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第四話 姉妹

かなり間が空きましたが更新です。

リューナ姫は完全に絶句している。当たり前だ。どう考えてもこの場で討ち捨てられても文句は言われない状況。エルフィナ王国という大きな国家に小さな国家が喧嘩を売ったのと同じこと。


でも、みんな僕を支持するだろう。ルーンバイトはそんなに安い国じゃない。


周囲を見渡した僕はリューナ姫に手を差し出した。


「立てる?」


「ど、どういうつもりですの? あ、あなたは、わ、私を」


「ああ、もう。立って!」


僕は少し強引にリューナ姫の手を掴んで無理やり立たせた。そして、未だに上手く力の入っていないリューナ姫の体をクロハに預ける。


「ここにいたら危険だから。落ち着いて聞いてね。囲まれてる」


クロハが一瞬だけハッとして周囲を見渡そうとするが、それをリューナ姫が手を掴んで止めた。


悪評の方が有名だけど、なかなかに頭が回るようだ。


「このままエスやリヨンの所に向かう。リューナ姫、走れる?」


「走らなければ死ぬのはわかっています」


「クロハ。リューナ姫をお願いね。僕は蹴散らしながら殿軍を勤めるから」


「わかりました。リューナ姫」


「行きますわよ!」


リューナ姫が走り出す。その横を追随するようにクロハが加速して僕もレイピアを振り上げながら前に踏み出した。


レイピアの魔法効力文字が力を発揮して光を纏う。


「ぶち抜けっ!」


そのまま光の刃が前方の茂みを吹き飛ばした。ちょうどそこには迷彩姿の男。怯んだその男にクロハが飛びかかりすかさず吹き飛ばした。


リューナ姫がそこを駆け抜ける。おっ、案外足が速い。


「後は守りながら」


「ギルバート・F・ルーンバイトだな」


走り込もうとした瞬間、いつの間にか迷彩姿の男達に囲まれていた。クロハがこちらを振り返るが僕は先に行くように目で合図する。


狙いはリューナ姫じゃなくて僕か。


僕は腰を落としてレイピアを握り締める。


「そうだとしたなら?」


「シュナイトフェザーとラファルトフェザーはどこにある?」


シュナイトフェザーとラファルトフェザー。こいつらの狙いはそれなのか。


囲んでいる数は15人か。隠れたところに数人いるとして、大体20人くらいと考えるべきだよな。


「答えろ!」


「答えると思うのか? ラファルトフェザーもシュナイトフェザーもお前達に渡せるほど簡単なものじゃない!」


「ならば、死ね!」


迷彩姿の男達が踏み込んでくる。対複数との戦いは基本的に複数から攻撃されないようにしないといけない。


背後を気にしながら僕は前に向かって一歩踏み出した。


相手の武器は、全て素手?


すかさず目の前の男の懐に飛び込んですかさず背後に投げ飛ばした。ちょうど背後から迫っていた男とぶつかるのを見ながら僕はその場を踏みしめレイピアを一閃する。


光の刃を纏ったレイピアは拳では弾かれない。そう思った瞬間、レイピアが大きく弾かれていた。


「なっ」


レイピアが僕の手から離れたその瞬間、僕は地面を舐めていた。今、何が起きた?


