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第六話 文化祭&学習発表会

「なあ、さとし、今度の土曜、暇か?」

水曜日の朝、啓太が登校して来ると、智志はさっそくこんな質問をされた。

「ああ、久し振りにフリーな土日になりそうだ」

「そんじゃポンバシ行こうぜ。声優のトークイベントがあるし」

「うん、分かった」

 智志は快く約束する。

 しかし、夕方帰宅後ほどなくして、

『智志ちゃん、今度の土曜、うちのクラスの生徒が通う学校で、学習発表会と文化祭があるから見に行ってあげてね』

 由利香さんからこんな電話がかかって来てしまった。

「えー」

『生徒のみんなも智志ちゃんに見に来て欲しいって言ってたわよ。日々のレッスンの成果が発揮出来る舞台だからね』

「でも、その日は啓太と重要な予定が……」

 断ろうとしたが、

「智志、分かってるわよね?」

 母にニカッと微笑まれ、肩をポンッと叩かれた。

「うん。あの、お姉さん、僕、見に行くって伝えておいて」

『分かったわ。みんなきっと喜ぶわ。じゃあね』

「うん」

 智志はしょんぼりとしながら電話を切った。


「――といういうわけでさ、啓太、また思わぬ予定入っちゃったよ」

 夕飯後、啓太に報告。

『ありゃま、さとし近頃災難続きだな。まあでも、見に行くだけやから今までの任務よりはマシだな』

 同情されてしまった。


         ☆


 当日、十一月一五日、朝十時頃。神辺宅玄関先。

「それじゃ智志ちゃん、行きましょう」

 由利香さんが迎えに来てくれていた。

「あの、僕一人で行けるから。一緒に行くのは、恥ずかしいよ」

 智志はかなり嫌がっていた。

「まあまあ。亜紗ちゃんと真依ちゃんの学校には、招待状無いと入れないし」

 こうして二人は徒歩で現地へと向かっていった。

(僕なんかが、入っていいのかな?)

 智志は不満をよぎらせながら、招待状を私立昆陵女子中学校・高等学校正門前にいた受付係にかざし、正門に飾られたゲートを通り抜けた。由利香さんもあとに続く。こうして二人は体育館へ。窓は黒色の遮光カーテンで覆われ、床一面に青緑色のフロアシートが敷かれてあった。来場者席は、生徒席の後ろ側に用意されてある。共に折り畳み式パイプ椅子だ。中学ともなると見に来る親は少なくなるためか、空席はけっこう目立っていた。

