2 田中よ、立ち上がれ!!【田中】
「ああっ! あなたこそ真の田中です!!」
姫君は彼の手をその白い手で包み、そっと口づけた。
ーーそう、彼は、田中。
唯一絶対の田中である。
彼は田中として異世界に召喚され、田中として戦い、そして田中として世界を救った。どこにでもいる、ごく普通の田中である。
ありふれたオタクファッション。否、実にひきこもりらしい、くたびれたジャージをまとっている。風呂には、もう何日も入っていない。
だが、田中である。
どんなに落ちぶれても、田中としての誇りを忘れたことはなかった。
彼の祖父は死に際に言い遺した。
「……いいか。お前は、田中だ。田中としての誇りを忘れるな。どんなときでも、田中らしさを失うな。それがーー田中だ」
ロスト・ジェネレーション。失われた10年。就職氷河期。
ーー田中には、試練の時代であった。
無数の田中が街中に溢れ、彼から田中らしさを奪おうとする。
彼は、幼稚園の頃の名札ーー拙いひらがなで、『たなか』と書かれたそれを、いつもポケットにしのばせていた。
ーーそう、俺は田中だ。田中、なんだ。
◇
幾多の鈴木との死闘。暗殺者として差し向けられた青木たちとの、苛烈な戦い。佐藤の群れ。四天王である、勅使河原、万里小路、八月三十一日、紅一点である小鳥遊との、思い出深い邂逅。
彼は、そのいずれにも勝利してきた。
そして魔王を倒し、元の世界へと、帰る。
次に田中を待ち受けるのは、いかなる冒険なのか。戦え! 田中。行け! 田中。負けるな! 田中。
田中に、栄光あれ。