「もう一度聞く。シュナイトフェザーとラファルトフェザーはどこだ? 死にたくないなら答えろ」


「誰が答えるか」


睨みつけながら答えた瞬間、視界に星が舞った。そして、背中から木に叩きつけられる。


殴られたのか? 全く攻撃が見えなかった。


「我らは無駄に命を散らせたくはない。だが、そちらが強情ならば例えルーンバイト王国の王子であっても」


「ルーンバイト王国の王子だから、僕は言わない」


しっかりと足に力を込める。そして、レイピアを握り締めてしっかりと構えた。そして、男達を睨みつける。


ルーンバイト王国の王子だからそんな大事なことは言えない。言うわけがない。だから、僕は戦う。


「光よ!」


「馬鹿な王子だ」


男達が踏み込んでくる。踏み込みはかなり速い。だから、僕は迎撃しようと踏み出そうとした瞬間、


何かが落ちてきた。


ちょうど真ん中の位置だから僕も男達も動きを止める。あまりに唐突のことだったからだ。


あのタイミングでまさか女の子が上から降ってくるなんて。


「あいたたた。あれ? もしかして、やっちゃいました? やっちゃいました?」


女の子は周囲を見渡しながらうろたえる。ドレスみたいな服装をしている女の子でリューナ姫に似ているような。


ドレスみたいというのは至る所が破けているからだ。女の子としてどうかと思うけど。


「あっ、ギルバート・F・ルーンバイト様ですよね? ですよね?」


「そうだけど」


男達が視線で知り合いかどうか聞いてくる。だから、僕は視線で知らない人と答えかえした。


「私はエレナ・クロート・アル・エルフィナです」


「ちょっ!」


こんな場所での暴露に僕は思わず声を上げていた。名前からしてリューナ姫の妹。そんな大事な王族がこんな場所にいるなんて。


僕が驚いた瞬間には男達は動き出していた。僕に向かって駆け出してくる。どうやらエレナ姫は無視みたいだ。そっちの方がかなりありがたい。


レイピアを握り締めて一番先に向かって来る男に対して光の刃を叩きつけようとした瞬間、視界の隅で何かが動いた。それと同時に視界の隅で男達が吹き飛ぶ。


僕はとっさに後ろに下がり、男達も後ろに下がった。誰かと背中が合わさるがおそらくエレナ姫だろう。


「大丈夫ですか?」


「エレナ姫。今のは」


「武闘術です。護身用で習っていたのが役に立ちました」


「武闘術か。珍しいものを使っているね」

魔法効力文字によって戦術がガラリと変わった今、武闘術のような近接の自らの拳を使った戦闘はまずお目にかかれないというレベルまで少なくなっている。


だが、達人なら確かに魔法効力文字を超える威力を出すことは難しくないだろう。さっきのレイピアを弾かれたのはそういうことかもしれない。


「ギルバート様。私はギルバート様より年下ですし、エルフィナ王国の中でも王位継承権は下なので姫はつけなくていいですよ」


「じゃ、僕も様付けは無しでお願いね、エレナ」


「わかりました。ギルバートさん」


僕は周囲を見渡す。完全に囲まれているが背後にエレナがいるからか安心出来る。これなら戦える。


「ちっ、どうあってもシュナイトフェザーとラファルトフェザーの場所を吐かないようだな」


「何度言われても吐かないよ。吐かせたいなら僕を操ることだね」


「言われなくてもそうさせてもらう!」


男達が動き出した。一斉に僕達に向かってきている。僕はレイピアを握り締めて一歩踏み出した瞬間、閃光が駆け抜けた。


正確には最高速まで達したエスが鞘から純白の剣を抜き放って一瞬で数回切り払っただけなんだけどね。


「大丈夫、だったね」


「ちょっと待って。エス、どうして過去形なのかな?」


「クロハからギルが危険だって聞いていたのに女の子と背中合わせだなんて。お姉ちゃんはギルを斬りたくなってきたかな」


「エスが言ったら冗談に聞こえないし、シュナイトフェザーを抜きながら言わないで!」


「なっ!」


その言葉に男達の動きが止まった瞬間、僕達は動いていた。


反応されるより早く距離を詰めてレイピアを振り抜く。振り返ればエレナの回し蹴りが盛大に男達を吹き飛ばし、残った男達はエスが刹殺していた。


本当に刹那で倒してる。


「エレナ、大丈夫?」


「はい。ギルバートさんこそ怪我はありませんか? そして、サインください」


「いきなり話を変えないでね。僕は大丈夫かな。今は」


そう言いながらエスの方を振り向くと、そこにはにっこりと笑みを浮かべたエスの姿があった。ただし、その手には抜き身の純白の剣、シュナイトフェザーが握られている。


下手な解答をすれば刹殺されるよね。というか、解答すら出来ないかも。


「ギル? ちょっと向こうの茂みに行ってお話しようか」


「お手柔らかにお願いしたいかな」


「ダメ。エレナさん、少し待っていてくださいね」


「連れションですね。私も行きます!」


「「何で!?」」


さすがのそれには僕とエスの二人は突っ込まざるをえなかった。というか、どうしてそんな考えになるのかな?