 智志と由利香さん、隣り合うようにして前の方の席真ん中付近へ座る。

 それから三分ほどして、

【続きましてプログラム四番、中学部一年三組による合唱です。課題曲、『時の旅人』。自由曲、『寒ブリの歌』。お聞き下さい】

 放送部員の一人からアナウンスが告げられると、一年三組の生徒達はパート別にまとまって、舞台前に設置されたひな壇へと上がっていく。

「真依ちゃんはアルトだから、あの辺りよ」

 由利香さんは舞台の右前方を手で指し示す。

「あっ、いますね」

 智志はすぐに確認出来た。

 演奏順は、課題曲の『時の旅人』からであった。ピアノ伴奏のあと、一年三組のクラスメイト達は歌い始める。

 その曲のあと、ついに寒ブリの歌の演奏が始まった。

 ぶんぶんぶんぶんブリブリ♪ という独特の歌詞メロディーでお馴染みの合唱曲。

 他のクラスの生徒達、来場者の一部からは、笑い声も起こっていた。

「真依ちゃん、やっぱ恥ずかしそうね。個別レッスンの成果、ちゃんと出てるかな?」

 由利香さんはにこにこ微笑みながら観賞する。

「僕にも気持ちは良く分かります。なんか、時の旅人とのギャップが……」

 智志は同情を示した。

 曲の演奏が終わった後、客席から盛大な拍手。

 亜紗のクラス二年一組のプログラムまでは、少し時間があった。

「智志ちゃん、亜紗ちゃんと真依ちゃんから展示部門も見て欲しいって言われたから、見に行くわよ」

「分かりました」

 由利香さんと智志は体育館を出て、美術部員の作品が展示されてある美術室へと向かっていった。


「これ、僕!?」

 壁に張られた、勢理客亜紗 作と書かれた絵を見て智志は驚愕した。

「あらぁ、そっくりね。智志ちゃんの自画像」

 由利香さんはにっこり微笑む。

「たっ、確かに」

 智志は照れてしまった。

 他の美術部員達の作品も眺めた後、二人は真依の所属する図書部員の作品が展示されている図書室へ。

「これが、真依ちゃんの創作絵本ね」

 由利香さんは机の上に展示されてあったそれを、嬉しそうに手に取った。

「なんか、見ちゃいけないような」

「見てあげて。真依ちゃん、智志ちゃんに読んで欲しいって言ってたわよ」

「でっ、では」

 智志は、恐る恐るページを捲り、じっくり目を通す。


「普通に本屋さんで売られても、おかしくないような出来ですね」

 2、3ページ読んでみて、こう感想を抱いた。

「とっても素晴らしいわ。真依ちゃん、将来は絵本作家さんになれるかもね」

 由利香さんも気に入ったらしい。

他の図書部員達の作品も眺めているうちに時間が迫ってきたため、二人は体育館へと戻っていく。

午前最後のプログラムが、亜紗のクラスだった。

【続きまして、プログラム十二番。中学部二年一組による合唱、課題曲、スメタナ作曲連作交響詩『わが祖国』より『モルダウの流れ』。自由曲、『夏の思い出』】

 この開始のアナウンスされた後、

 亜紗は、由利香さんと智志の姿に気付いたようで、にっこり笑って大きく手を振ってくれた。

「あとで、先生に、注意されてしまうのでは……」

「亜紗ちゃんったら、嬉しいけど、本番中はダメよ」

 智志は心配顔で、由利香さんはにこにこ顔で見守った。

 この後は特に何もハプニング無く、無事亜紗も出番を終えた。

そのあと、智志と由利香さんは急ぎ足で伸実と千陽の通う小学校へと移動していく。

こちらは招待状無しで誰でも自由に入ることが出来た。

 正門を抜け、体育館へ。

 床、座席、カーテン、舞台は中学校のと同じような感じにされてあった。

「小学校だと、やはり大抵の親は見に来てますね。立ち見かなぁ」

 智志は周囲をきょろきょろ見渡す。

 来場者席はほぼ満席になっていた。

「大丈夫よ。あそこに席を取ってあるから」

 由利香さんは来場者席真ん中より少し前くらいの場所へ、智志を誘導して行く。

「園部先生、いつも伸実がお世話になってます」

「よぉ、ユリッペ。そして、そっちのキミが神辺智志くんっていう子ね。はじめまして。ねえ、サトっちゃんて呼んじゃっていい?」

 そこにいたのは伸実と千陽のお母さんだった。千陽のお母さんは娘に似て陽気な声で明るそうなお方あった。

(髪型と、性格までそっくり。やっぱ、遺伝だな)

