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第六話 異変

「一つだけ、聞いていい?」


僕の隣を歩くメリルが不思議そうに尋ねてくる。


「どうして?」


「何が?」


僕は首を傾げながら言葉を返す。


「どうして私を信用するの?」


「それは私も聞きたいたいことでした。何故ですか?」


どうやらクロハも同じことを思っていたらしい。


「私を信頼するにはあまりに早すぎる。あなたはまだ私をよく知らないのに」


確かにそうだ。僕とメリルは出会ってまだ時間がほとんど経っていない。現にクロハは未だに警戒している。


何かあればすぐに攻撃出来るような位置ではあるが、クロハの力量ではメリルは倒せない。まあ、僕でもだけど。


「理由が必要かな?」


「必要」


即答された。


だから、僕は苦笑しながら答える。


「だって、メリルは必死なだけだから」


その言葉にメリルは何も答えない。いや、答えられない。恥ずかしそうに俯いているから。


「クロハはまだ納得出来ないという表情だね」


「当たり前です。彼女の力は絶大です。警戒しない方がおかしい」


「確かにそうなんだけどね」


そう苦笑しながら僕は先程のことを思い出していた。






「ギルバート様、本当によろしいので?」


クロムウェイが本日七回目となる言葉で念を押してくる。これには苦笑する他ない。


「クロムウェイは心配症だね」


「そういう問題ではありません。ギルバート様はこれからのルーンバイト家を背負って立つお方。万が一にも何かあれば私は国王陛下に何と言えばいいのですか?」


親衛隊としては正しい反応だ。だけど、今はこちらにクロムウェイを引き抜くわけにはいかない。


「クロムウェイはあいつらを連れて行かないといけないからね」


そう言って僕が見るのは親衛隊が縄で縛っている灰色のローブを着た者達。


いくら親衛隊の強さがわかりきっているとは言えそのリーダーでもあるクロムウェイがいなければ敵の動きによっては烏合の衆に近くなるかもしれない。


それほどまでにクロムウェイの力は絶対的だ。エスと並ぶルーンバイト家最強戦力。


「しかし、クロハ一人では、いや、エスの妹の実力を侮っているわけでは」


「わかっています。お姉様の実力と比べれば私の実力など」


「いや、君の力は親衛隊でも通用する。ギルバート様には及ばないがギルバート様自体も親衛隊クラスだから気に病む必要はない」


まあ、エスやクロムウェイの実力が桁違いだけど。


「僕とクロハだけじゃ危険だよ。だけど」


だけど、もう一人いる。


僕が視線を向けるとそこには美味しそうにお菓子を頬張るメリルの姿があった。


「メリルの道案内をしながら森を抜けて街に出る。メリルが欲しい情報のアクセルティアーズ。フェルデの血族が持つと言うなら帝国にある実家になら何かわかるかもしれないからね」


