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円卓の緑黄色野菜【カオスな短編集】  作者: 鈴木@異世界
24/42

28 郵便屋に、ちよこれいとっ!?【郵便屋】

◆ バレンタイン翌日の活動報告コメントで、セニョリータさん(仮名)に、郵便屋さんがチョコを手渡してもらったので、返信ですにょ!(>ω<)/ ◆


ーーーーー


「郵便屋」

呼び止める声は冷たく、圧力を伴うかのようで、彼の背には冷たい汗が落ちた。


「例のものを…手に入れたらしいな?」

「ち、違う! これは大事な預りものーー配達物だ!」

彼は必死に叫び返す。


「ほうーー?」

コツリ、と足音。それはまるで、骸骨の骨が、冷たい床を打つようであった。


「し、知っているか『死神』殿! レターパック ライトは、A4、4キロ、厚さ3センチまでの物体を、宇宙どこでも、たったの360円で送ることが可能なのだ!」

いつもは寡黙な彼を、恐怖が、焦りが、饒舌にさせていた。


「ーーほう? 360円で?」

少しばかり興味を引かれたかのように、『死神』と呼ばれた人物の声がうわずる。


「うむ。レターパックプラスならば510円だ。こちらは、俺が玄関口に立ち、受取人が現れるまで直立不動で待つ。印鑑か署名をいただくまでは、一歩たりとも動かぬ」


「ほう?」

『死神』の声が、愉悦に歪む。

「貴様、一歩たりともと言ったな。その命をかけてでも、果たしてそうと言えるかな?」


「無論だッ!? この郵便屋、レターパックであろうと封書、葉書、小包であろうと、配達業務に手を抜くことなどありえん!」

即答はしたものの、郵便屋の脳裏には、最悪の光景が浮かんでいた。


「ふふ」

『死神』がその顔に薄い笑みを浮かべて大鎌を構える。

(仕掛けてくる、かーー?)

郵便屋もまた、愛用のグレート・ソードに手をかけた。


配達業務には欠かせないこの得物の手入れを、彼は一日たりとて欠かしたことはなかった。

ーー叩き潰す。


「ーーふ。」

「何がおかしい?」


ふいに笑みを浮かべた郵便屋をいぶかしみ、『死神』が訊ねる。


郵便屋は、凄絶に笑んだ。

「俺は宇宙最強の郵便屋ーー。死神であろうとテロリストであろうと、我が配達業務を阻むものはーー」

踏み込む。


「斬るッッ!!」

「ちぃっ!」

死神は慌ててその身を引いた。先ほどまで彼のローブがあった位置を、寸分の隙もなく、大剣が薙ぐ。


だが、ふわりと。


死神の鎌が、郵便屋の首を目掛けて横凪ぎに迫る。


郵便屋の剣が、それを受け止めた。と同時、彼は左手で懐がコルト・ガバメント(銃)を抜き放ち、死神の胴を狙った。


発砲音。


死神が、吹き飛ぶーー。しかし彼は空中でふわりと止まった。

死神の口の端から、赤いものが一筋、流れる。


郵便屋の大剣は、もう彼の眼前に迫っていた。

鈍い音が響き、続いて、ぱさりとーー存外に軽い音がした。

驚いて郵便屋が見れば、地面に落ちたものは、死神の着ていた白いローブのみであった。


衣服をなくした骸骨が、大鎌を振りかぶり、まさに郵便屋の顔面を狙う。


ーーゴキッ


骨の折れる音がした。



「…っはあ、はっ、」

郵便屋は、地に伏し動かなくなった『死神』の残骸を見下ろし、肩で荒く息をつく。

ーー死神などと名乗っている殺し屋だろうと思っていたが、中身が骸骨だとは、念の入りように頭が下がる。


郵便屋は、むき出しの骨を強打したために少し痛む己の拳を、少しばかり忌々しそうに一瞥した。

そして、郵便物の入った鞄の中を確かめるーー


無事だ。


彼女の想いは、ーー無事だ。


『午前中必着なので宜しくお願いしまっす!』


敬礼のポーズでそう告げた彼女の真剣な表情を思い出し、郵便屋の無骨な顔に、つい笑みが浮かぶ。


「ーー案ずるな、娘よ。我は宇宙最強の郵便屋ーー我が誇りにかけてーー」


正午まで、あと3分。


『午前中必着なので』ーー



「郵便屋を、なめるなぁあっ!!」

宇宙船のアクセルを思い切り踏み込み、発進させる。

急加速。


赤信号だ!


キキィッ


郵便屋は止まった。当然だ。交通ルールは、守らねばならない。


そして再びの急加速。



郵便屋は。郵便屋の宇宙船は、大気圏を突き破り、宛先へと直進した。


加速した上に1グラム当り9.8m/ s2(メートル・パー・スクウェア・セカンド)の重力加速度が加わり、彼の宇宙船は、彼は、宛先の住所の玄関先へと突っ込んだ。



爆風が、周囲の家々の屋根を、壁を、家財を吹き飛ばす。


午前11時59分ーー。


「ーー配達、完了ーー」


これはレターパックライトだ。郵便受けへの投函で、配達業務は完了する。


今の衝撃で、郵便受けはおろか家そのものも粉砕されたが、午前中必着に比べれば些細な事柄だ。


平地と化したその住所に、郵便屋は降り立つと、そうっと、郵便物を置いたのであった。


危ないところであった。まさか午前中必着が守れないなど、郵便屋の恥。



そしてふと辺りを見回しーー気づく。


「俺の家ーー?」


そう。あの娘の郵便物の宛先は、郵便屋の。彼の自宅であったのだ。


「なんてーーことだ」


郵便屋はうち震える。

あの娘は。


「俺に」


俺に、これをーー?


レターパックライトの、青いラインの入った封筒を開く。中からは、可愛らしくラッピングされた小箱が出てきた。


「こ、これは、もしやーー」


荒野と化した自宅。吹きすさぶ風の中に、郵便屋の、珍しくうかれた声が、混じりーー流れていった。


チョコ、ありがとう。郵便屋より。


ー(幕)ー

Thank you for Reading ☆


「でっかく、『義理』って書いてあったってよ…」by死神さん

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