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エピローグ

 週明け月曜日の朝。

「さっとしー、ようやく母ちゃんからの理不尽な任務、一段落付いたようだな」

「うん、まあ、とりあえずはね」

「俺、一昨日あったイベント限定のキャラソン持って来たぜ」

 啓太は登校して来ると智志の席に駆け寄って来て、自慢げに見せびらかす。

「啓太、石郷岡先生に見つかったら没収されるぞ」

 智志は呆れ顔で言う。

「大丈夫だって。チャイム鳴るまでは来ねえし」

 啓太がそう言った矢先、

「神辺くん、一昨日のクイズ大会、よく頑張ったね。ご褒美に、この間没収したマンガを返してあげようと思うんだけど」

 石郷岡先生が智志の席へ近寄って来てしまった。

(あっぶねえ。なんでもう来たんだよ? まだチャイム鳴るまで五分くらいあるぞ)

 啓太は咄嗟に鞄の中に隠す。

「あの、先生。申し訳ないですが、その本は、もう買い直しました」

 智志は気遣うように伝えた。

「あらっ、やっぱり」

 石郷岡先生はにこっと微笑む。

「その本は、昆陵中高の図書室に寄贈してあげて下さい」

「そうねー。それじゃ、そうさせてもらうわ。それより城崎くん、さっき何か隠したでしょう? 出しなさい」

 石郷岡先生は優しい口調で命令してくる。

「いっ、いえ。何も……」

 啓太は真顔で答える。

「さっきちらーっと見えたわよ」

「うわっ、やべっ。これだけは勘弁して。限定品やねん。レアアースよりも貴重やねん」

「ダーメ。金剛先生に言うわよ」

 石郷岡先生から爽やかな表情で言われると、

「じゃあ、出すって」

 啓太はしぶしぶ手渡した。

 ジャケットに水着姿の可愛らしい少女達のカラーイラストが描かれていた。

「エッチなCDね」

 石郷岡先生は取り上げた物を出席簿と国語の教材の間に挟み、また職員室の方へと戻っていった。

「石郷岡ぁ、ちょっと待ってよぅ」

「自業自得だな」

 非常に悔しがる啓太を見て、智志は笑顔でコメントする。


       ※


 それからさらに数日が過ぎたある日の夕方、五時頃。

「智志、二次元の女の子とは卒業すると思ったんだけど、前と全く変わらないわね」

 母はリビングで、録画した萌え系深夜アニメを見ていた智志を呆れ顔で見つめる。

「だって、萌えアニメをきっかけに現実の女の子と会話を弾ませることも出来るからね」

 智志は自信満々に言う。

「あらそう。まあ、二次元と三次元との区別はちゃんと出来てるみたいだし。それならいいわ」

 母はとても機嫌良さそうだった。

 

智志が自室に戻りしばらくして、彼の携帯に連絡が入った。

「美甘さんか」

 番号を見るとこう呟いて、通話ボタンを押す。

「もしもし」

『あの、智志さん。わたしの学校、今月の図書室の本の借り出し冊数、歴代最高記録が出ました』

『やはりラノベ効果は絶大だったよ。二百冊くらい仕入れてもらったんだけど、一人で一回に三〇冊以上借りる子もいるよ。人気作は順番待ち状態なんだ』

 すると真依と亜紗から嬉しい知らせが届いた。

「それは、よかったね。おめでとう」

 智志もとても喜ばしく思った。

『ハーリーは、こんなんで記録増やすんは、A○BのCDの売り方と同じせこいやり方やでってめっちゃ不満そうにしてたけどね。あの、サトシくん、今度は、アニメのDVDを図書室のDVD視聴コーナーに置きたいから、またハーリーに交渉して欲しいな』

 亜紗から唐突に頼まれる。

「またぁ? ラノベ置かせてもらったから、それでいいだろ?」

『不満だよ』

「ラノベより遥かに交渉難易度高そうだけど、明日、一応交渉しに行ってあげる」

『サンキュー、サトシくん。さすが豊高生、頼りになるね』

「どういたしまして。じゃあ、そろそろ切るね」

 智志は自分の意思で要求を引き受けてあげ、電話を切った。

 それから五分ほど後、

『サトシン、クイズ大会の景品だったあの超でっかいクマのぬいぐるみ、今日児童館に送られてきたぜ』

今度は千陽からかかって来た。

「そんな所に?」

『うん。ノッポめっちゃ喜んでてさ、下級生押しのけて独り占めしようとしたから指導員に叱られてたぜ』

『だって抱き付きたかったんだもん』

 伸実も側にいるようだった。

『あとアタシ、算数のテストで久々に百点取れたぜ』

『智志お兄ちゃん、あたしも今日の理科のテスト百点取ったよーっ! 後で証拠の写メ送るね』

「おめでとう、二人ともこの調子で勉強頑張って」

智志が相談役を引き受けるまで、彼の携帯に登録された女の子の番号は榛子と、母だけであったが、智志が笹舟音楽教室を訪れたあの日以来、由利香さんと生徒四人の番号も増えた。こんな風に時々かかってくる。メールもわりと頻繁に送られてくる。

 智志は萌え系の深夜アニメやラノベには、以前と変わらず嵌り続けているものの、現実の女の子と触れ合う機会はたくさん増えたというわけだ。

『さとしぃ、期末の範囲になっとる数学と英語と古文漢文のプリント、何枚か足りんねん。コピーさせてや』

「分かった。僕は全部持ってるけど、空欄が何箇所かあるから、後で榛子ちゃんに頼んで全部埋めてもらってからね」

『毎度すまねえな、さとし』

「いやいや、僕も榛子ちゃんに世話になってるし」

 もちろん男友達の啓太との友情も変わらない。

(おしまい)


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