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第一話 始まり

メール執筆中心にやっていくので更新はまったりしています。「新たな未来を求めて」がスランプに入れば更新は早まりますが。電波が良くない場所では携帯もスマートフォン(特にこれ)の電池消費が激しすぎます。

「エス! エス!」


僕は森の中を歩きながらエスの名前を呼ぶ。腰につけたレイピアをいつでも抜けるように注意しながら僕は周囲を見渡す。


この森の中にエスは一人で狩りに出掛けた。エスの実力は王国一だし、あれも持っているから大丈夫だとは思う。だけど、僕に託された仕事はエスの所に向かわないといけない。


「そもそも、どうしてメイドに僕が手紙を渡さないといけないんだ。不思議でたまらないけど、お父様の命令だから仕方ないか。エス! エス!」



そういう風に不満に思いながらも僕は諦めながら歩く。そもそも、エスの能力を考えたら僕が仕事を代わった方がいい。というか、かなりの確率でそうなっていたりする。


そもそも、こんな僕にちゃんとした仕事があるわけではなく、剣術の練習か座学かのどちらかだ。剣術の練習に至っては未だにエスには勝ったことがないけど。


たった三歳しか変わらないのに。


「エスのあの強さは一体何なんだろうな。たった三歳しか違わないのに」


とりあえず、今はエスを捜さないと。クロムウェイの奴が捜しに行けばいいのに。


「本当に二人は付き合っているのか? 大切な彼女ならそちらを優先すればいいのに。それに、何が業務だ。散々僕に座学で教えたことなのに。確かに僕は頼りないけど少しくらいは頼ってくれてもいいじゃないか」


僕は小さく溜め息をつきながら周囲を見渡す。周囲には木々しか映らずエスの姿は見当たらない。


狩りのためにエスは来ているのだからよくいる場所にいるわけじゃないけど、こうも見つからないとなると少し自信がなくなってくる。


一応だけど、エスは僕のお付きのメイドだよな? 自分で思っていてなんだがかなり不安になってくる。


「ともかく、さっさとエスを見つけないとな。今日はどこまで潜っているんだか。それに」


僕は横をチラッと見た。木の影や木の上になるが、そこにラッシュウータンがいた。ラッシュウータンは人を襲う魔物の一種で同じ猿だと甘く見てはいけない。


まさか、こんな場所にまでラッシュウータンが降りてくるなんて。


「最近、本当に物騒になってきたよね。エスからは武器の携帯を勧められていたから持っているけど、おばさん達が薬草の採取に来た時は危険だよね」


僕はレイピアを鞘から抜いた。その瞬間、頭上の木が鳴り振り向いたそこには飛び降りてくるラッシュウータンの姿があった。


数は2。さらに横手からラッシュウータンが迫っている。こういう時での戦闘は上からの攻撃がかなり驚異的だ。だから、僕は横手から迫っているラッシュウータンに向かって跳んだ。


ラッシュウータンが飛びかかってくるより早くレイピアがラッシュウータンの額を貫いた。すかさずラッシュウータンを蹴り飛ばして引き抜くのと頭上から飛び降りてきていたラッシュウータンが着地するのは同時。


