28 郵便屋に、ちよこれいとっ!?【郵便屋】
◆ バレンタイン翌日の活動報告コメントで、セニョリータさん(仮名)に、郵便屋さんがチョコを手渡してもらったので、返信ですにょ!(>ω<)/ ◆
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「郵便屋」
呼び止める声は冷たく、圧力を伴うかのようで、彼の背には冷たい汗が落ちた。
「例のものを…手に入れたらしいな?」
「ち、違う! これは大事な預りものーー配達物だ!」
彼は必死に叫び返す。
「ほうーー?」
コツリ、と足音。それはまるで、骸骨の骨が、冷たい床を打つようであった。
「し、知っているか『死神』殿! レターパック ライトは、A4、4キロ、厚さ3センチまでの物体を、宇宙どこでも、たったの360円で送ることが可能なのだ!」
いつもは寡黙な彼を、恐怖が、焦りが、饒舌にさせていた。
「ーーほう? 360円で?」
少しばかり興味を引かれたかのように、『死神』と呼ばれた人物の声がうわずる。
「うむ。レターパックプラスならば510円だ。こちらは、俺が玄関口に立ち、受取人が現れるまで直立不動で待つ。印鑑か署名をいただくまでは、一歩たりとも動かぬ」
「ほう?」
『死神』の声が、愉悦に歪む。
「貴様、一歩たりともと言ったな。その命をかけてでも、果たしてそうと言えるかな?」
「無論だッ!? この郵便屋、レターパックであろうと封書、葉書、小包であろうと、配達業務に手を抜くことなどありえん!」
即答はしたものの、郵便屋の脳裏には、最悪の光景が浮かんでいた。
「ふふ」
『死神』がその顔に薄い笑みを浮かべて大鎌を構える。
(仕掛けてくる、かーー?)
郵便屋もまた、愛用のグレート・ソードに手をかけた。
配達業務には欠かせないこの得物の手入れを、彼は一日たりとて欠かしたことはなかった。
ーー叩き潰す。
「ーーふ。」
「何がおかしい?」
ふいに笑みを浮かべた郵便屋をいぶかしみ、『死神』が訊ねる。
郵便屋は、凄絶に笑んだ。
「俺は宇宙最強の郵便屋ーー。死神であろうとテロリストであろうと、我が配達業務を阻むものはーー」
踏み込む。
「斬るッッ!!」
「ちぃっ!」
死神は慌ててその身を引いた。先ほどまで彼のローブがあった位置を、寸分の隙もなく、大剣が薙ぐ。
だが、ふわりと。
死神の鎌が、郵便屋の首を目掛けて横凪ぎに迫る。
郵便屋の剣が、それを受け止めた。と同時、彼は左手で懐がコルト・ガバメント(銃)を抜き放ち、死神の胴を狙った。
発砲音。
死神が、吹き飛ぶーー。しかし彼は空中でふわりと止まった。
死神の口の端から、赤いものが一筋、流れる。
郵便屋の大剣は、もう彼の眼前に迫っていた。
鈍い音が響き、続いて、ぱさりとーー存外に軽い音がした。
驚いて郵便屋が見れば、地面に落ちたものは、死神の着ていた白いローブのみであった。
衣服をなくした骸骨が、大鎌を振りかぶり、まさに郵便屋の顔面を狙う。
ーーゴキッ
骨の折れる音がした。
「…っはあ、はっ、」
郵便屋は、地に伏し動かなくなった『死神』の残骸を見下ろし、肩で荒く息をつく。
ーー死神などと名乗っている殺し屋だろうと思っていたが、中身が骸骨だとは、念の入りように頭が下がる。
郵便屋は、むき出しの骨を強打したために少し痛む己の拳を、少しばかり忌々しそうに一瞥した。
そして、郵便物の入った鞄の中を確かめるーー
無事だ。
彼女の想いは、ーー無事だ。
『午前中必着なので宜しくお願いしまっす!』
敬礼のポーズでそう告げた彼女の真剣な表情を思い出し、郵便屋の無骨な顔に、つい笑みが浮かぶ。
「ーー案ずるな、娘よ。我は宇宙最強の郵便屋ーー我が誇りにかけてーー」
正午まで、あと3分。
『午前中必着なので』ーー
「郵便屋を、なめるなぁあっ!!」
宇宙船のアクセルを思い切り踏み込み、発進させる。
急加速。
赤信号だ!
キキィッ
郵便屋は止まった。当然だ。交通ルールは、守らねばならない。
そして再びの急加速。
郵便屋は。郵便屋の宇宙船は、大気圏を突き破り、宛先へと直進した。
加速した上に1グラム当り9.8m/ s2(メートル・パー・スクウェア・セカンド)の重力加速度が加わり、彼の宇宙船は、彼は、宛先の住所の玄関先へと突っ込んだ。
爆風が、周囲の家々の屋根を、壁を、家財を吹き飛ばす。
午前11時59分ーー。
「ーー配達、完了ーー」
これはレターパックライトだ。郵便受けへの投函で、配達業務は完了する。
今の衝撃で、郵便受けはおろか家そのものも粉砕されたが、午前中必着に比べれば些細な事柄だ。
平地と化したその住所に、郵便屋は降り立つと、そうっと、郵便物を置いたのであった。
危ないところであった。まさか午前中必着が守れないなど、郵便屋の恥。
そしてふと辺りを見回しーー気づく。
「俺の家ーー?」
そう。あの娘の郵便物の宛先は、郵便屋の。彼の自宅であったのだ。
「なんてーーことだ」
郵便屋はうち震える。
あの娘は。
「俺に」
俺に、これをーー?
レターパックライトの、青いラインの入った封筒を開く。中からは、可愛らしくラッピングされた小箱が出てきた。
「こ、これは、もしやーー」
荒野と化した自宅。吹きすさぶ風の中に、郵便屋の、珍しくうかれた声が、混じりーー流れていった。
チョコ、ありがとう。郵便屋より。
ー(幕)ー
Thank you for Reading ☆
「でっかく、『義理』って書いてあったってよ…」by死神さん




