第五話 森の中
色々ありました。私生活で様々なことがありもう一つすら全く更新していませんでしたがようやくです。
とりあえず、約一年半ぶりですw
いた。
茂みに身を隠したまま僕とクロハは標的を見つけていた。
角を生やしたアレファント。周囲には叩き潰された人と馬。さらには馬車の木材の破片が散らばっている。アレファント達はそこから周囲を警戒するように動きを止めていた。
まるで、何かを待っているかのように。
「行きますか?」
クロハが鞘から剣を抜き放とうとするが、僕はそれを手で制した。
アレファント達が何かを待っているとするなら、もう少し様子を窺った方がいい。そう諭したいけど声を殺してそんなに言うのは難しい。
今は、敵に見つからないように隠れたまま隙を窺わないと。
クロハも何となく理解してくれたのか柄から手を放す。それに小さく頷きながら僕は茂みから様子を窺った時、灰色のローブを着た集団が現れていた。
数は八人。アレファントはそれを見ても動くことなく周囲を警戒している。
「アレファントが人の言うことを聞くなんて」
「この地域では珍しくないことでは?」
「それはないよ。本来、アレファントはあそこまで大きくならない。あいつらが何らかの形で関わっていると考えるべきだね」
「なるほど。あの数のアレファントにあの人達全員が魔法使いだとしたなら」
「倒せないわけじゃないけど苦戦は必須。それに、アレファントだけを僕達と戦わせて逃げるかもしれない。僕達はあの人達の後を追いかけないと」
「そうですね。でも、どうや」
クロハの口を塞ぐ。何故なら、あいつらの中の一人がふとこちらを向いたからだ。クロハもそれに気づいたから塞がれた手をどけようとしない。
これだけ離れているなら普通は見つからないけど。
普通なら見つからない。そう、普通なら。
僕達は茂みからすかさず飛び出した瞬間、僕達がいた場所で光が弾けた。反応が遅れたらやられていた。
すかさず前に踏み出しながら加速しようとして、
「やあ、こんにちは」
目の前にこちらに気づいた一人、いや、少年がいた。無邪気そうな子供の顔。ローブの中から覗く灰色の髪。だけど、その瞳には狂気を宿している。
すかさずレイピアを抜き放とうと力を込めた瞬間、世界が回転していた。いや、地面に叩きつけられていた。
「危ないな。さすがにその速度で斬りつけられたならさすがの僕でも命はないよ」
「なら、これで!」
クロハが剣を振り抜く。だが、少年はそれを一瞥しただけだった。
剣が少年の体に当たり甲高い音を鳴らせる。それと同時に剣が半ばから折れた。
「加護を受けない武器では傷一つつけられないね。ねぇ、お姉さん」
少年が無邪気に笑みを浮かべる。
「一度、死んでみる?」
その言葉に僕は動いていた。すかさず立ち上がりながら最速での体当たり。そして、レイピアを鞘から抜き、
「僕はお兄さんと遊んでないんだよ」
首筋に僕のレイピアが突きつけられていた。反応出来ない速度に僕は完全に動きが止まる。
「今、このまま僕が前に出ればお兄さんは死ぬよね。でも、殺さない。だって、お兄さんは必要な道具だから」
「道具?」
「うん。お兄さんを操れば強い兵士になれる。とびきりの兵士にね。だから、僕の手駒になってよ」
狂っている。
まるで人を人と扱わない所行に僕は目を見開いていた。クロハも同じことを思ったのだろう。だけど、どうすることも出来ない。
力の差は歴然なのだから。
「くっ」
「こんなに圧倒的な力の差を出しているのに頷かないんだ。強情だね」
「強情という言葉で片付けられたくないね。僕だって覚悟しているから」
「覚悟? いい、いいよ、お兄さん。僕が何者かわかっていないのに覚悟を決めている。面白いね」
その言葉と共に僕は動いた。魔法効力文字の力を発揮しながら少年を蹴り飛ばす。
「クロハ。逃げて」
「でも」
「狙われているのは僕だ。クロハは逃げてみんなを」
「この状況の中で逃げられると思っているのかな?」
少年がゆっくりと立ち上がる。その言葉に周囲を見渡すと囲まれていた。アレファントによって。