「その情報を盾に護衛を迫るというわけですか。ですが、彼女がいつ我らに刃を向けるか想像がつきませんよ」


「大丈夫だよ」


僕はそう言って笑みを浮かべた。


「メリルはただ一生懸命なだけの優しい女の子だから」






「ただ一生懸命なだけだからね。もし、メリルが隙を見て僕から情報を奪おうとしてるなら今頃僕達は死んでいるだろうね」


比喩抜きでそう思う。


「私はそんなことをしない」


「仮の話だよ。そろそろ森を抜けるね」


道なりに進んでいた僕達の前が開けてくる。森の中にいたけどどうやらようやく抜けられそうだ。


ただ、こういう場所だからこそ狙ってくる人達がいる。山賊とかは特にこういう場所を狙ってきたりする。


だから、僕もクロハも警戒して森を抜け、そして、


「何これ」


言葉を発せれたのはクロハだけ。何故なら、そこには見るも無惨に半殺しにされた山賊らしき人達の姿があったからだ。その数30。


誰がやったかは一瞬で思いついた。


「エス達だね」


「お姉様が? 納得です」


「どうやら無事に抜けれたみたいだね」


「平然としすぎ」


僕よりも平然としているメリルに言われたくないけどね。


「まあ、このまま放置して先に」


「待った」


僕の言葉をメリルが塞ぐ。そして、空を見上げた。


いつもならここは近くにある山の山頂にある雪を見れる馬車。だが、そこには空には薄汚れた雲が綺麗な空と共に覆い隠していた。


天気が悪いというわけじゃない。それだけじゃない。何かいる。


「こんなところまで」


メリルが小さく呟く。そして、僕は頬をひきつらせた。


「まさか、このような場所で見かけるとはね」


「ギルバート様。あれは何ですか?」


クロハはわからないらしい。エルフィナ王国民だからだろうけど、知っていたらこんなにも平然としていないだろう。


「クロハは聞いたことがある? 帝国にいる魔鳥の話を」


「魔鳥、リンドブルムですか?」


「帝国の北側、ここよりも遥か北の山脈にいる人喰いの魔鳥。帝国が何度も討伐隊を編成したけど未だに殲滅していない帝国最大の魔物」


空から降りてくる魔鳥リンドブルム。その全長は約20mと聞いている。人が挑むにはあまりに大きな存在。


だが、降りてくるリンドブルムは20mどころじゃなかった。


「これは、本当に、リンドブルムですか?」


クロハが絶句する。


リンドブルムの全長は約50m。もう、桁が違う。


「今までの討伐隊が倒してきたリンドブルムはどうやら子供だったみたいだね」


「違う」


メリルが静かに斧を手に取る。


「リンドブルムは大人で全長20mくらい。人里を襲う雄は確かにいる。だけど、生活圏内から大きく離れることはない」


リンドブルムが地面に着地する。その威圧感はもう角ありのアレファントが可愛く見えるほどだった。


リンドブルムが睨みつけるのは僕達。そして、エス達に半殺しにされた山賊達。


「それに、リンドブルムは私がいれば人は襲わない。そもそも姿を見せない」


「じゃ、あれは何?」


「覚醒薬。人が作った災厄の薬品。それが魔物を、原生生物を狂わしている」


「もしかしてそれは命を削り能力を高める白い粉?」


「どうしてそれを?」


話が嫌な流れで繋がってきている。僕達が帝国に向かう最大の理由とこのリンドブルムが関わっている。


あまり考えたくない話だけど、このリンドブルムが他にもいるかもしれないと考えていた方がいいかも。


「話はこいつを倒し終わってから」


「逃げるという選択肢はありませんか?」


「十中八九、背後から狙い撃ちされるね」


「私は生き残れても二人が無理」


リンドブルムが口を開いた瞬間、それは起きた。


リンドブルムの口内が激しく帯電したかと思った瞬間、雷鳴が轟いた。


「来る!」


メリルの言葉に僕達は左右に散った。対するメリルは斧を構え、そして、


僕達がいた場所を一直線に雷が薙ぎ払われた。


リンドブルムが魔鳥と言われる由縁がこれだ。リンドブルムは落雷を操る。とは言ってもピンポイントで落雷を放ってくるのではなく一直線に放ってくるのだ。


単純ではあるがその威力は凶悪。森が薙ぎ払われるくらいの威力だから。


「メリル!」


僕は雷に呑み込まれたメリルの名前を叫んだ。だが、心配は杞憂。


落雷によって舞い上がった土煙の中から斧を構えたメリルが飛び出していた。そして、リンドブルムの頭に向かって斧を振り抜く。


普通なら回避出来ない速度。だが、リンドブルムはそれを頭に生えた角で受け止めていた。


メリルの顔が歪む。それと同時にリンドブルムの翼がメリルを狙って振るわれる。空中にいるメリルはそれを回避することが出来ず苦し紛れに見える蹴りを放った。


メリルが吹き飛ばされる。そう思った瞬間、メリルの蹴りによってリンドブルムの翼が打ち返された。


普通ならありえない光景。ありえないからこそ打ち返されたリンドブルムはメリルを睨みつけたまま止まる。


「今だ!」


その瞬間に全ての力を使い、僕は加速する。そして、飛び上がりながらレイピアをリンドブルムの目に向かって放っていた。


それに気づいたリンドブルムは僕を睨みつけ、そして、レイピアがリンドブルムの左目を貫いていた。


鮮血が僕の服に飛び散るが僕はそれを気にすることなくレイピアを引き抜いて大きく後ろに跳んだ。


すかさず走り込んできていたクロハがリンドブルムの足に向かって剣を振り抜く。こちらは浅くではあるが確かにリンドブルムの足を切り裂いていた。


「離れて」


着地したメリルが僕達に向かって叫ぶ。メリルが持つ斧は青白いオーラを放っていた。


それを見て胸に抱く感情はただ一つ。


恐怖。


「砕破・轟斧!」


メリルはただ斧を地面に叩きつけた。ただそれだけのはずなのに、一直線上の大地がめくれ上がっていた。もちろん、その一直線上にいたリンドブルムは叫び声一つ上げる間もなく呑み込まれ、四肢を砕かれていた。