「エレナ。僕が女性に見える」


「どっちでも私はサインをもらいます」


「エス。この暴走王女をどうにかして」


「無理だって。あれ? 王女様?」


「エレナ・クロート・アル・エルフィナです。リューナお姉様を追いかけて来ちゃいました。てへっ」


その言葉にエスが固まる。こういうエスって本当に珍しいよね。


「エス。現実を受け入れようよ」


「はっ。私は何を。えっと、もう一度お願いします」


「エレナ・クロート・アル・エルフィナです。王位継承権は九十八位です」


エルフィナ王国の国王がたくさんのお嫁さんを貰っているわけではなく、親族でまとめて王位継承権を作り出す。もちろん、権力闘争でかなりゴタゴタしているけど、何故かバランス良くいっているのが凄いところだ。


本当だったらエレナが一桁であってもおかしくはない。


「ギル、どういうこと?」


「ギルバートさんと友達になっちゃいました」


「どういうこと!?」


「エス、首! 首が締まってる!! 友達はともかく今さっき知り合ったばっかりだから!!」


「ギルバートさんは私を捨てるんですか?」


「紛らわしい言葉を吐かないで!!」


僕の命、ここで終わってしまうかも。


「相変わらず、暴走娘ね、エレナは」


その声に振り向くと、そこには呆れたような表情のリューナ姫に周囲を警戒するクロハ。さらには息を切らしたリヨンの姿があった。


「お姉様!」


エレナがリューナ姫に抱きつく。リューナ姫もエレナを優しく抱き締めて頭を撫でている。


これだけを見るとリューナ姫って優しく見えるんだけどな。


「で、リヨンがどうしてここにいるんだ?」


「いや、さ。馬車が、さ、アレファントにさ、襲われてさ、命からがらさ、生き延びてきた」


「どうせリヨンだけ運動不足で二人についていけなかったんだろ。いや、ちょっと待て。アレファントに襲われた?」


「反応、遅い、ぞ」


行き絶え絶えのリヨンの近くには使者の姿は見当たらない。つまりはアレファントにやられたというわけだよね。


そう考えるとおかしい。角が生えたアレファントの時点でかなりおかしいし、アレファントがここまで集まるのもおかしい。


「ギル。今は目的地に向かわないと」


「だけど」


「おかしいのはわかっている。でも、リヨン皇子やリューナ姫がいる以上、先に向かわないと」


「ちょっと、メイド。可愛いエレナのことを忘れていません?」


「エレナ姫は一人で戦える力があります。ですが、お二人は戦う力がありません」


確かに、二人を守りながら戦うのは得策じゃない。僕もクロハもエレナも同じ実力だと仮定したならそれこそ得策じゃない。


アレファントは真っ正面から戦って何とかなるけど、それ以外で攻められたら難しいのが現状だ。


しかも、防衛しながらだから難易度が跳ね上がる。


「ギルバート。俺はお前に従うぜ。俺は戦う力がないからな。足手まといの俺とリューナ姫の二人を抱えて戦うか、それとも」


「エス。リヨンとリューナ姫、エレナを目的地まで。僕が一人で探すから」


「ギル!!」


エスが叫ぶ。だけど、僕はそれを聞き入れることなく歩き出した。


僕が死んだとしてもルーンバイトへ大きな痛手になることはない。僕はあくまで養子だからだ。レイナが生きていればルーンバイトはどうとでもなる。


だけど、この道をどうにかしなければ商人が困ってしまうだろう。


「待ちなさい。ギルバート・F・ルーンバイト」


その言葉に僕は振り返った。すると、リューナ姫がクロハの背中を押して僕の方に歩かせる。


「クロハ。あのバカをお願いします」


「ですが」


「あのメイドがいれば大丈夫。彼女はルーンバイト最強の一人。だから」


「わかりました」


「じゃ、私もギルバートさんと」


「エレナ」


僕に向かって走り出したエレナの襟をリューナ姫が呆れたような表情で掴んだ。まあ、道中の安全を考えたら来ない方がいいんだけどね。


エスが心配そうに僕とクロハを見ている。そう言えば、エスとクロハは姉妹だった。


「クロハ。ギルのことをお願い。ギルはルーンバイトにとって大事な人だから」


「大丈夫です。お姉様はリューナ様をお願いします」


「うん。お願い」


エスが歩き出した。それを追いかけるようにリューナ姫とリヨンも歩き出す。


「じゃ、行こうか、クロハ」


「はい」


僕達は僕達の目的のために歩き出した。

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