数は8。全部に角があり、体格は大きい。数は問題ではないが、問題はローブの集団。
「見られた以上、生かしておくわけにはいかない。もし、僕達の手駒になって戦うなら」
「お断りだ。僕はお前の手駒にはならない」
「私が仕えるのはあなた達のような悪党ではない」
「二人共子供なんだから」
子供? 目の前にいる少年の方が年下だ。まだ、十歳くらい。僕はもう大人と見なされる年なのに。
「シン。遊んでいないですぐに片付けろ。盟主は待っているのだぞ」
「あー、はいはい。おっちゃんを待たせるのは悪いかな。じゃあ、さっさと」
「終わらせることが出来るとお思いですか?」
その瞬間、アレファントの一角が崩れ落ちた。正確にはねじ曲げられるように潰れながら崩れ落ちた。
この攻撃が出来る者は限られている。
「クロムウェイ」
「ギルバート様。申し訳ございません」
「謝るな。助けに来てくれたことが嬉しい」
クロムウェイの後ろに何人かの騎士がいる。
王族親衛隊。ルーンバイトの騎士団の中でも最強クラスのメンバーだけが緊急時に選抜するエリート集団。
もちろん、隊長はクロムウェイで副隊長はエスだ。
「なるほど。出来る人達が来たようだね」
シンと呼ばれた少年は目に狂気を宿らせながら笑みを浮かべる。対する僕達は全員が武器を構えた。
「ここで追いかけられたら迷惑だね。よし、殺そう。まずは一番弱いお姉さんからだ」
その言葉にクロハが反応して懐からナイフを抜いた瞬間、シンはクロハの目の前まで移動していた。そして、手を伸ばして、
「光よ!」
神速の加速を伴ったレイピアがクロハに伸ばされたシンの腕を大きく上に弾いた。そして、すかさずシンに向かって光の刃を纏うレイピアを振り下ろす。
『飛竜斬月』。
最速の振り上げを行い返した刃で振り下ろす。相手の攻撃を弾き攻撃する技。だけど、レイピアの先がシンを傷つけることは無かった。
シンは大きく後ろに下がる。その隙にクロムウェイ達は僕らを囲んで防御陣形を取った。
「一筋縄ではいかない相手ですね」
「やられかけた。クロムウェイ達も気をつけて」
「はい」
クロムウェイが漆黒の剣を抜き放つ。すると、それを見たシンの表情が変わった。
「それは、ラファルトフェザー。なるほど。ルーンバイトの双剣にシュナイトフェザーとラファルトフェザーがあるようだね」
「ラファルトフェザーを知っている?」
脳裏に浮かぶのはちょっと前に僕を襲ってきた奴ら。そいつらもシュナイトフェザーとラファルトフェザーを探していた。
クロムウェイが静かに前に踏み出す。
「ラファルトフェザーを知るか。あなたは何者ですか?」
「僕? 僕は観察者だよ。さて、相手にラファルトフェザーがいるなら分が悪い。ここは引かせてもらうよ」
「待て! シン! 盟主が」
「うるさいな。殺すよ」
味方に向かって放ったその言葉には間違えようがないほどの殺気がこもっていた。それに誰もが反応出来ない。いや、反応してはいけないと理解する。
おそらく、この場であのシンをどうにか出来るのはクロムウェイだけだろう。
「おっちゃんには悪いけど僕には僕のやることがあるからさ。幸運だけは祈っているよ」
その言葉と共にシンが消え去る。どういう理屈かはわからないけど、視認出来ないほど速いなんて人間技ではない。
「アレファント! あいつらを殺」
「『聖皇刃・抜刀』」
指示が飛ぶより早くクロムウェイが漆黒の剣を振り抜いた。
クロムウェイの剣技は僕やエスとは違い力技というのが多い。ただ、力技でありながら動きは確かなものであるため相対すれば突き崩す方が難しい。
漆黒の剣が四つの軌跡を描くのと同時に離れた位置にいたアレファントが全て捻れてまるで濡れた雑巾を絞ったかのような姿で血を撒き散らす。
クロハがその光景に驚いて小さく悲鳴を漏らすが、クロムウェイの剣の力を知っていれば予測出来るものだ。
「なっ、バカな。アレファントが、瞬殺だと」
クロムウェイが漆黒の剣を一番近くにいたローブの男に向ける。
「あなた達の力は全て破壊させて7らいました。これ以上来るなら容赦はしませんよ。大人しく武器を」
「クロムウェイ、ストップ」