クロハは呆然とそれを見つめ、僕は引きつった表情でメリルを見る。


どんな馬鹿力の持ち主であっても大地を吹き飛ばすことは出来ても一直線上の大地をめくり返すことは出来ない。それが可能な力を僕は知っている。


「終わった」


「すごい、攻撃ですね」


「溜め時間が長いからリンドブルムには本来は当たらない。二人がリンドブルムの動きを止めてくれたから当たった」


「必死でしたのでそんなことを言われるとは」


「誇ってもいい。二人は勇気ある人間。普通ならリンドブルムには立ち向かえない」


「メリルさんこそ素晴らしい活躍ではありませんか。ギルバート様?」


クロハが僕の表情に気づいた。そして、メリルが僕を見る。


「何故、何故君は神剣を持っているの?」


その言葉にメリルは楽しそうに笑みを浮かべた。そして、口を開く。


「ルーンバイト王国の将来は安泰。あなたは聡明だから」


「茶化さないで。神剣は世界を確変する力。それを何故、君が持っているの?」


僕はレイピアを握り締める。対するメリルは斧を地面に突き刺した。


「これは私の親友の形見。大好きな人達を守るための力。ルーンバイト王国が時々している特殊な依頼の内容は知っている。それに抵触するものじゃない」


「少し待ってください。ギルバート様、メリルさん、ここでいがみ合っても」


「平行線だよ。仕方ない。僕からはもう何も言わない。だけど、エスがもし危険だと判断したら」


「私は戦う」


クロハにとっては意味が分からないだろう。今は分からなくてもいい。きっと、将来は必ずクロハに伝えられるのだから。


でも、今はそんなことで使える時間はそんなに無い。


「メリル、行こう。帝都に」


「何故?」


「あなたは私を狙っているはず。正確には私のこれを」


そう言いながらメリルは自らが持つ斧を指差した。


「確かにそうだね。だけど、今はもっと大事なことがある」


「覚醒薬」


僕は頷いた。


僕達が帝都に向かう理由。それがそれだ。厳密には違うかもしれないがそれに近いものをメリルは知っている。だから、メリルと一緒に行けばいい情報交換になるはずだ。


「僕達はそれと同じ、または、それに近いものを話し合うために帝都に向かっている。メリルのその情報が欲しい」


「わかった。私があそこにいたのは覚醒薬の気配があったから」


「覚醒薬の気配?」


「正確には覚醒薬によって狂わされた魔物の気配」


その言葉に僕は眉をひそめる。聞いたことがない。魔物の気配を感じ取れる人間なんて。


それに、ルーンバイトが把握していない神剣を持つメリルとは一体なんだろうか?


「私一人じゃどうしようも出来なかった。だから、手伝って欲しい。そうしなければならないから」


「そうしなければならないから、か。うん、じゃあ、一緒に帝都に向かおう。エス達も向かっているはずだから」


「しかし、ここから帝都まで歩いて丸三日かかりますよ。私達も本来ならこのルートを馬車で向かうはずでしたから地図は頭の中に入れていますし」


「確かに馬鹿正直に真っ直ぐに行けばそうだね」


でも、こういう状況では三日もかけずに帝都に行く方法が存在する。


「だから、向かうのはこっちだよ」


「そっちには村はありませんよ」


村、は、ありませんか。クロハは本当に地図を覚えているらしい。そして、僕が歩き出した方向に何があるか、エルフィナ王国にはかかれていない地形から完全に推測して言っている。


本来ならエルフィナ王国の人には知らせない方がいいが、エス達はこちらに向かっているはずだから大丈夫だろう。


「こっちでいいんだよ。この先にあるのは基地。ルーンバイト王国対策に作られた頑固な天然の要塞だよ」


そう言いながら僕は近くに見える山を指差した。

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