11 俺と死神幼女
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にて公開していたものと同じ内容です。
あなたの命はあと一週間です。そう告げられた彼がとった行動とはーー?
「みぃつけた」
馬乗りだった。見知らぬ幼女が俺に馬乗りになり、首元に鎌(人を刈り取れそうな逸品)を突きつけている。いや、振りかぶった。そしてそのまま振り下ろす。
「ぐぁぁああああああああッ!!!」
俺の悲鳴が、俺の部屋に響き渡った。
「何すんの何すんのこの幼女?! 親はどこだ!! 親の顔が見たい!!」
頚動脈から噴出す鮮血を手で押さえつつ俺は抗議する。マジ切れだ。こんなときはマジ切れすべきだ。学校でもそう教えていい。イジメられたらマジ切れしろ。椅子を振り上げ、イジメっこの頭に振り下ろせ。正当防衛だ。精神的な暴力に対しては、肉体的な暴力で対抗するべきだ。人命は尊いのだ。そう、この惑星よりも。
「・・・ごめんね、おにいちゃん。あたしに両親はいないの・・・」
悲しそうに大鎌を抱えた銀髪の幼女は俯いた。ツインテールにした髪と赤いリボンがひらりと揺れた。
「あ・・・。ごめん、悪いこと、聞いちゃったかな」
俺の首からは鮮血が噴出し続けている。酸素をたっぷりと含み、肺でO2|(オー・ツー 酸素)と結合し、細胞内でミトコンドリアがエネルギーを生産するのに欠かせないその物質を脳ーー人体で最も重要な器官のひとつだーーに運ぶはずだった俺の愛しい赤血球は、猛烈な勢いで体外へと流出していた。俺のフトモモには血だまりができている。真っ赤だ。知っているか諸君。血は、赤い。赤いのだ。
「ううん、いいの。お父さんとお母さんが死んじゃったの、もう何年も前だし・・・」
「・・・そっか。よか、った・・・」
俺は倒れた。目の前が真っ暗だ。当たり前だ。出血多量だ。人体は精巧にして複雑、柔軟にして大胆なる大自然の造りたもうたーーごふっ。
***
「・・・あ、起きた」
俺が目を覚ますと、そこには銀髪の少年と少女が、それぞれに大鎌を肩に乗せた格好で俺を見下ろしていた。
「何なんだよ! いきなり人の首を切っちゃいけませんって学校で教わらなかったのか?!」
「すまないな、妹は不登校なんだ」
謝る銀髪・兄。
「・・・あ、ごめん、俺・・・」
謝る俺。
「ううん、いいの。あたし、幼稚園の頃から登園拒否してたし」
首を左右に振る銀髪ツインテール幼女。いいからその鎌は置いてくれ。正直、怖い。
ふたりの話をまとめるとこうなる。
俺の余命はあと一週間ーー。
「・・・え」
「だーかーらぁ」
死神幼女は俺に鎌の先端を突きつけて苛々と言う。
「おにいちゃんはぁ、あといっしゅーかんでしんじゃうの。きゃはっ☆」
「う、うぉああああ」
「ちょ、待て少年! なぜウチの妹に襲いかかるんだ!?」
「童貞捨ててから死んだらぁあああああ!!!」
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ」
「落ち着いたか童貞」
「童貞ぢゃない。俺には山田太郎という立派な名前がある」
「明らかに手抜きだよね」
「うるさい、うるさい! 俺はこれから美少女を助けようとしてトラックに突っ込んでくる!」
「・・・まあ、がんばれ」
銀髪兄は止めなかった。止めろよ。そこは人間として。--いや、死神か。死神として。
「うぉぉおおおおおお!!!」
叫ぶ俺。
「トラックかぁ。あらためて飛び込もうと思ってよく見ると愛嬌ある顔してない?」
銀髪幼女。
「車を擬人化するのは確かに可愛いな・・・」
腕を組んだままとつとつと言う、銀髪兄。
「なんで俺が死ななきゃならないんだ!?」
「おにいちゃんのお父さんが、会社を大きくするっていう願いをかなえるのと引き換えにあたしたちにお兄ちゃんの魂を売ったから」
冷静に語る死神妹。
「悪魔か!? 悪魔なのか!?」
叫ぶ俺に、頷く小悪魔。
「うん」
「うぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!」
叫んだ。俺は叫んだ。絶叫だ。シャウトだ。
「よく叫ぶ人間だな」
「よく叫ぶ人間ね」
死神兄妹は飽くまでも冷静だった。悪魔だ。
***
「ぜぇ、はぁ、ふぅ、」
「落ち着いたか、童貞」
冷静につぶやく死神兄。
「山田太郎だっつってんだろ!!」
「そうか、童貞の山田」
むかつくな。こいつむかつく。
「タ・ロ・ウ、だ、タロウ!!」
俺と死神兄のやりとりを横目に、死神妹はポテチを食べつつテレビのバラエティ番組を見て笑っている。ーーそして唐突に振り向いた。
「--ねえ、ヤマダタロウ。この世には必要のない人間が存在するの。あなたなんて、生きていても誰も喜ばないのよ」
「ンなわけないだろ! 人間はみんな、大切な誰かに出会うために生きているんだ!! それは、もう出会ったことのある人かもしれない! まだ出会ったことのない人かもしれない。それはわからないけどーー」
「ポジティブ乙」
妹は半眼で首を左右に振ると、テレビに戻った。
「とにかく、俺はあと一週間で死ぬなんてゴメンだ! 何とかならないのかよ!?」
「189人の老婆と」
「ろうばっ!?」
「キスしなさい」
死神妹は冷たい声音でそう告げた。
「よっしゃあ!! やったるわ、うぉおおおお!!」
人の集まる駅前に突進する俺。重い荷物を持って信号を待つ、和服姿の瀟洒な老女を確認。彼女は、突進する俺には気がついていないーーチャンスだ。
「おばあさん、荷物お持ちしましょーーー!!!」
俺はチキンだった。
***
「何とかならないのか。俺は死にたくない」
「無免許医に大金でも払ったら?」
死神妹は飽くまでも冷たい。
「--ま、あと6日あるんだ。せいぜい現世を満喫するんだな」
死神兄も飽くまで冷たい。
俺はーー
「無免許医者ーー! 無免許医の方はいらっしゃいませんかーー!!」
駅前に立った。
6日間。雨の日も風の日も、駅前に立った。
6日目の午後六時。俺は白黒の無免許医に助けられ、事なきを得た。
ーーおしまい。
思いつきだけで書きました。読んでくださった方、ありがとうございます。