僕は周囲を見渡す。そして、見つけた。すかさず抜き放っていたレイピアを鞘に収める。そして、駆け出す。
「そこ!」
全速力で駆け抜けながら目的地に向かってレイピアを抜き放つ。
「『閃光刃・雷切』!」
一撃の速度なら僕が知る中でも最速。まるで雷光のごとき神速の刃が茂みを吹き飛ばす。
「避けられた!?」
茂みから僕の一閃を避けた人物は大きく上に飛び上がり枝の上に乗っている。
「女の子?」
そこにいるのは小さな、レイナと同じくらいの女の子。その背中には透き通るような蒼い斧。ただし、女の子の背丈ほどの大きさの斧。
女の子が静かに斧を掴む。
「ギルバート様!」
クロムウェイが僕の名前を呼ぶ。だが、呼ぶだけで動かない。いや、動けない。
女の子が斧を掴んだその動作だけで今にも殺されそうな感じがした。気を抜けば瞬殺される。
「ようやく、見つけた」
「見つけた?」
その疑問を投げかけた瞬間、目の前に女の子がいた。そして、僕のレイピアを握らない左手を掴んでくる。
「見つけた。フェルデの血族」
「フェルデ、の血族、っつ!?」
少女の手を振り解きながら横に跳んだ瞬間、目の前を斧が通り過ぎていた。
それを避けれたのは幸運というべきだろうか。
「避けるな!」
「無茶言わないで!」
僕は悲鳴のような声を上げながら大きく後ろに跳ぶ。
「フェルデの血族ってなにさ? 君が何を言っているのかよく」
「アクセルティアーズ!」
少女が僕に向かって叫ぶ。だが、あいにくとその名前に聞き覚えは無かった。
「アクセルティアーズ?」
「フェルデの血族なら何故わからない! フェルデの血族なら秘宝は知っているはず!」
いつの間にか少女は僕の胸ぐらを掴んでいた。
「確かに僕はフェルデだよ。ギルバート・フェルデ・ルーンバイト。確かに君の言うフェルデの血族かもしれない。でも、僕は六歳の時にルーンバイト家の用紙になったからフェルデ家の秘宝なんて知らないよ」
「そんな」
少女が僕から手を放す。まるで放心したかのように少女が後ろに下がる。その瞬間を狙ってクロムウェイが走り込んできた。
「ギルバート様!」
「ラファルトフェザー!?」
クロムウェイが持つ剣を見た少女が僅かに動揺する。その隙を狙ってクロムウェイが黒い剣を振り抜こうとした瞬間、僕は二人の間に入っていた。
「ちょっと待って」
「ギルバート様?」
クロムウェイが驚いて立ち止まる。少女も目を見開いて驚いていた。
「えっと、君の名前は?」
僕は少女に話しかける。
「メリル」
「メリルが探しているアクセルティアーズだったっけ。それの手掛かりならあるかもしれない」
「本当に!?」
メリルの表情が輝く。
「フェルデ家の領地を僕は知っている。だから、一緒に行かない?」
「ギルバート様! 危険です! もしギルバート様に危害が加えられたら」
「もしその気なら、僕達は今頃全滅している」
その言葉にクロムウェイは息を呑んだ。
クロムウェイもわかっているようだ。メリルは小さな身なりでもルーンバイト家最強の二人であるクロムウェイやエスよりも強い。
もし、僕が反撃していたら文字通り瞬殺されていたかもしれない。
「私は攻撃して来ないなら何もしない」
「メリルは強すぎる。だから、彼女が何を求めているか見つけたいんだ」
「私は反対です。私ですら止められない存在を連れて行くなど」
やはり厳しいか。こういう時はあれしかないね。
「使いたくはなかったけど、ルーンバイト家の名において命じるよ」
「ギルバート様、一つお聞かせください」
クロムウェイが真剣な表情で僕を見てくる。
「ギルバート様はその娘に惚れたのですか?」
「えっ?」
メリルが僕から露骨に離れた。
「変態?」
「違う! メリル、誤解だよ! 僕は」
「ロリコン」
離れた位置にいたクロハがボソッと呟いた。
確かに許嫁がクロハだから全く否定出来ない。
「僕はただ、彼女が困っているみたいだから助けたくて」
「ギルバート様、皆まで言わないでください。わかっていますから」
「絶対にわかってないよね、絶対に、わかってないよね!」
僕の叫びが聞き入れられることはおそらくないだろう。