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「明けない夜はない」

作者: 翡翠

「未来」をテーマとした文芸部誌に載せる予定の話です。

無理やりまとめたので、話はぶっ飛んでいると思います。

「明けない夜はない」

 笑って言った親友は次の日、一つの事故で、全てを奪われた。




「一紀、持ってきたよ」

 静まり返った教室に僕の声が響く。

「さんきゅ」

 それだけ言った彼に買ってきたお茶を渡し、傍の椅子に腰掛ける。

 二週間前、事故にあった僕の親友、彼、青島一紀。

 命は助かったものの、親から、仲間から、先生たちから期待され、彼が目指したオリンピック出場という夢はそれによって絶たれてしまった。

 笑っているが、その笑顔はこわばっている。無理もない。

 一日で自らの夢見た未来が絶たれたのだから。


 このごろの一紀は、見ていてつらい。偽の笑顔もそうだし、彼の動かない足を目の当たりにするのも。

 それでも。この状態でもだいぶ落ち着いた方なのだ。最初の頃は彼は動かない足に絶望し、泣いて、暴れたものだから。

「・・・・・・ごめん、そろそろ帰るね」

「ああ、いつもありがとな。あとは多分大丈夫だ」

「じゃ、また明日」

 お互いに手を振り合いながら、別れの言葉を告げ、僕は病院の階段を下りていく。

 病院から外へ出ると、もう夕方だった。


(どうにかして、一紀を元気に・・・・・・)

 そうは思うものの、何をすればいいのか全くわからない。

 赤みがかかった空の下。本来帰り道としては公園の前を通るのだが、通るとどうしても子ども達が元気に遊んでいる様子をどうしても一紀の足と比べてしまい、自分が嫌になってしまうので、今では公園の前を通らず、裏道を通るようにしている。

 今日もその裏道を通ろうと道を曲がった時。

「――すみません」

 後ろから急にこ声をかけられ、振り向く。

 その声の主は、だいたい七十代ぐらいの老人だった。

「どうしました? 」

「道に迷ってしまいまして・・・・・・この近くに、緑木公園という場所はありませんか? 」

 《公園》の二文字に少しばかり戸惑いはしたものの、この老人には関係の無いことだ、と割り切り道案内をすることにした。

 幸い、その緑木公園は本来の帰り道に通りかかる公園だ。自分まで道に迷うことはないだろう。

「僕、知ってますからそこまでご案内します」

「ああ、それはありがたいです。・・・・・・しかし、少々顔色が悪いようですが・・・・・・具合でも悪いのですか?それとも、何か・・・・・・悩み事でも? 」

 しまった。割り切ったつもりだったが、顔にでてしまったらしい。

「ああ、大丈夫ですよ! 」

 出来るだけ、明るい声で、声を張る。

 大丈夫、と言い切って、これでは逆に怪しまれてしまうかもしれない、と思った。

 そして案の定、その老人は、少し困ったような表情で言った。

「やはり、無理をされているように見えますが・・・・・・もしよろしければ、この老いぼれに話してみてはいかがですか? 」

 ごまかしても多分墓穴を掘るだけだろう・・・・・・それに、誰かに言ってすっきりした方が 丁度良いのかもしれないと思い、少し迷った後、僕は心情吐露することにした。



「――ありがとうございます。・・・・・・長々とすみません」

 結局、一紀という少年のこと、何があったのか、一紀のために何をすべきか迷っていること、《公園》という言葉に何故少し顔色が悪くなったのか。全てを話し、気分が大分楽になった僕は、じっ、と話を聞き続けてくれた老人に感謝の気持ちと、長話をしてしまったことに対する謝罪を述べた。

「いえ、話してみては、と言ったのはこちらですからね。それに顔色が良くなっている。楽になっているなら幸いです。それに――」

 老人は少しバツの悪そうな顔をして、

「こちらこそ、そんな事があったというのに公園まで道案内を頼んでしまって・・・・・・」

 と言った。そんなに気にしないでいいのに。

 道を聞きたかったとはいえ、見ず知らずの人の悩みを聞き、その事に対して謝るなんて。この人は本当に優しいな、と思いながら、僕は取り敢えずそのことは気にしないでください、と言った。