「光よ」


僕のレイピアが煌めく。正確にはレイピアに刻まれた文字が輝いていた。


レイピアを光の刃が纏い、僕は一歩を踏み出しながら振り下ろす。振り下ろしながら周囲を確認する。


相手がこちらより多い場合は必ず逃げ道が無いくらい囲まれないように警戒しなければならない。その警戒が出来なければ死ぬと教えられている。


僕はすかさず前に向かって駆けた。慌てたように現れるラッシュウータンをすかさず斬り裂いて周囲を見渡す。


ラッシュウータンの数はそれほど多くない。乱戦になってもラッシュウータン程度なら戦えるだろう。だけど、僕の頭の中にはエスの言葉が浮かんでいた。


『ギルは油断すると弱くなるよね。ギルは強いのに油断する。勝てると思うから、負ける。ギルは少しくらい注意深い方が戦場では生き残りやすいよ』


明らかに主人に対する言葉遣いじゃないけど、無理矢理に敬語を使ったエスがあまりにも気持ち悪かったので僕がそういう風に命じたのだ。


もちろん、これが最初の命令で今の関係を作り出した命令だけど。


「まあ、今は考えなくていいか」


レイピアをラッシュウータンに突き刺してそのままラッシュウータンごとレイピアを投げつける。別のラッシュウータンはそれを避け、僕はレイピアを掴んで横に一閃した。


ラッシュウータンを斬り裂き周囲を確認する。すでにラッシュウータンはオレから距離を取っていた。ただ、距離の取り方が不自然だ。


ラッシュウータンはボスの指示によって動く。なのに、このラッシュウータンは確かに僕を狙ってきたけどまだボスの指示はないはずだ。


怯えている? 違う。逃げているんだ。ただし、僕じゃない。じゃないなら何か。


僕はとっさに振り返りながら後ろに跳んだ。それと同時に僕がいた場所で爆発が起きる。


「なるほどね。どうりでこんな場所にラッシュウータンが出て来るわけだ」


嫌な汗を流しながら僕は少し笑みを浮かべた。そこには身長5mに届かんばかりの巨体を誇る三つ目の巨人がいた。


「ラッシュウータンが来たのは武器を持っている僕に警戒したからだね。じゃあ、ラッシュウータンに退場してもらうために、アレファント、お前にはここで死んでもらうよ」


倒せない相手じゃないはずだ。だけど、一撃でも受ければその時点で即死になるだろう。そして、エスが来た本来の理由はおそらくこれ。


エスがやられるわけがないから遭遇しなかったのだろう。でも、だからと言ってエスに頼るわけにはいかない。


僕は地面を蹴った。そして、アレファントに向かってレイピアを突こうとする。だけど、それより早くアレファントの腕が振るわれた。


とっさに靴底に描いていた文字、魔法効力文字の力を使って加速する。


アレファントの腕はいくつもの木々を薙ぎ払い吹き飛ばす。僕は離れた位置に着地して小さく息を吐いた。


「さすがは巨人族だね。力任せの攻撃速度はやはり侮れない。だけど」


靴に魔法効力文字が輝く。そして、僕は加速した。加速しながらアレファントの隣を駆け抜けてレイピアを一閃する。だけど、アレファントの表皮は硬く、レイピアは簡単に弾かれた。僕の狙いはそれじゃない。からいいけど。


すかさず滑りながら速度を落とす。四肢に力を入れて振り返りながらレイピアを振り抜いた。


レイピアが纏う光の刃が振り向いたアレファントの体を大きく斬り裂いた。


エスから教えてもらった必殺の技。相手の防御力がこちらより高い場合に有効な技だ。駆け抜けた勢いを剣に乗せて振り下ろす技。


名を『閃光』と言う。


だが、手応えは浅い。僕は小さく舌打ちをしながら大きく後ろに跳んだ。


エスなら城門すら斬り裂くのに。


「未熟者だったら駄目ってことかな。エスから教えられ剣技は難易度が高いよね」


僕は小さく息を吐いて軽く後ろに下がる。アレファントの拳は空を裂いて木々を吹き飛ばす。


「でも、アレファント相手だったら使わないわけにはいかないか」


心は動くことの無い川面に映る自分のように。揺るぎなく、そして、前に進む。


踏み込みながら駆け抜ける。冷静に、そして、正確に、刃を宿したレイピアを振り抜いた。


「『絶閃・八星刃』」


駆け抜けながらの八連閃。全てを『閃光』で斬り裂いたところに叩き込んだ。まだ未完成だから半分くらいは失敗したけど、残る半分くらい叩き込めた手応えはある。


エスはこれを予備動作無しで済ますから僕も出来るようにならないと。


僕はゆっくり振り返る。すると、アレファントが前のめりに倒れるのが見えた。ズシンと音が鳴り響き、僕は小さく息を吐く。


「さてと、後はエスを捜すだけか」


「ギル?」


その声にオレは振り向いていた。そこにはメイド服姿で短い黒髪をした少女がいた。腰には純白の剣が差されている。その背中には少女の倍以上あろう大きさの猪が背負われている。


「どうしてここに?」


「エスへの届け物、だったけど、これまたレアなものを捕まえたね」


「でしょ? 原生生物種の群れと会えるなんて光栄だったな。もうちょっと山を登れば原生生物の宝庫だし」


「ラッシュウータンの宝庫がその前にあるけどね」


そんな場所の奥にある宝庫なんて絶対に行きたくはない。


「でも、ギルはどうして?」


「エスに届け物。そもそも、どうして僕がお付きのメイドに対して届け物をしなければならないんだか」


「それはギルの立場が弱いから。陛下からよく言われているじゃない。民の心がわからなければそれは王ではないって」


それはわかっている。お父様は王家を長く保ちたいがために言った言葉じゃないってことも。


というか、民の心をわかるために雑用させられる王族も間違っているような気もするけど。


「ともかく、ありがとう。届け物は?」


「はい」


僕はポケットから手紙を取り出してエスに渡した。エスは手紙を受け取って差出人を見て顔を綻ばす。


差出人の名前はクロハ・エレンティナ。おそらく、エルフィナ王国の騎士団長バルト・エレンティナの関係者だろう。


「クロハが手紙を寄越すなんて珍しいな」


「知り合い?」


「妹。あっ、兄さんからもだ」


「ちょっと待て」


僕の顔は完全に引きつっていた。今、エスは何て言った?


「妹? 兄さん?」


「クロハ・エレンティナとバルト・エレンティナ。兄さんならギルも知っているんじゃないかな?」


「エスって、エスペランサ・マリエラじゃなかった?」


「エスペランサ・E・マリエラだけど?」


そういうことね。


「スパイ?」


「ないない。今の私はギルバート・F・ルーンバイトのメイドだから。私の主はギルだけ」


「そういう割には扱いが存外なような気もするけどね。というか、お父様に仕えているんだろ」


「あー、そこは話せば長くなるんだけどね。屋敷に戻ってからでもいい? クロハ達のことも教えてもいいかな」


可愛く首を傾げながら言ってくるエスに僕は小さく溜め息をついた。


「そうして欲しい。僕もかなり疲れてきたから」


「軟弱者だね」


「殴っていいよね?」


「殴れるなら」


握り締めた拳を溜め息と共に下ろす。そして、僕は歩き出した。


「帰るよ」


「うん」


エスの声を聞きながら僕は屋敷へと歩を向けた。今頃、お母様は何を作っていてくれるかな。


「シチュー」


「人の思考を読むのは止めてくれないかな?」


「あははっ。ギルだから読むの。ギルとクロ以外の思考なんて戦闘中以外は読むつもりはないし」


「はぁ」


僕は小さく溜め息をつきながら、でも、笑みも浮かべながらエスが追いかけてくるのを感じながら足を速めた。

レイ達の物語と慧海達の物語と繋がっていますが、魔法や魔術に関してはそれぞれ違います。レイ達が魔法とするなら慧海達は魔術。この物語はちょうど中間みたいな性能です。

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