり人としておかしいユーリが前世だけあって、理人は首を振った俺に動揺もせずにそう言った。しかし、真理恵は違うようだ。


「そんな、お兄ちゃんだってレビを探しているのよ。ここに来ないとも限らない!危ないじゃない!」


そう言われ、カイルに似た開を危ない目に合わす訳にはいかないと俺は考えた。

何か方法がある筈だ。何か・・・。


そうだ!

ひらめいた俺は結界内を走り回って、ガリガリと地面をかいた。


「何してるのレビ。危ないからジッとして!」


本能が真理恵の指示に従いそうになるが、なんとか堪えて俺は魔方陣を完成させる。


「こ、これは!やめろ、レヴィ。こんな大掛かりなのは危険だ!」


理人の声が聞えたが、俺は無視して発動させた。


「キャー!」


ビカビカとやたら光るせいで真理恵が悲鳴を上げている。しかし大丈夫、この魔方陣は俺以外無害なモノなのだ。


「フゥー、ハハハ!」


口から笑い声の出た俺は二本足で地面に立った。もう前脚じゃない、手をニギニギと握る。


「やった!やっと、人になれたぞ!これで意志の疎通が可能になった!・・・お陰で結界の維持位しか出来なくなったけど。」


「バカか、レヴィ!無駄に魔力を費やすなんて!どうすんだよ、これでマミーの毒でも喰らったら・・・。」


その声と共にマミーが毒霧を吐くのが見えた。


「甘い!」


俺は二本足を器用に使ってそれを避けた。ワハハ。鈍くて範囲の狭い毒霧など、避けるのはたやすい。


「笑ってる場合か。こっちは真理恵ちゃんもいるんだよ、毒霧避けて朝まで持つと思うの?」


「忘れたのかユーリ。ミイラの上級魔と言えど、相手はマミーだ。弱点は、回復魔法に決まってるだろうが!さあ、やれ。ユーリ!」


「て、君。それ伝える為にわざわざ無駄に魔力使ったのかよ!その前に自分でやれよ!」


「悪いが、俺の魔力は結界の維持分しか残ってない。」


「威張る事か!あーもう!!」


キラキラリン。

無駄に装飾のあるエフェクトと共に、回復魔法を掛けられてたマミーはタダの土くれと化した。


「爆炎魔法じゃ、騒ぎになったろうしな。これでよかったんだ。」


めでたしめでたし、と胸を張る俺の顔に布が投げつけられた。


「いつまで裸で居るんだよ!真理恵ちゃんの目に毒だろうが!」


理人の上着だった。俺は迷って、立派になった下半身に巻きつけた。前掛けみたいで情けなさは変わらないが、まあ隠れたからいいだろう。


そうして俺は駆けつけた開に不審者扱いされたり、目の前に犬に戻ったりしてやったりした。

変な犬って事で処分されそうになるかな、と思ったがやはり開は開だった。

俺は時々人間になったりして、飼い主一家と楽しく今生を謳歌するのであった。


「ちょっと、僕の事忘れないでよね。」


まあ、時々魔力の封じられた元妹も一緒にな。




マンガにしたら面白そうだなぁっと思った。昔の少年漫画的ノリ。

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