「とにかく、その件についてはあなたに話せたし、スッキリしたんです。公園までの道案内は、しっかりしますから! 」

 さっきと同じように、少し声を張る。だけど、さっきとは違い、今度は心から笑いながら――


 公園へと向かう道のりは、不思議と足が軽かった。

 一紀に何をすべきか。それはまだ分かってないけれど、多分自分の気持ちを人に話すことが出来たからだと思う。

「――先ほどの話、私の意見ですが・・・・・・オリンピックへ行くのが夢なのでしょう? オリンピックへ行く方法は一つではないと思いますよ? 」

 しばらく歩いた後、老人は道のりの途中でそう述べた。

「・・・・・・え」

「そう、事故にあった少年を気遣うのも大切です。――しかし、自らの意見を、考えを相手にいうことも大切なことです」

「そう、ですね」

 老人の言葉に、少し考えながら、それでもどういうことか分からず、少し曖昧な返事を返した。

 そして、緑木公園が見えていることに気付き、誤魔化すように、言った。

「あ、緑木公園そろそろです。――本当に、ありがとうございました」

 きっともう会うことはないだろう老人に、もう一度感謝の気持ちを述べ、そして公園を指さし、このくらいなら大丈夫だろう、と思った僕は公園の門へと小走りで駆け寄った。

「緑木公園はここで――――あれ? 」

 緑木公園に到着した事ことを伝えるため、老人の方へと振り返ったけれど。振り返った先にはあの老人は居なく。

 少しでも走って目を話したことを少し後悔し、でも子どもじゃないんだから、辺りに居るのかもしれない、と思いながら公園の中や周辺を探してみたものの、老人は見つからなかった。

(なんだったんだ? )

 公園からの帰路につき、老人が行っていた言葉を思い出す。

(一つじゃない、一紀を気遣うだけじゃ答えは見つからない、か――)

(僕に、何が出来るんだろう? )

(僕の足を、一紀が使えたら――――、・・・・・・!! )

 立ち止まり、次の瞬間病院に向かい、来た道を戻っていく。

(これなら、一紀もオリンピックへ)

 この考えは多分、僕のエゴだ。一紀は、怒る、だろうな。

 ――それでも。

(僕だって、陸上選手なんだ)

(怒られたっていい、文句を言われてもいい。でも、今の僕に考えつくこと、出来ることは、それしかないんだ)


 病院の階段を駆け上がる。

 一紀の部屋は、四人部屋だけど確か同室の人は居ないはず。部屋の前にたどり着き、ドアを勢いよく開けた。

「奈斗・・・・・・? 帰ったんじゃないのか? 」

「ごめん、一紀。話したいことがあって。ねぇ一紀。これからいうことは僕のエゴだと思う!でも、今の僕にはそれしか言えないから――」

 一紀は少し訝しげな表情をしたが、それでも、僕は言葉を止めない。

 病室だって、怪我人相手だって、今は関係ない。

 一紀に伝えないと――

「僕の、コーチになって一緒にオリンピックを目指そう? 」

「・・・・・・本気か? 」

「僕は本気だよ。でも一紀が怒りたいなら怒っていいし、文句があるなら言って。でも、僕だってそりゃあ一紀に比べたら遅いけれど、陸上選手だし、形は違うけれど、君も行けるんだ。・・・・・・いや、行くんだ」

「奈斗」

「それが一紀にとって辛いことだろう、って分かってるつもりだよ。でも」

 そこまで言うと、一紀は急に僕の頬をつまんで、思い切り引っ張った。

「ひゃにすんひゃよ! 」

「言ってることわかんねぇよ」

 少しニヤニヤとしながら一紀は言った。

「なぁ、奈斗」

 そして、僕の「何すんだよ!」という訴えを無視し、一紀は指をはなした。頬がヒリヒリする。痛い。

「明けない夜はないっ、てあの日の前の日、言ったよな? 」

「・・・・・・うん」

 忘れるはずもない。

「俺、あの時の俺を馬鹿だと思ってた。事故にあったあと、何度も」

 一紀は悲しそうに笑った。

 多分、僕じゃ想像できない複雑な気持ちなんだろう。

「だけどさ、お前が今そう言ってくれて、辛いってのもあるけどさ、今は、あの時言った言葉を馬鹿にした俺を――殴りてぇ」

 次は苦笑い。

「お前が、俺の親友でよかったよ、本当」

 一紀は僕の手をつかみ、力強く振り上げた。

「俺達なら、できる。――いや、成し遂げる」

「一紀・・・・・・!!」

 そして、無理をしてない、心からの、本当の笑顔で笑った。

 それに僕も、嬉しさで泣き出しそうになりながら、笑顔を送った。




 その日、僕達は一つの約束をした。

 僕達の、未来へ踏み出す、小さくても確実な一歩を。

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