 智志はそう感じつつ、

「あっ、こっ、これは、どうも」

 緊張気味に頭を下げ、二人にご挨拶する。

 横並びの席に奥の方から順に、伸実母、千陽母、智志、由利香さんという順番でイスに腰掛けた。

今はお昼休みがまもなく終わろうという頃。プログラムは学年順となっており、午前中に四年生までの演目が済んでいた。

【続きましてプログラム五番、五年生による合奏『威風堂々』、合唱曲『カリブ夢の旅』です。ぜひご覧下さい】

放送委員の代表からこう告げられると、隅の方で待機していた五年生達が舞台前に設けられたひな壇に上がっていく。

 伸実の姿は四人にもすぐに確認することが出来た。客席から見て左端の方、五年一組のクラスメイト達が固まっているところのひな壇一番上で目立っているからだ。

「えっと、越智さんは? 見当たりませんね」

 千陽の姿も二人のお母さんと由利香さんにはすぐに分かったのだが、智志は見つけられず。

「チヒロは大太鼓の所よ。ノブミンの五メートルほど右」

「あんな所に。女の子で大太鼓って珍しいな」

 千陽のお母さんが手で指し示しながら伝えると、智志にもすぐに発見出来た。

合奏はソプラノリコーダーや木琴・鉄琴、シンバル、トライアングル、アコーディオン、大太鼓・小太鼓などによる演奏。

伸実はトライアングルを担当していた。

【合唱曲『カリブ夢の旅』。ピアノ伴奏は、五年一組、備中伸実さんです】

 続いてこのアナウンスが告げられると、客席から大きな拍手が沸いた。

「備中さん、ピアノ伴奏やるのか。すごいな」

 智志は少し驚いていた。

「去年は他の子にじゃんけんで負けて出来なかった分、すごく嬉しく感じてるみたいよ」

 伸実のお母さんはにっこり微笑む。彼女自身も娘の抜擢をとても嬉しく思っていた。

伸実は今いる場所から動き、舞台上にあるピアノの前へ。ゆっくりと椅子に座ったことが四人のいる客席からもしっかり分かった。

「座ってても、背の高さが目立ちますね」

 智志は笑顔で突っ込む。

「伸実ちゃん、スタイルも抜群ね」

「ノブミン、先生にも見えるわ」

「伸実は男の子含めても、クラスで一番高いみたいよ。でもお顔はまだすごく幼いけどね」

 由利香さん、お母さん達も楽しそうに話し合う。

伸実は、指揮者(音楽の先生)の方へ視線を向けて、演奏を始めた。


「ミス無しで……すごいですね」

「伸実ちゃん、素晴らしい演奏だったわ。個別レッスンで一生懸命練習した甲斐があったね」

「すごいね、ノブミン。チヒロとは大違いだわ」

 伸実は見事演奏を終え、元いた場所へ戻っていく。智志、由利香さん、千陽母はほとほと感心していた。

「伸実、よく頑張ったわ。きっと良い思い出になったね」

 伸実のお母さんは娘の演奏する姿を、写真に何枚も収めていた。

 五年生全員が退場し、

幕が閉じられ、照明が消されて一〇秒ほどして、

「これからみなさんに、昔遊びクラブの演技を披露しまーす」

「みんな見てねー」

突如、千陽と伸実が舞台上に現れた。その二人にスポットライトが当たる。

「プログラムにあったっけ?」

 智志の疑問を、

「おまけみたいなものね」 

由利香さんはこう解釈した。

「伸実、ちょっと緊張してるわね」

「チヒロー、頑張ってーっ」

 伸実と千陽のお母さんは、ビデオカメラで二人の勇姿を撮影し始める。

 二人は舞台の上から七百名近い全校児童らの目の前で、昔遊びの定番ともいえる竹とんぼやけん玉、糸巻きゴマ、だるま落としなどを披露してあげた。

観客席にいる他の児童、先生、保護者らから盛大な拍手が送られる。

千陽が見事失敗することなく披露したけん玉の大技『世界一周』は特に大好評だったようで、拍手がなかなか鳴り止まなかったほどだ。 

 二人が退場したあと最後のプログラム、六年生による朗読劇『八郎』が始まった。

 四人はせっかくなのでということで引き続き観賞することに。

 物語が中盤まで差し掛かった頃、智志のマナーモードに設定していた携帯がブーッと震える。

「勢理客さんからだ。ちょっと失礼します」

 番号を確認すると智志は立ち上がり、体育館正面出入口玄関まで走って通話ボタンを押す。

『サトシくん、ちょっと助けに来て』

 亜紗から深刻そうな声で頼まれた。

「何があったの?」

 智志は心配そうに尋ねる。

『理由はあとで詳しく説明するから、とにかく早く来て』

 亜紗はそう告げて、電話を切ってしまった。

「いったい何なんだろう?」

 智志は当然のように不思議がる。

「あの、お姉さん、勢理客さんが何か困ってるようなので」

 座席へ戻り由利香さんに伝えると、

「それじゃ、ぜひ行ってあげて」

 由利香さんは快くOKしてくれた。

「では、失礼します」

 智志は体育館から外へ出て、亜紗と真依の通う学校の方へと戻っていった。


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